次の目的、次の目的地
ジカスのいる拘置所で実力行使の猟奇的インタビューを終えたディザベルとキョウ。
二人は以前から宿泊している高級宿に戻って来ていた。
ディザベルは、この部屋で内緒話が出来るように防音結界を張った。
これで部屋の外に二人の会話が漏れる事は無い。
「それじゃあディザベルさんが一体何を調べていたのか聞かせてもらおうじゃあないの」
実のところキョウは悪巧みの内緒話に気分が少しだけ高揚していた。
「なに、あの忌々しい首枷の事について調べておったのよ」
「首枷っていうと……あの嵌められてたやつ?」
キョウは、ディザベルに嵌められていた赤黒い首枷を思い浮かべる。
確か、あの首枷には魔法を使えなくする効果があるってジカスは言っていた。
「アレがどうかしたの?」
「色々と解せぬ事があっての……」
ディザベルは舌打ちこそしなかったものの、あからさまに不機嫌そうだ。
「……と言いますと?」
「まずアレがワシの『魔力障壁』を超えてきた事と───」
「『魔力障壁』!……って何でしたっけ?」
キョウがディザベルによって異世界に召喚されてから1年が経ち、様々な事をディザベルから教えられてきたが『魔力障壁』について聞いたことが無かった。単に忘れている可能性もあるが。
「……ふむ、たった1年では教えきれておらんかったか……では少し授業と行くかのぅ」
ディザベルはテーブルの上に魔法で作った三等身の人形を二体並べた。
1つはディザベル、もう1つはキョウの姿をしている。
ディザベルは、この二つの人形を魔力で操って魔法の講義を始めた。
「まず魔力を使った防御方法は大きく分けて3つある。1つ目は、剣や弓などの物理攻撃や魔法による攻撃を防ぐ『防御魔法』」
キョウ人形がディザベル人形に向けて投石をするがディザベル人形は自分の前に鉄の壁を出現させて投石を防ぐ。
「おぉ凄い」
キョウはディザベルの人形劇に感心する。
「防御魔法は炎の壁でも水の壁でも魔法を使っていれば、なんでもよい」
「へぇ~」
「2つ目は、魔法のみを打ち消し無効化する『対抗魔法』」
キョウ人形が火球を投げつけるがディザベル人形の使った対抗魔法によって空中で消滅してしまった。
「魔法であれば攻撃魔法でなくとも何でも無効化出来る」
「えぇ!?強すぎないそれ?」
「じゃが欠点はあるぞ。対抗魔法は無効化したい魔法の種類によって変化させなければならん」
「へぇ~、傷薬じゃ風邪は治らないみたいな?」
「極端に言えばそうじゃな」
「成程ね」
「そして最後が『魔力障壁』これは他の2つとは違い、自身の魔力だけで物理攻撃や魔法を防ぐ方法じゃな」
キョウ人形がディザベル人形目掛けて投石や火球を投げつけるが、どれもディザベル人形の纏った魔力の壁にぶつかり、ディザベル人形に直撃することなく防がれてしまう。
「おおっ!カッピョイイーッ!」
「長所は『防御魔法』や『対抗魔法』のように魔法を使用する時間と手間が掛からない事。無論『対抗魔法』のように相手の魔法に合わせる必要もない。まあ力業じゃな」
「もうこれだけでよくない?」
「そんなことは無い、魔力障壁にも欠点はあるぞ?」
「へぇ~、それってどんな?」
「使用者の魔力や技術力によって防御力が左右される事じゃな。有象無象では初級程度の小さな火球くらいしか防げん。ワシは上級魔法だろうとなんだろうと余裕で防げるがな!」
「ピンキリすぎる……」
「そう言うな。これさえあれば料理中に包丁で手を切ることも無くなるぞ」
「あら便利」
「……とまあ授業はここまでにして本題に戻ろうかのぅ」
ディザベルは魔法で召喚していた人形達を消す。
「先程言ったように魔力障壁は上から下まで幅広い強度じゃが、ワシの魔力障壁はそこらの有象無象とは違う。ほぼ全ての攻撃を防げるし、魔道具も受け付けない……だというのに!」
「それが破られたと?」
「破られたのならまだいい。しかしアレはワシの魔力障壁などまるで存在しなかった様にワシの首に転移し貼りついてきおった」
「そ~いえば俺の時も……」
思い返せば競売場でのバトルの時、ディザベルと話している最中、いつの間にか自分の首に嵌められていた。
あの時は『強制的に装備させることの出来る呪いの装備じゃん』くらいにしか思ってなかったけど。
「転移による奇襲など何重にも対策しているというのに……それをああも容易く!!」
ディザベルは話しているうちに不覚を取った時の事を思い出し舌打ちした。
「そんなに凄い魔道具だったの?婆さんが隠居生活で鈍ったとかじゃなく?技術革命でも起きて相対的に弱体化したとかじゃなくて?」
あの首枷が俺にくっついてきた時は、簡単に引きちぎれちゃったから、そんな凄そうな感じには見えなかったんだよなぁ。
「……技術の向上の可能性も考えたが、このポートリスを見た感じでは、このワシの魔力障壁を上回るほど技術力が向上したとは考え難いのぅ」
「あぁ、そうなんだ」
「それとワシは鈍っとらん」
「アッハイ」
「……なんにせよ、アレを作った者、そしてそれを利用している者、ワシを辱めた者共は全て殺す」
ディザベルは淡々と恐ろしい事を言ってのけるが、彼女の受けた仕打ちを考えれば無理もない。
「ん?って事はもしかして……」
「残念ながら分かったのは首枷の仕入先だけで他は何も分からんかった……せめて何処の誰が作ったのかくらいは知りたかったのじゃがな……」
「まあ仕入先が分かっただけでも……それで場所は?」
「場所はダンジョン都市国家『ガーンデーン』このポートリスから馬車で4日ほどの距離にある国じゃな」
「ダンジョン都市!?」
「うむ。国の中心に巨大なダンジョンがあっての、そこからから手に入る資源で栄えた国が一般的にそう呼ばれておる。ガーンデーンは、ダンジョン都市の中では普通より少し栄えてるくらいかの」
「おお~!じゃあそこに行けば……!」
「しかし問題が幾つかある」
「え、どんな?」
「それは、あの首枷がもしダンジョン産のドロップアイテムだった場合じゃな。そうなるとそこで首枷を拾おうとする者を捕らえ情報を聞き出し処刑する必要がある。更に面倒なのは供給元のダンジョンを破壊せねば首枷が無限に世に手に入ってしまう点じゃな」
「ふーん…………あれ?さっきダンジョン資源で栄えた国って言ってなかった?そんな事したら───」
「国家転覆を図ったとして極刑は免れないじゃろうな」
「ひょえぇぇぇ…………」
「ダンジョンを潰すのは、ちと面倒じゃがそこは大した問題ではない。問題は首枷の事を国が黙認している場合じゃな」
「…………いや、めんっどくせぇ~~~!!内乱罪は首枷の事が知れればどうにかなるかもって思ってたけど、もし国もグルになって奴隷商売なんかしてたら……それに…………」
「いとも容易く個人を無力化出来る魔道具なぞ、安定供給出来れば他国との戦争も楽に勝ててしまうじゃろうしな。……いや、もう戦争の準備を終えてるかもしれんな」
「なんか大変な事になって来た……」
「国がまともなら、この奴隷騒ぎを解決した英雄として称えられ、しかし首枷の事を黙認し利用しているような腐った国ならば───」
「ダンジョンを潰し国の経済を破壊した大悪人として国際指名手配……と」
「そういう事じゃな」
な、なんてこった……!自由気ままな異世界冒険生活が、地獄の異世界逃亡生活になるなんて……!!
「だからお主とは此処でお別れじゃな」
「……ん?え?えぇ?」
「ワシはこれから虚仮にしてくれた連中を抹殺しに行く。しかしそうなると同じ冒険者パーティーのお主まで疑われ、最悪共犯者として国中から追われる身になるじゃろう?じゃから迷惑が掛かる前に此処でパーティーを解散しよう。お主は当初の予定通り、この世界を見て回れ。まあ、つまらない所じゃがな」
「……成程。まっ、将来の大英雄、冒険者サトウ・タロウとしてはトラブルになるような事は是非とも回避しないとな」
「ふふ……将来の大英雄様の誕生を陰ながら応援しておるよ」
ディザベルは、どこか切なげに微笑む。
「…………だが、ディザベルの弟子、サカキバラ・キョウとしては却下だ、却下!!」
「な、なぬっ!?お主は冒険者として栄光を掴むんじゃろ!?それなら……」
「水臭い、水臭い、水臭~~~いッ!!」
「ふぉっ!?」
キョウはディザベルの頬を揉む。モチモチして揉み心地がいい。
「今日風呂で言っただろ!?最後まで俺はディザベルの味方でいるって!それにだ、俺だってディザベルがやられて怒ってるんだからな?一人でやろうなんて、そうは行かないからな!!」
「…………いいのか?」
「いいんだよ、俺がそうしたいんだから。それにもし逃亡生活になっても、ここには逃亡生活の大先輩がいるしな~、なんも心配してないよ」
「……ふん、ワシが折角心配してやったというのに……後悔するなよ?」
「しないって……ああそうだ」
キョウはテーブルの上に女性物の衣服を置く。
「ほらディザベルの服。捕まってた時の服、ジカス商会に残ってたよ」
「おお、そうか」
「でも所持金と金になりそうな魔道具は無かったよ。あ、でも一応これは残ってたよ」
キョウはテーブルの上に置いたディザベルの服の上に黒い指輪を置いた。
この指輪はディザベルを探す切っ掛けになった例の魔道具だ。
これは売っても二束三文にしかならないらしく残っていた。
「これも残っていたか……無くしたものとばかり…………」
ディザベルは、しみじみと言いながらキョウに左手を出した。
「ん?」
「なんじゃあ、嵌めてくれんのか?」
この女、からかってるな?
そっちがその気なら、こっちだって受けて立ちますよ。
「はいはい」
キョウはディザベルの左手の小指に指輪を嵌めた。
「……なんじゃ、薬指ではないのか?」
「運命の赤い糸って言うだろ?」
キョウは自分の左手の小指にもディザベルから貰った黒い指輪を嵌めると、小指だけ立ててディザベルに見せた。
「フッ……確かにそうじゃな♪」
ディザベルは愛おしそうに指輪を撫でながら───
「……残っていて良かった」
キョウに聞こえないような小さな声でボソッと呟いた。




