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第十一話 『主人公が旅立つ話。』

未だに暗殺に関する情報は分からないままだが、それでも時間は待ちはしない。


リナティアは、二人に聖剣と神槍を渡すことにした。


二人とも十分に魔力を扱えるようになれば、躊躇うこともない。


残りの時間を使い、恵人と利一はそれぞれの武器能力を引き出さなければならないのだ。




宝物庫から運び出された神槍は、実に美しかった。


利一は前にもそれを見たことがあったが、それでも『風神の長槍』は彼の目に美しく映った。


「ではトシカズ様、これをどうぞ。」


リナティアから神槍を受け取った利一は、まずその『軽さ』に驚いた。


(これは、もし振るっても威力が出ないんじゃないか?)



下手をすると、練習に使っていた木の棒よりも軽いかもしれないのだ。



聖剣の保管場所は別にあるようでリナティア達は去ってしまったが、利一はとりあえず演習場で試し切りをしてみることにした。


________________________________________



演習場についた利一は、神槍で素振りをしていた。



(動きやすい、その上力強い突きもできる。)



これが『風神の長槍』の能力だ。


利一から魔力を受けた神槍は、その周囲に風を纏う。


利一が槍を振るうたびに、その風は槍の軌道をイメージに基づいてサポートする。


さらに、突きを放つ際にはその速さを倍にする。



これらによって、槍の軽さによる威力の減少はほとんどない。


(むしろ、力押しより技術で槍を振るう俺にはちょうどいいか。)


戦術を変更するのは、出発までの期間的にも不可能だった。





利一が演習場に来て二十分ほど経った頃に恵人がやってくきた。



その手に持っている聖剣が青白く光る。


聖剣の名はアトラス。


一流の鍛冶職人であり、数多くの聖剣を手がけてきた実力者でもあるラグナ=エストラルの作の一つ。


青と白を気品よく組み合わせた、芸術品にも思われる逸品。



最初こそ軽く素振りをしていた恵人だったが、聖剣に魔力を通し始めた時、利一は思った。



(ああ、こいつはもう駄目だ。次元が違う。)




恵人が剣を振るうたびに、衝撃波で演習場の土が抉れていく。



利一は、驚くよりも、後片付けの大変さに頭を抱えるばかりだった。


________________________________________



毎日朝起きてはトレーニングをし、神槍を振るい、魔法の練習をする。


そんな日々が二週間続き、とうとう聖地へと旅立つ日がやってきた。



「まずは聖地に最も近い町まで三日かけて行きます。町で一日ほど物資を補給したのちに、聖地へ向かう予定です。」



リナティアが城門の前で旅の行程を説明する。


説明が終わり次第、旅に同行する他のメンバーと対面、出発となるため、今日の利一はいつにも増して静かである。


今日はメイドさんにちょっかいも出さなかった。本当の真面目モードである。



(こういう時は第一印象が大事だ。うん、メンバーとは短い間だとしても仲良くしていきたいな。)


その真面目さも、ただの緊張からのものだったが。


「聖地の中には私も滅多に入ることがありませんので、現在どんな状況なのか分かりません。目的の神殿まではすぐですから、聖地に長く留まることはないでしょう。」


白龍の聖地に少し不安を抱きつつも、恵人と利一はこの世界を見て回れることに大きな期待を持っていた。




リナティアの案内で城門へと辿り着いた二人は、そこにいた同行者達を見て驚いた。


「左から、『火の巫女』であるルフナ=カナ=ユーフェン。」


綺麗な紫色の髪と黄色の瞳を持つ少女は、紹介に答えるよう一歩前に出て礼をする。


「真ん中の彼女は、『風の巫女』であるエイリ=ルゲン=ナキルエ。」


次に紹介されたのは、蜜柑色の髪と目を持った少女だ。


二人の巫女よりも一回り小さい体をした彼女は、緊張した面持ちでお辞儀をした。


「最後に右の彼がリボルブ=グレン=アーティ。第三近衛騎士団の騎士です。」


鮮やかな赤髪と自然な灰色の瞳が一際存在感を出している、若い男が前に出る。


「この度は騎士団長より推薦を受け、旅に同行させて頂くことになりました。よろしくお願いします。」


丁寧な挨拶と深い礼をすると、また元の立ち位置に戻る。



リナティアは既に全員と面識があるため、自己紹介の必要はない。


今度は利一と恵人が自己紹介をする番だ。


最初に利一。


「名前は利一。召喚魔法で異世界からきました。よろしくお願いします。」


言い終わったところで深く礼をする。相手に礼を示されたら返すのは常識だ。


次に恵人。


「俺の名前は恵人。利一と同じく異世界から召喚されました。よろしくお願いします」


こちらも、全員に対して礼を返す。




そして、その後で握手をして回る。



利一としてはもう言葉が出なかった。


(こいつは日本人なのか? 髪の色からして外国の血が流れてそうだけど…これが『外人の血』の成せる技なのか。クソっ、羨ましいじゃねえかこのヤロウ!)


利一の僻みは心中に留めはしたが、酷いものだった。



「お二人は元の世界でもお知り合いだったのですか?」


そんな質問をいったのは、ルフナ。



「いや、同じ国の出身だけど赤の他人だよ。」


利一が答える。


ルフナはそうですか、と呟いた後に思案にふける。


「では、馬車に乗り込んで下さい。」


門の方を見れば、そこには二台の馬車が止まっている。


さっきのメンバーに馭者二人を加えて、旅をするようだ。




二台の四人乗り馬車。


一般的に言うなら、ここは男女別に乗りこむのが妥当だろう。


もちろん、利一もそうなると思っていた。




「ヤスヒト様、同じ馬車に乗りましょう。」


ルフナがそんな事を言って、恵人を連れて乗り込みさえしなければ。




(魔力残量…オールグリーン。体力…セーフティ。よし、いつでも れる)


利一は、特に意図することもなく、無意識中で身体状況が戦闘出来るか否かを調べていた。



やはり、暗殺されそうになったことを考えれば、いつも戦いに備える必要があるのだろう。


決して、恵人を消すために、戦闘準備をしたのではない。



利一が全力で素振りをしようと神槍を構えようとする前に、もう一つ大きな出来事が起こる。







「私はトシカズ様とお話がありますので、二人でこちらの馬車に乗ります。」

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