ワシは行かぬぞ
なんやかんやで装備を買い揃えた俺は、ロリババアの自称ルルさんと一緒に依頼のゴブリンの巣穴付近にやって来ました。
「ワシは行かぬぞ」
「は?」
突然の発言にフリーズする。
「…………いやいやいや!急に何言ってんの!?」
「ゴブリンなぞ、お主一人で充分。ワシは此処で待っておるから、お主一人で行って来い」
「いや、俺の実力を買ってくれてるのは嬉しいけどね、一応この依頼は二人で請けてるわけだし……」
「嫌じゃ。臭い、汚い、服が汚れる」
「そっちが本音だろッ!!…………ったくも~、もし突然変異のネームドモンスターとか新人狩りの冒険者がいて俺がやられたらどうするのよ?可愛い愛弟子がどうなってもいいんだ!?」
「ほれ」
「おわっ!?」
ルル婆さんに何かを投げ渡される。
「またすぐ物を投げるな!子供か!?」
俺は投げ渡された物を確認する。渡されたものは黒い指輪だった。
「何これ?」
「それを左手にはめてみぃ」
「はいはい」
俺は、ルル婆さんの言う通りに指輪を左手の人差し指にはめる。
指輪は俺の指には少し大きくて今にも抜け落ちてしまいそうだったが、なんと指輪は俺の指にピッタリ合うように独りでにサイズが変わった。
「おお~」
「危なくなったらそれに魔力を流せ」
「するとどうなるの?指輪に込められた超強力な魔法が発動するとか、安全地帯に瞬間移動したりするの!?」
「色が変わる」
「…………え?」
「ほれ」
そう言うと婆さんは俺に渡した物と同じ指輪を左手の人差し指にはめ、魔力を流す。
するとルル婆さんの黒い指輪が金色に変色した。
「お主の指輪を見てみぃ」
言われて俺のはめた指輪を見る。
「うわ、俺のも金色になってる」
「お主も魔力を流してみよ」
「ほい」
俺はルル婆さんに言われた通り魔力を流す。すると俺のはめていた指輪が金色から銀色に変色した。
「おお~」
「これは離れた位置にいる仲間に合図を送れる魔道具でな、15分程で元の黒色に戻ってしまうが中々便利じゃろ?」
「成程~」
確かに携帯電話の無い異世界では簡単な合図しか送れないが重宝される物かも。
「では行って来い」
ルル婆さんは俺の背中をポンっと押す。
「もー!報酬は俺が全部貰うからな!!」
「その分、借金返済が早まるのぅ」
「チクショー!!」
俺は渋々ゴブリンの巣穴に突入した。
こうして俺一人で向かうことになったゴブリン退治だったが───結論から言うと何も問題なくゴブリンを殲滅して無事に依頼を達成できた。
突然変異のネームド───いない
攫われていた冒険者───いない
頭のおかしい冒険者───いない
なんか凄いアイテム───なし
そう、本当に何も無かった。…………いやある事にはあったな。
「寄るな、臭い、汚い、服が汚れる」
「…………」
ゴブリンの巣穴は俺が想像しているよりも遥かに臭く、汚かった。
とにかく鼻が曲がりそうで……嗅覚は、すぐに麻痺して臭いなんて全然感じなくなった。
相手がザコモンスターのゴブリンだから戦うのも後半はもう作業になってたし、やっとの思いで終わらせたのに、ルル婆さんからはこの扱い。
「早く風呂に入れよ、宿のではなく公衆浴場のな」
「…………これで金貨二枚、こんな思いをして二万って…………」
俺は悪臭が染みついた身体を引きずって王都へ戻った。
「くふ、くふふふ!どうじゃったゴブリン退治は?」
「もう二度とやりたくない」
王都に着いた俺は真っ先に公衆浴場(料金は銀貨1枚、日本円で千円)へ駆け込んだ。
そこで身体に染みついた悪臭を落とすために2時間は格闘した。
今、時刻は15時頃。ルル婆さんは先に昼食を食べたらしく、俺はそこら辺で串焼きや香草焼き、パンなどを買いホテルに持ち込んで食べながらルル婆さんと話していた。
「くふふふふ!アレと好き好んで戦いたいなど異世界人の趣味趣向は分からぬのぅ」
「はぁ…………そうだおばあちゃん、これ返すよ」
俺は結局、日の目を見ることが無かった指輪を指から外して返そうとする。
「それは、お主にやる」
「えっ、いいの?」
「今後お主がワシに泣きつきたい時が来るやもしれんからのぅ」
「ああ、そう?そういうことなら遠慮なく。でも別に婆さんが俺に泣きついても来てもいいけどね」
「ほ~~~ぅ?ワシが?お主に?助けを乞うとでも???」
「も・し・も・の話よ」
「そんな日は来んわ!お主は自分の心配だけしておれ」
「はいはい、そうさせて貰います。……ふぅ、さてと」
俺は、ゆっくりと席から立ち上がる。
「ん?どうした?」
「ああ、街でも見て回ろうかと思って。結局昨日は、おばあちゃんの買い物に付き合ったくらいで全然見れてなかったし」
「ふむ、そういう事ならば、ワシも行こうかの」
「え」
「昔と比べ、この国も様変わりしておるからの、ワシの知らぬ所も多いようじゃし……ってなんじゃワシがいると都合が悪いのか?」
「いや、また荷物持ちさせられるじゃん、それ」
「当然であろう?お主、ワシのような、か弱い女子に持たせるつもりか?」
「はいはい、老人には優しくしないとね」
「いい心掛けじゃ。では行こうかの」
「はぁ……男はつらいよ」
結局、街を散策しながら、ルル婆さんの荷物持ちをする羽目になった。




