最悪な選択肢
黒い繭から出て来たのは全身に漆黒を纏った美女だった。
170cmを超える高身長に桃色の髪、長めのショートボブ。
胸元が開き、豊満な谷間が強調されている漆黒の服。
スラリと伸びた長い足にピッタリとフィットしているタイトな漆黒のズボン。
エナメル革の漆黒のブーツ。
そして……彼女にとって特別な意味を持つであろう、光り輝く白銀の瞳。
「ディザベル……!」
服も髪型も容姿でさえ変わっているが、あれは間違いなくディザベルだ。
「……こんな状況じゃなきゃ一目惚れしそうだけど……」
ディザベルの眼がこちらを向いた。
瞬間、ディザベルの周囲が白金色にキラキラと光る。
「───ッ!!リヴァータ走れ!」
リヴァータは俺の掛け声よりもディザベルの攻撃が始まるよりも一瞬早く走り出した。
「よし……!」
安心したのも束の間、間髪入れず無数の白金の剣がキョウとリヴァータ目掛け発射された。
「来たッ!」
さながらシューティングゲームのような圧倒的な物量攻撃が迫り来る!
「ボゥル、頼む!」
クリスタル・ボゥルはダンジョンで手に入れた水の魔剣をキョウに投げ渡しながら頭の上に乗り、迫り来る白金の剣を撃ち落とすべく水弾を高速乱射する。
「サンキュ!これなら……!」
俺は受け取った水の魔剣を構えながらクリスタル・ボゥルの対空防御の結果を注視する。
クリスタル・ボゥルの放った水弾はこちらに向かって飛来する無数の白金の剣に全て命中、着弾時の衝撃で白い煙が至る所で発生していた。
「どうだ!?」
期待したのも束の間、煙の中から無数の白金の剣が飛んで来た。
「第二波!……いや!落とせてない!!」
クリスタル・ボゥルの放った攻撃は白金の剣を撃ち落とす事も勢いを弱める事すら出来ていなかった。
「そりゃあそうだ!今までモンスターを豆腐の様に斬り裂いていたもんな!」
俺は深く深呼吸して水の魔剣を構え直した。
あの剣を破壊しようとしちゃダメだ…………弾く、受け流す!
俺は飛んで来る無数の白金の剣の内の1本を水の魔剣で弾こうと刀身を白金の剣にぶつける。
ジュッ
……ん!?
剣と剣同士がぶつかったとは思えない奇妙な音が聞こえ、俺は水の魔剣を見る。
刀身が蒸発していた。
「うぅ”、おおおおおおおおおお!!奥の手だあああああああ!!!!」
俺は身体強化の奥の手、理想の二十代の姿に強化変身し、リヴァータとは逆方向に全力ダッシュして喉元まで迫って来ていた白金の剣を躱した。
「あっっっぶ……ねぇぇぇ!!」
危機一髪回避出来た事を喜ぶ暇も無く、俺を捕らえようと追撃の剣が大量に発射され続けている。
俺は足を止めずにフロアの壁ギリギリを走っていると、すぐ後ろから剣が次々と床に刺さる音が聞こえて来る。
本当に……本当にギリギリだがディザベルの攻撃を避けれている。
それもその筈、これは若返りの魔法とは逆転の発想で産まれた俺の理想の姿!
身長は190cm、髪は黒、筋肉モリモリ、マッチョマンの天才だ!
今までの身体強化とは全てが別次元!俺の最強フォームだ!!
「これならイケる!」
精神的にも余裕が生まれた今、俺は走りながら状況を冷静に分析する。
まずディザベルの異常だが、こんなもんはフロアギミックか敵の攻撃かは知らないが操られているに決まっている。
大方、あの過去の映像……その人間にとってトラウマになっているようなシーンを見せる事で動揺を誘い、パニックになった奴を操るってとこだろ。
たかが17年程度しか生きていない俺には効果が薄かったみたいだが……ディザベル…………。
断片的に垣間見たディザベルの過去の記憶。
何があったのかは正確には分からない、分からないが……。
「悪趣味な野郎だ!絶対ぶっ潰す!!」
俺はこの状況を引き起こした奴に宣戦布告する。
……次にディザベルが撃ち出している、あの白金の剣だが……俺は完全に失念していた。
何度も見ていたはずなのに、ディザベルが白金の剣を人間にぶっ刺して無傷で気絶させていたのを。
つまりだ、あの白金の剣には任意の効果を付与できるって話だ。
人間を気絶させたり、魔剣を蒸発させたり、他にも色々出来るんだろう。
早い話、触れたら即死だ。
「ゲームじゃねぇんだからよぉぉぉ!」
いや、こんなのゲームでもやりたくねぇよ。
俺が不満を漏らしていると前方から逃げていたリヴァータが迫って来た。
「リヴァータ!!」
俺はリヴァータの目の前にアイテムボックスを開くと、リヴァータはそのままの勢いでアイテムボックスの中に入って行った。
「ボゥル、お前もだ!」
俺はクリスタル・ボゥルを掴んでアイテムボックスに投げ入れる。
そういえばアイテムボックスを習いたての頃『あ、生き物入れていいの!?死んでなくてもいいの!?』ってディザベルに言ったら『お主、腕突っ込んでるじゃろうが』って言われたっけ。
そりゃあそうだ、便利なもんだなぁアイテムボックス。
…………ってそんな事思ってる場合じゃない。
俺の目の前にはリヴァータに命中せずに地面に突き刺さった無数の白金の剣があった。
「アレに触れてもアウトだろうなぁ」
まあちょっとした障害物競争だ、細心の注意を払えばどうとでもなるはずだ。
なーんて考えていた俺が甘かった。
突き刺さっていた剣は融解し、その姿を球体関節人形のようなゴーレムへと変えた。
「アレに触れてもアウトだろうなぁ!!」
シューティングゲームは継続しながら今度はゾンビパニック物かよ!
俺は正面から襲ってくるゴーレムを避ける為に床ではなく真横にある壁を走った。
「ぬおおおおおおおお!!」
避ける、避ける、必死になって避ける!
マジでキツい!心臓が張り裂けそうだ!だが避け切った!
ゴーレムの波を避け切った俺はまだ思考が回る内にこの状況をどう打開するかを考えた。
───俺に取れる方法は2つしかない。
①このままディザベルの攻撃を避けながら元凶を探し当てて破壊しディザベルを助ける。
②ディザベルを殺し元凶を破壊する。
まず①だが……これは現実的ではない。
俺の体力は限界が近いし、こんな攻撃の中で元凶を探し当てる?
そんなのアニメの主人公でもなきゃ無理だ。
最後に②だが……ディザベルを周囲を浮遊する自動防御用の6本の白金の剣、そして常に展開されているディザベルの強力な魔力障壁をぶち破ってディザベルを殺す手段だが……実は1つだけ方法がある。
そうだ、もう俺が取れる方法なんて実質1つしかない。
俺が───ディザベルを───!
「ん?」
目の前にいたゴーレム達が突然、魔力の粒子となって消えた。
「な、なんだ?時間切れか?それとも魔力ぎ───れ───」
ディザベルの周囲に超巨大な白金の剣が10本縦に並んだ。
「あっ、これは───」
10本の内の半分の5本は右回り、もう半分は左回りで壁を斬り裂きながら壁を走る俺に迫って来た。
「マズイ!!!!!」
もう駄目だ!避けれない!逃げきれない!
もう…………殺すしかないッ!




