情緒不安定
ディザベルと会話の最中に巨大化したクリスタル・ボゥルに7階層のボス部屋から8階層へ連行されたキョウ。
「なんなのぉぉぉ!?」
8階層に着くや否やクリスタル・ボゥルはキョウをその場に投げ捨てた。
「痛っっってぇ~~~!?」
クリスタル・ボゥルは痛がるキョウの事など微塵も気にせずに何処からともなく紙とペンを取り出して文字を書き始める。
実はこいつ、何故か文字の読み書きが出来る為、人と筆談で会話をすることが可能な天才スライムなのである。
───以前、どうして読み書きが出来るのか聞いた事がある。
「なんで読み書き出来んの?」
『人間の本を食べたらこうなった』
「人間を食べた訳じゃなくて?」
『誰が食べるか あんなの食べたらゴブリンみたいに馬鹿になる 俺はグルメなんだ』
「スライムは皆そうなのか?」
『人間を食べるヤツもいれば肉食、草食、雑食いるし偏食もいる だがグルメなのは俺くらいだ』
「他に人間の言葉が分かるスライムはいるのか?」
『知らない』
「知らないかー」
もしスライムが食べた物の特性を得られる能力があるなら人間社会の落日も近いのかもしれない。
───といった感じでクリスタル・ボゥルは人の言葉が分かるようになっていた。
そんなクッソ浅い回想シーンを俺がやっている間にクリスタル・ボゥルは文章を書き終えていた。
俺は書き上がった文章を読み上げる。
「なにぃ~?『喧嘩するな 仲良くしろ』?いやいやいや別に喧嘩してないから、別にアレくらい普通普通。ただのじゃれ合いみたいなもんだって」
ただの杞憂だから心配するなとクリスタル・ボゥルに説明しているとディザベルとリヴァータ達が遅れて8階層にやって来た。
「さて行くぞ。今日はこの階の安全地帯までで終わりにするぞ」
「え?別にこの調子なら10階層くらいまでは今日行けそうだけど?」
「このまま行けばな。じゃが階を進む毎に他の冒険者の数は減り、道中で戦闘する機会も増えるじゃろうし、ダンジョンの広さも変わってくるじゃろうからな」
「え!?ダンジョンの広さって変わるの!?」
「うむ。それに───」
「それに?」
「歩き疲れた」
「それは分かる」
ボス戦以外殆ど戦闘が無かったとはいえ、そこそこのショッピングモールと同じくらいの広さを休憩ありとはいえ、8階も見て回るのは流石に疲れが溜まってきていた。
「分かったのなら早く行くぞ。早く休みたい」
「そんなに疲れたんなら、おんぶでもするか?子供の歩幅じゃ結構疲れたでしょ?」
キョウの半分冗談のつもりで出された提案にディザベルの脳内では様々な思考が駆け巡っていた。
(お、おんぶじゃと!?確かに歩き疲れたのは事実。ここで甘えても向こうから提案して来たんじゃ別に何も問題は…………いや、冗談のつもりだったと言われないか?小馬鹿にされないか?……いつものこやつならあり得そうじゃのぅ……いやでも……こんな機会……滅多に…………いや待て!肝心な事を忘れてた!!)
「あの……ルルさん?」
「……いやいい」
「別に遠慮しなくてもいい───」
「五月蠅い!近寄るな馬鹿!」
ディザベルは怒鳴って先に進んでしまった。
「え、えぇ……本当になんなの今日……」
魔物を薙ぎ倒しながら進むディザベルを追いかけていると、いつの間にか安全地帯に着いた。
辺りを見渡すと少し前の階層から見かけるようになっていた他の冒険者パーティーのテントがチラホラと建てられていた。
「ほれ、早くしろ」
「はいはい。全く人使いが荒い婆さんだこと」
早くしろとはお前もテントを建てろって意味だろう。
俺はアイテムボックスからテントを取り出し、クリスタル・ボゥルに手伝ってもらいながらテントを立て終わる。
「……よし!こんなもんか。後は少し早い気もするが夕飯の準備を……」
「ん?まだ1張りしか立てておらぬではないか」
「え?」
「うん?」
「え?一緒に寝るんじゃ……」
「誰が一緒に寝るか!お主にはプライバシーというものが無いのか!?」
「え、えぇぇぇ……」
「ふん、早くしろ!」
「な、納得いかねぇ~~~」
俺は愚痴りながら追加でディザベル用のテントを立てる終わるとディザベルはすぐにテントの中に入ろうとした。
「覗くんじゃないぞ、よいか!?」
「覗かねぇって……」
「…………ふん!」
ディザベルは自分用のテントの中に入って行った。
「ま、マジでなんなの今日……?」
今日1日ディザベルの乱気流のような機嫌に振り回されながらキョウは深いため息をついた。
一方テントの中のディザベルは、テントの外で困惑しているキョウの事など構わずに着ていた衣服や下着を脱ぎ捨てて裸になっていた。
「今日は汚らわしい奴らとばかり戦っていたから……!」
ディザベルはお湯で濡らしたタオルで身体を拭きながら自分の体臭をチェックしていた。
「これくらいならば……いや分からん!ワシの嗅覚が麻痺しているやもしれぬ……!くぅぅぅ……一刻も早く誰も居ない階層に辿り着き湯浴みをしなければ!」
ディザベルは夕飯までの間、必死になって体臭ケアをしていた。




