え!!ダンジョンの中で入浴を!?
───第13階層安全地帯
これまで数多の冒険者達の行く手を阻んでいた強敵を倒したというのに……。
「~~~♪」
前人未踏の13階層に辿り着いたというのに……。
「ほれ、早く次の材料を持って来い」
何だ、この虚しさは……何だ、このやるせなさは……!
「ほれほれ、早く組み上げんか!早く♪早く♪」
「…………さっきから一体何してんの!?」
「なんじゃ見て分からぬか?風呂を作っておるのよ」
「風呂ぉ!?」
ディザベルは球体関節人形のようなゴーレムを何十体も呼び出し、ゴーレム達に白金の剣を持たせて様々な命令を与えていた。
ダンジョンに生えている木を白金の剣で伐採し、木材加工している個体。
ディザベルが魔法で生み出した様々な石を白金の剣で石材加工している個体。
加工された木材や石材を持って浴室を組み上げている個体。
そして椅子にゆったりと座りながら作業中のゴーレム達を応援しているディザベル。
「……いやホントに何してんの」
「まあ見ておれ、後1時間も掛からずに完成するからのぅ♪」
「……いやいや、そんな1時間で風呂が出来るわけ────出来たわ。ご丁寧に壁に天井、脱衣所も洗面所も完備して、高級ホテルも顔負けな立派なのが」
「うむうむ♪では早速、ワシは風呂に入って来るからのぅ」
「はいはい」
ディザベルは鼻歌を歌いながら作り立てのお風呂に消えて行った。
「……覗くなよ?」
脱衣所の扉から顔だけひょこっと出して釘を刺しに戻って来た。
「覗かねぇって!」
「ふ~ん?」
ディザベルはまた脱衣所に戻って行った。
「……はぁ……ディザベルが風呂に入ってる間にやる事やっておかないと」
ディザベルが風呂を作っている間にテントの設営は終わらせたから、後はリヴァータとクリスタル・ボゥルの世話に夕食の支度に明日の準備とやることがまだまだ沢山ある。
「~~~♪」
俺は浴室から聞こえて来るディザベルの鼻歌を聞きながら作業を進めた。
「…………アイツ、防音の魔法かけるの忘れてないか?」
「……しかし道中探してはいたが、どうやらここには首枷に関するものは無さそうじゃな」
「うん?」
夕食のチーズ入りハンバーグを食べながらディザベルがそんな事を言った。
「なんじゃ忘れたのか?ここに来た目的を」
…………すっかり忘れてた。
そういえばこのダンジョンに首枷をドロップするようなモンスターがいるかもしれないから調べようって話だった。
もしダンジョンにそれらしき物が無ければ、この国の何処かに関係者がいるはず。
それを炙り出す為にもダンジョンで一攫千金すれば勝手に向こうから声を掛けて来るはずという隙の無い二段構えの完璧な作戦だったはずなのに、ダンジョンに行きた過ぎて完全に失念していた。
「はぁ……それでどうする?」
「どうするって?」
「ここから先は前人未踏の地。首枷の情報を得られない以上、もう撤退してもよいが……お主はどうしたい?」
「うーん……折角ここまで来たんだし、このダンジョンを踏破したいかな」
「なら決まりじゃな。明日からはダンジョン踏破に向けて頑張るぞ」
「いいの?」
「いいも何も、そもそもワシの私怨に付き合わせておるからな、これくらいは構わん」
「さっすがディザベル!話の分かるお方!」
「ふふん。……ああそれと、食べ終わったら風呂に入れよ」
「ありがたく入らさせて頂きますー」
「うむ」
「ようし!明日からはダンジョン踏破頑張るぞー!」
───その夜。
「あの……何でいるんですか?」
「なんじゃ居ては都合が悪いのか?」
俺のテントにディザベルが入り込んでいた。
「いや……昨日は別々のテントで寝てたじゃん」
「ふん、昨日は昨日、今日は今日じゃ」
ディザベルはパジャマ姿で俺にべったりくっ付いてくる。正直、暑苦しい。
「何で昨日は別々だったんだ~!」
「うるさい、早く寝ろ」
理不尽。やはりこの女には理不尽という言葉がよく似合う。
「……はぁ~~~!」
俺は一切の抵抗を諦め、このまま寝ることにした。
「……そういえばディザベルが風呂場で歌ってた、あの鼻歌って───」
「んな!な、な、な!」
ディザベルの、この慌てよう。
「……もしかして気付いてなかった?」
「わ、ワシとしたことがぁぁぁ!」
ディザベルは毛布に包まって照れ隠しをした。
「……あの鼻歌の元の歌ってあるの?全然聞かないメロディーだったけど」
「…………あれは、よく母が歌ってくれたワシのお気に入りの歌じゃ」
「へぇ……」
ディザベルの母親か……エルフでもない限り、年齢的にもう亡くなっているだろうな。
ちょっとこれ以上はこの話題は広げにくいな。
「……もう寝ろ」
「はいはい」
そういえばディザベルの昔の話、全然聞いたことないな。
俺が知ってるのは昔とんでもない数の人間を殺した事と、あの弟子くらいか。
まあ、この辺は向こうが話したくなったら聞く位でいいかもな。
俺は改めて自分がディザベルの事を殆ど知らない事に気付きながら眠りについた。




