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プロローグ

 当時、僕らは小学2年生だった。

家の玄関が開いたと思ったら、彼女が唐突に大きな声を投げかけてきた


「ケイ!私、面白い所を見つけたんだ!一緒に行こう!!」


彼女がいきなり僕の家に来てそう言ったのは、もう蝉の声も聞こえなくなってきた八月の暑い日だった。

「はぁ?」

 夏休みの課題プリントと格闘していた僕は素っ頓狂な返事を玄関に向けた。


「とっとと来てよ!速く!」

とっとと来てよ!じゃねぇよ。


僕の返事を待たずに、彼女は家の外の自転車にまたがっていた。理不尽だと思う。

だけど哀しいことに、幼稚園の時から一緒に遊んだりしている所為で、彼女にいまさら文句を言う気にもなれなかった。

軽く溜め息をついてから、僕はプリントの束を片付けて車庫の奥の自転車を出してきた。

3段ギアもない小っちゃい自転車はすでに錆び付いていた。

今度は更に深い溜め息をついて自転車のロックを蹴りつけた。

彼女はちょっと離れた場所で、僕が走り出したことを確認して速度を上げた。

女の子にしては力強いペダリングでぐんぐん僕を突き放す。ちょっと男として情けない。

ただただ彼女の背中を見ながら、僕はペダルを左右交互に踏み続けた。

急ごうよ、と急かす彼女の自転車についていった。


カラカラカラ。

車輪が回る。2つの自転車は一定の速度で、一定の間隔でただ走った。

アスファルトを割って生えている向日葵。

畑に立てられてTシャツを着ているかかし。

交差点を行進する猫の群れ。

自転車で通り過ぎながら見る物は、いつもとは違って見えた。

遠くで夕日が沈みかけて、河川敷を朱色に染めた。


一体何処まで行くんだよ、そう言おうとした途端に目の前の自転車が止まった。



「ここだよ、ケイ。」


僕は言葉を失ってそこに立ち尽くした。

彼女は静かに笑っていた。

僕を見つめて、手を広げて陽を浴びた。


それはまるでひとつの風景画のようだった。

朱色の太陽光線が染める風景の真ん中に彼女は「居た」。

高校3年生になってもその光景を忘れることはできない。

その美しさだけがまぶたの裏で今でも輝いている。



 僕らは朱に染まった世界でただ立ち尽くしていた

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