一緒にいる資格なんて私には無い
「……元に……戻ったんだよ、な?」
俺は俯いているディザベルに声を掛けるが全く反応が無い。
「……まさか、今度は子供の頃に戻ったって訳じゃないよな!?大丈夫か、おい!?」
「…………何で助けたの」
ディザベルは俯きながら、ぽつりと言葉を漏らした。
「はぁ?何でって───」
「キョウも見たでしょ、私の記憶。憎しみに駆られて復讐相手とその家族、そして無関係な人間を大勢殺したんだよ!?前に言った2万人なんてね、確認出来た数でしかないんだよ。ホントはもっと、もっともっと沢山の人を殺してる。……だって私は国を1つ、滅ぼしてるんだから…………」
ディザベルは震える声で自嘲気味に言った。
「…………それでも俺は……仮にそれを知ってても、俺はディザベルの事を助けたよ。それに前に約束しただろ?俺だけはディザベルの味方だって」
「でも私はキョウの事を殺そうとした!」
「それは仕方ないだろ、操られてたんだから」
「そうじゃない!そうじゃないの!!」
ディザベルは力強い否定の言葉を叫びながら俯いていた顔を上げた。
「あれを見せられたくらいで取り乱して敵に操られた事も!キョウを殺そうとした事も!私が犯した過ちをキョウに黙ってた事も!何より自分のやったことを都合よく忘れて、キョウと一緒にいようとした事も!全部、全部全部全部っ!私は私が許せないの!!」
ディザベルは震える声で自分の心境を捲し立てた。
キョウはそれを黙って聞いていた。
「……ごめん……私なんかがキョウと一緒にいるべきじゃないって本当は分かってたのに……それなのにキョウと一緒にいるのが楽しくて……一緒にいる資格なんて私には無いのにね……」
言葉を紡ぐたびに感情があふれていって、ディザベルの白銀の瞳から大粒の涙が零れ落ちていった。
「お父さんお母さんお姉ちゃん、それと大好きな村の皆と一緒にいれればそれで良かったのに……みんなが殺されて、それで私、皆の仇を討とうって必死に頑張って強くなったのに……それも途中からおかしくなって…………それでそれで、挙句の果てにキョウを殺しかけて…………私、何の為に今まで生きて来たんだろうね?」
ごめん、ごめんなさいと大粒の涙を止めどなく流しながら嗚咽まじりで謝るディザベルの姿を見て、俺はここに来てやっと日頃から感じていた違和感の正体が分かった。
彼女は家族を、大切な人達を殺されたあの日から、壊れた子供の心のまま、ただ歳を重ねてしまったんだ。
親からもっと貰える筈だった無償の愛情を理不尽に奪われ、復讐に駆られるあまり、友達との友情も恋人との愛情も育む事無く、奪い奪われるだけの人生を生きて来た。
だから唯一心を許せるような関係になった俺と何かあれば、こちらの顔色を伺いながら必要以上に謝る。
自分がここに居たいと思えるような居場所をもう無くしたくないから。
思えばディザベルと過ごしてきた日々の中で、彼女は子供の様に笑ったり怒ったり、大好きな食べ物を前にして無邪気に喜んで嬉しそうに食べたりしていた。
普通、100年以上も生きていれば、こんな子供みたいに感情が動かす事なんて無いはず。
たった17年しか生きていない俺ですら夕食に好物が出たからってあそこまで喜んだりはしない。
何か変だなぁとモヤモヤとした違和感を感じていたが、日を重ねるごとに気にならなくなっていた。
今にして思う、違和感を感じた時点で、2万人以上殺したという話が出た時点で、俺がちゃんとディザベルの過去について聞いていれば、ここまでこじれる事は無かったはずだ。
それどころか彼女は過去のトラウマを乗り越える事も出来ていたかもしれない。
13階層で錯乱して操られる事も無かったかもしれない。
無意識の内にディザベルの過去を腫れ物扱いしていた俺のせいでこうなってしまったんだ。
一歩踏み込む勇気が無かった卑怯者のせいでこうなったんだ。
だから俺はディザベルを抱き寄せた。
「…………もう……優しくしないで……もう、私に構わないで……」
「はぁーあ!『俺はどんな事があっても最後までディザベルの味方だ』なーんて格好良く言ったけどさ、ホントは違うんだよ」
「え……?」
「この世界に召喚してくれたからだとか、師匠だからだとか、これまで一緒に過ごしたからだとか、それっぽい事言ったけどさ、それも違うんだ」
俺はディザベルの後頭部を撫でながら言葉を紡ぐ。
「一緒にいて楽しかったから、もっと一緒にいたいって思ったから、ただそれだけなんだ。ディザベルは一緒にいる資格が無いってなんて言ってたけどさ?人間、一緒にいるのに資格なんて必要ない。ただ一緒にいたい、コイツと一緒なら楽しいから、面白いから、気が合うから、それだけでいいんだよ」
ディザベルは嗚咽を漏らしながら静かに俺の言葉を聞いている。
「だからさ、ディザベル。俺はディザベルと一緒にいたい、一緒に世界を旅したい。ディザベルさえ嫌じゃなければ、これからも一緒にいよう?」
「…………わ”、わだし、も”……私も一緒にいたいぃ……一緒にいたいよぉぉぉ…………!」
ディザベルはキョウの胸の中で咽び泣いた。
キョウはディザベルを優しく抱きしめながら過去のディザベルに言われた、お前の言葉は軽すぎるという言葉が今頃になって心に深く突き刺さっていた。
ディザベルの味方だーなんて大口叩いておいて『お前は口だけだ』と、ろくに過ごしたことが無い彼女に見抜かれていたなんて、我ながら情けない話だ。




