救いようが無い話
キョウ狙って雨霰のように降り続ける無数の白金の剣と合計10本の超巨大な白金の剣が挟み込むようにして前からも後ろからも迫って来る。
もう逃げ続ける事は不可能だ。
このまま行けば、あと数秒以内には良くて細切れ、最悪の場合、跡形も無く蒸発する未来が待っているだろう。
このまま何もアクションを起こさなければ。
「やるしかない!!」
俺は急激に加速して一瞬の内にディザベルの背後に回った。
「今だあああああ!!!」
俺は右手にありったけの魔力を込めながら、まるでクレーターが出来るような勢いで壁を蹴って一気にディザベル目掛けて跳躍する。
赤く煌めく魔力を全身からスパークさせながら突っ込むその様は、さながら赤い流星のように見える。
高速で突っ込んで来るキョウから身を守る為に、ディザベルの周囲に浮いている6本の白金の剣が迎撃の構えを取る。
だがもう今のキョウにとって、そんなものは何の意味も無かった。
ありったけの魔力を込めた右手をディザベル目掛け一気に振り抜く。
「爆発───ッ!!!!!」
赤い魔力を帯びた拳は大爆発を起こしながら白金の剣を触れずして打ち壊し、更に魔力障壁に風穴を開けた。
「トドメだ!!」
俺はディザベルを抱きしめながら頭上にアイテムボックスを開く。
「上ッ!クリスタル・ランサー!!」
キョウの掛け声と共にリヴァータの風魔法で勢いよくアイテムボックスから撃ち出されたクリスタル・ボゥルは自身の身体を巨大な槍に変形させ天井を穿つ!
「ピギィャァアアアアアアア」
耳障りな断末魔が頭上から聞こえて来る。
「馬鹿がッ!調子に乗り過ぎたな!俺はずっとお前の居場所を探してたんだ!そんな事も気付かないでお前が潜んでいそうな壁や床を景気よくぶっ壊してたから、すぐに上かディザベルのどっちかだって分かった!ディザベルの馬鹿デカい魔力のせいでお前の存在を遠くからじゃ感知出来なくて此処まで肉薄しなきゃならなかったが!!」
俺は息を整える事も忘れて捲し立てた。
「ハァハァ……直接お前をぶん殴れなくてムカつくが……くたばりやがれ、このダニ野郎」
ここまで苦しませてくれた13階層のボスに別れの挨拶を済ませると足元にボス戦報酬の宝箱が現れた。
普段なら気になる中身だが、そんなものよりも優先することがある。
「無事かディザベル!?」
俺は腕の中にいるディザベルに視線を落とし安否を確認する。
「離れろ!暑苦しい!」
この戦いの功労者、MVPである俺がまさか突き飛ばされるとは夢にも思わなかったから思わず尻餅をついてしまった。
「痛てて……」
流石に文句の1つでも言ってやろうと座ったままディザベルを見上げると、ある重大な事に気が付いた。
「……え!?あ!?えぇぇぇ!?も、戻って、ない!?」
そう、ディザベルの姿が元のロリババアに戻っていなかった。
……普通、こういうのって元凶を倒したら元に戻るじゃん?でも戻ってねぇの!どういうこと!?
「うぇ!?何で戻ってないのディザベル!?」
「気安く私の名前を呼ぶな!」
「え!?」
「お前何者だ!?何故私の真名を知っている!?」
「へっ!?」
「何故私と一緒に───いや……お前が私の味方なのは何故だか分かる……おい、お前!」
「ひゃい!?」
「状況を説明しろ」
…………ま、まじか、マジなのか!?この状況!
「は、はい……」
一難去ってまた一難。
俺は大人ディザベルに掻い摘まんで自己紹介と今の状況を説明した。
「……人を馬鹿にしたような話だが、お前が私の本名を知っている以上、信じるしかないか……それに朧気だが覚えている事もある。お前、何で私を殺さなかった?殺した方が楽だろう」
「今のディザベルは覚えてないだろうけど、俺はどんな事があってもディザベルの味方だ。例え過去にどんなことがあったとしても」
「フッ!軽い、軽すぎるな、お前の言葉は」
「なに!?」
「そんな事より───」
ディザベルは殺気に溢れた凄まじい眼光で俺を睨む。
「お前、私の記憶を見たな?」
「……ああ、断片的にだが……」
「どう思う?」
意外な質問が返って来た。
「どう思うって?」
「怒り、悲しみ、同情、拒絶、軽蔑、色々あるだろう?アレを見た人間が何も思わないという事は無いはずだ」
「……分からない」
「何?」
「さっきも言った通り断片的にしか見てないから何も分からない、判断出来ないっていうのが今の答えだ」
「ふん、それはそうか。何、簡単な話だ。私が産まれ育った村の人間は皆、生まれながらにして強力な魔眼を有していた。それが遺伝なのか特異体質なのかは分からないが。そして強力な魔眼を嫉み、羨み、欲しがった者がいた……それだけの話だ」
「……あれ?でもディザベルの眼って…………」
「お前の察しの通り、私は姉から譲り受けた物。私は村で唯一、眼を持たずに生まれて来た子供だった」
「……成程」
「だがその事で迫害はされなかった。寧ろ皆自分の子供の様に私を愛し、可愛がっていた。私はそんな皆が大好きだった…………だったのにッ!!」
ディザベルの殺気が、魔力が膨れ上がる。
「大体分かったよ、ありがとう」
「…………はぁ……それでお前はどう思う?」
ディザベルは大きく深呼吸して再び俺に問いかけた。
「救いようが無い話だと思う。魔眼を狙った奴らも、犠牲になった人々も、そして復讐に取り付かれたディザベルも」
「…………ふん、まあいい」
ディザベルは次の階層に繋がっている階段へ歩き出した。
「さっさと行くぞ。身体に残留している、この気色悪い魔力を全て使い切らなければ元の姿に戻れないからな」
「あ、戻れるんだ……よかったぁ」
「…………そんな事よりお前!」
「はい!?」
「さっさと服を着ろ、目障りだ!」
「……ごめん、この姿になったら最低でも後3時間はこのままなんだ…………」
「…………道化か、お前」




