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あなたと生きたいと思うのです。  作者: 津森太壱
【あなたがいるだけで。】
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01 : 想いが力。

*未来編です。






 子どもから見る親というのは、世界の基本というか、世界の基盤というか。

 なにごとも、親の姿を見て学び、確認し、子どもは成長していくのだと思う。


「なにしてんの、シュエ」

「みればわかるだろ」

「わかんないから訊いてるんだけど?」

「みてわかんないの? ばかだねえ」

「……シュエオン?」

「なに」

「あんたに魔導師の力はないのよ?」

「……、そんなのしってるもん」


 父親が魔導師であるせいか、自分も魔導師かもしれないと思う子どもがいても、それはおかしくはない。

 けれども、魔導師の力は、遺伝性があるわけではない。翼種族である王族が持つ異能から派生した魔導師の力は、翼種族であれば遺伝性がある。翼種族ではないのに魔導師の力を持って産まれた場合、それは先祖返りであるとされている。遠い過去の先祖が翼種族と契りを交わしていたかもしれないということだ。

 ゆえに、いくら父親が魔導師であっても、翼種族でない魔導師なら、子にその力が遺伝することはまず滅多にない。


「どうしました、アサリさん」

「ん、あれ」

「……シュエオン、ですか?」


 どう思う、とアサリはイチカに問う。首を傾げたイチカは、その足をゆっくりとシュエオンに向け、そばまで行くと膝を折った。


「練成陣ですね。上手く描けています」


 褒めるところではないと思うのだが、とアサリは小さくため息をつく。


「これがばいたいになるんでしょ?」

「ええ、そうです。シュエはなにを想ってこの練成陣を描いたのですか?」

「そらをとぶの!」

「空を?」

「ひゅーんって、とりみたいに!」


 調子に乗らせないほうがいいのに、とアサリは思ったが、言ったところで無駄なことはわかっている。


「ねえ、どうしてぼくたちはとべないの?」

「翼種族ではありませんからね」

「ローザさまはとぶよ? カヤさまも」

「雷雲さまは翼種族ですし、カヤさまは力の強いお方ですから」

「どうしてぼくたちだけ……」

「いつか飛べるようになりますよ。この練成陣でね」

「ほんとっ?」

「ええ」

「ぼく、まどうしになれる? ちから、ないけど」

「努力すれば、魔導師になれるでしょうね」

「ぼくがんばるね!」

「はい」

「わーい!」


 飛び跳ねて喜び勇むシュエオンに、イチカはただただ微笑む。罪作りなことをしている自覚があるのかないのか。


「無責任なこと言わないでよ、イチカ」


 はあ、とため息をつきながら、そばに戻ってきたイチカに文句を言った。


「魔導師になれないってわかったときに、どれだけ絶望すると思ってるの?」


 可哀想なことをするな、と言えば、イチカは不思議そうに首を傾げた。


「可哀想、ですか?」

「そうよ」

「……僕は嘘を言ったつもりはありませんが」

「無責任なことは言ったわよ」


 シュエオンのあの喜びよう、このあとどうやって魔導師にはなれないのだと説得すればいいのか、悩みどころだ。


 しかし。


「シュエは優秀な魔導師になれると思うのですが……」

「だから、それが無責任だって言って……、え?」


 思わず訊き返した。


「魔導師になれる?」


 どうして、とアサリは瞠目する。


「練成陣です」

「あの落書きがなに?」

「今は不完全ですが、そのうち発動しますよ」

「……うそ。どうして」


 シュエオンに魔導師の力はない、はずだ。今までそれらしき兆候もなかったのだ。


「前に言いませんでしたか? 想いが力だと」

「聞いたけど……」

「練成陣は力の媒体です。練成陣を使って力を使う魔導師もいるのです」

「それも聞いたわ。それで、どうしてシュエが?」

「練成陣とは、教えられて描けるものではありません」

「……え?」


 それはいったいどういうことだ、とアサリは首を傾げる。


「自分で作る媒体、それが練成陣です。ですから、魔導師は誰ひとり、同じ練成陣を使いません」

「……それって」


 シュエオンは魔導師の力を持っている、ということになるのだろうか。


「どうしてシュエが……だってあの子」

「先祖返りでしょうね」

「誰の」

「アサリさんの」

「わたし?」


 魔導師の力など、アサリは持っていない。


「初めて王都の祭りに行ったとき、アサリさんとはぐれましたよね?」

「ええ、憶えてるわ。けど、それがなに?」

「あのとき、僕は雷雲さまに人捜しの呪具を借りて、アサリさんと一緒におられた陛下を捜しました。そのときに、なぜかアサリさんの姿も見えたのです」

「……どういうこと?」

「つまりアサリさんにも、微弱ながら魔導師の力があるということです」

「わたしにっ?」

「はい。ですから、それがシュエに受け継がれたのだと思いますよ。僕は練成陣の描き方をシュエに教えていませんからね」


 わたしに魔導師の力なんて、と説明されても信じられない。


「イチカみたいなことできないんだけど」

「今からでも勉強してみますか?」


 この歳になって魔導師の力を学ぼうと思っても、感覚的に使えるようになるとは思えなくて、アサリは自分の手のひらに視線を落とした。


「無理だわ、きっと」

「……そう思うのでしたら、やめておきましょうか」

「勉強すれば使えるの?」

「想いが力になります。使えそうもない、と思ってしまったら、使えません」

「つまり、疑ったらだめ?」

「そうですね。ですから、シュエの言葉は否定しないほうがいいと思いますよ」


 なるほど、と思う。成長途中の子どものうちから理解していれば、素直に力は吸収される。親の背を見て育つように。

 やはり、子どもという年齢ではないアサリには、もう無理だ。魔導師の力が使えると、どうしても思えない。


「イーチィ、ののはなをいっぱいさかせるの、これでどーお?」

「ああはい、シュエ。そうですね。野の花ですか」


 シュエオンに呼ばれたイチカが、再びシュエオンのところへと戻っていく。その背を見送って、アサリはふと、苦笑した。


「わたしより上手いかも」


 子どもの扱いに、アサリの夫は長けていた。







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