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あなたと生きたいと思うのです。  作者: 津森太壱
【あなたと生きたいと思うのです。】
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00 : 魔導師を拾う。

はじめまして、こんにちは。

ようこそおいでくださりました。


この物語はフィクションです。

造語がたまにありますのでご注意ください(純粋に間違っていることもありますので、その際はこっそり教えてください)。





 嵐の次の日、晴れるとなんだか気分がいい。汚れた空気が洗われて、綺麗になったような気がするからだろうか。

 アサリは晴天の空を仰いで背伸びをすると、大きく深呼吸して、一日の始まりを堪能する。

 このところ雨が続いていたせいで、ひとたび天候が荒れるとひどいこの国で暮らす民は、ずっとピリピリしていた。それも昨夜の嵐で終わり、どうやら今回の雨はそれほど村に影響を与えなかったのか、家々から出てきた住民の顔は晴天のように晴れやかだった。アサリもそのひとりだ。


「やっと洗濯ものを外に干せるわぁ」


 生乾きの匂いともお別れだ、と思うと、いっそう気分がいい。さっそく洗えるだけ洗って、庭に干せるだけ干そうと、アサリは出ていた庭から家の中へと戻る。


「ん?」


 戻ろうとして、ふと視界の端に黒いものを捉えた。なんだろう、と振り向いたら、なんとすぐそこの道に面した木陰に人がいた。


「え……人?」


 木に寄りかかってぐったりした様子のその人影は、ぴくりともしない。

 恐る恐る近づいて、それが確かに人であることと、どうやら魔導師であるらしい官服を目にする。

 さらには、若いというより幼い青年。

 琥珀色の髪が綺麗だ。

 しかし、まったく意識がないのか、アサリが近づいても身動き一つしない。


「ちょ、だいじょうぶ? ねえ、ちょっと?」


 アサリは駆け寄り、その肩を揺すった。触れた肩は熱く、またぐっしょりと濡れていて、肩だけではなく全身ずぶ濡れであるとアサリに知らせる。


「大嵐の中歩いてたらそりゃあ熱も出るわよ!」


 行き倒れているのかどうかはともかく、動けずにいることは確かだ。よくよく見れば息も浅い。


「じいさま、ばあさま! お願い、きてぇ!」


 アサリは家に向かって叫んだ。

 生憎とここの家人はアサリのほかにアサリの祖父母しかいないが、女であるアサリに男ひとりを、それも意識のない人間を運べるほどの力はなく、頼りない祖父母でも助けが必要だ。


「どうした、アサリ?」

「この人! この魔導師、意識がないのよ!」

「魔導師?」


 顔を出してくれた祖父は、アサリが言う魔導師の姿を見ると、驚いて駆け寄ってきてくれた。


「こんなところで行き倒れとは、なんと珍しいことをしとるんだか」

「暢気なこと言ってないで。このままだと肺炎まで起こして大変なことになるわ。とりあえず家に運ばないと!」

「そうだな」


 祖父とふたり、左右から魔導師を支えて起こし、まったく意識のない魔導師を引き摺ってわが家へと運んだ。

 朝食の用意を始めていた祖母がそのときになって顔を出し、魔導師を見てやはり驚いたが、説明もなくアサリが「医師を」と頼むと、頷いてすぐに走ってくれた。


 医師が到着するまでに、アサリは魔導師の身体がこれ以上冷えないように部屋の暖房を入れ、家にあるだけの毛布をかき集めて寝台を整え、着替えは障りがあるので祖父に頼んだ。

 そうこうしている内に、祖母が医師を連れてきてくれる。


「あのですねえ、わたしは医師ではなく、薬師なんですけど」

「同じようなものでしょ。いいから診て!」

「はいはい。まったく……朝から叩き起こしてくれて、非常な迷惑をかけてくれた人はどこですか」


 いつだってやる気のない医師、本人は薬師だと言うが、医療に関わる者がこの村では彼ひとりしかおらず、流れ者だった彼はいつしかこの村で医師兼薬師になっている。

 ぼさぼさ頭を掻きながら、それでも腕は信用できる彼は、だるそうに意識のない魔導師を診た。


「んーん、なんてこたぁない、風邪ですね。まあ一足遅かったら肺炎に罹って手遅れになっていたでしょうが、だいじょうぶですよ」

「本当なの?」

「わたしが風邪だと言ったら風邪です。しかし……どこかで見たことがある人ですねえ」

「魔導師よ。官服を着ていたわ」

「魔導師? はて……被災地に向かう途中だったんですかね。それにしても見憶えが……」

「綺麗な子よね」

「……これ、綺麗ですか?」


 風邪だと診断された魔導師は随分と整った顔をしていると思うのだが、医師の彼にはそう見えないらしい。


「まあとにかく、安静にしていればすぐに治りますよ。薬は……そうですね、三日分ほど出しておきましょう。一日経っても目が覚めなかったら、また呼んでください」


 医師はそう言うと、なんだか魔導師に興味を持ったようで、お代はけっこうですよと言って帰って行った。あとで魔導師に請求するからいいのだそうだ。


 風邪ならまあ寝ていれば治るかと、とりあえずほっとしたときには、アサリは仕事に行かなければならない時間になっていた。


「わあ、遅刻する! じいさま、ばあさま、あとお願いね!」


 家のことをなに一つできないまま、アサリはわたわたと仕事に出かけた。







読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、その他なにかありましたら、こっそりひっそり教えてくださるとありがたいです。


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