一番弟子VS馬鹿弟子
「にゃ、にゃにぃぃぃ!?逃げろだぁ!?」
「そうじゃ!お主ではジカスに勝てん!」
その時、ルルと同じ赤黒い隷属の首枷がタロウの首元に転移してきて強制的に嵌められてしまった。
「何これ?」
タロウは、いつの間にか自分の首に嵌められた首枷に触れる。
「二個目じゃと!?……はっ!?」
ルルの視界に、タロウの背後から剣で斬りかかろうと突進して来ているジカスの姿が映った。
「タロウ!」
「ん?」
ルルはタロウの身にジカスの凶刃が迫って来ている事を伝えようとするが、肝心のタロウに一切伝わらない。
「もう遅い!」
ジカスの剣がタロウを背中から袈裟斬りに───出来なかった。
「な!?」
「なぬぅ!?」
それどころかタロウの肉も、皮膚ですら斬る事が出来ずに剣はタロウの右肩で止まっていた。
「チィィィッ!!」
ジカスはタロウの右肩で止まっていた剣に力を込めて今度こそ斬り伏せようとするが、剣は微動だにせず、全く斬れる気配がない。
その異常な光景に動揺したジカスはタロウから距離を取る。
「お前……一体何をした!?」
「何って……身体強化を使っただけだが?」
タロウはお決まりの台詞を自慢げに、得意げに言い放つ。
「……は、はぁ?……ふ、ふざけるな!そんな誰でも使えるような身体強化魔法如きで防げるものか!そもそも首枷の効果で魔法が使える訳が無い!」
「へぇ~、これにそんな効果があったとはね。だけど悪いね、誰でも使えるような簡単な身体強化なら使えちゃったみたい」
タロウは自分の首に嵌められていた首枷をまるで粘土のように簡単に引きちぎり、床に投げ捨てた。
「そして生憎だけどね、俺は身体強化が得意なんだ。そぉんなちゃちな攻撃じゃあ、この俺は倒せないぜ」
(……確かに身体中に魔力を巡らせて肉体を強化するだけの簡単な身体強化なら、ワシの魔法と違ってこの首枷を嵌められた状態でも問題なく使えるかもしれん。……しかし、こやつのこれは身体強化が得意とかいう次元の話ではない、ハッキリ言って強すぎる……!)
「そんな馬鹿な話があるか!第一この剣はミスリルだぞ!?いくらなんでも身体強化魔法如きで防げるものか!!」
「だけど斬れなかった」
「……ッ!」
「フゥン、今の俺は鋼鉄そのもの!そぉんな、なまくらじゃあ傷一つ付けられないぜ!」
「……鋼鉄よりミスリルの方が硬度は優れておるぞ」
「…………まあとにかく!アンタじゃ俺には勝てない!さあ観念するんだな!!」
タロウはキメ顔でジカスにビシッと指を差す。
「この馬鹿者!勝てぬのはお主の方じゃ!」
「え、えぇ~?」
タロウは、ルルの言葉にガクッと体勢を崩しかける。
「奴はワシの一番弟子!お主が如何に身体強化に自信があろうと奴には勝てん!先程は運良く奴の攻撃を防げただけじゃ、二度目は無い!早く逃げろ!」
「いやいや、そこは応援するの普通なんじゃない?……ん?待ってアイツが一番弟子ってことは……じゃあ俺は?」
「馬鹿弟子」
「ならその馬鹿弟子が、ご自慢の一番弟子様にカッコよく勝っちゃう所を特等席で見てなって」
「だから、お主じゃ勝てぬと何度も言っておるじゃろ!?ジカスには数秒先の未来を見通す魔法がある!お主では奴に攻撃が当たらん!」
「えっ?」
その時───
ジカスの放った強大な火炎魔法によってタロウの身体はすっぽりと炎の渦に飲み込まれてしまった。
「タロウッ!?」
「ふん、奴がどれだけ人間離れしていても人間である限り炎は克服できまい」
「貴様ッ!!」
「今頃は丸焼き……いや消し炭か?」
「───それはどうかな?」
「何ィ!?」
タロウの台詞と共に炎の中から強風が吹き、炎を掻き消した。
そして先程までジカスの炎に包まれていたタロウが姿を現す。タロウは当然のように無傷!
「貴様どうやって!?」
「ちょーっと手で扇いだらバースデーケーキの蝋燭みたいに消えたよ」
「そんな馬鹿な……」
「それでぇ?次はどうする?」
ジカスは、タロウの常識外れな超人っぷりに思わずたちろぐ。
「な、何なんだ……本当に何なんだお前は!?」
「だから白馬の王子様だって」
「……ふ、ふざけるな!そもそも、何でリリを助けようとする!?そいつは罪もない人々を2万人以上も殺してる殺人鬼だぞ!?助ける理由が無い!」
そう、助ける理由が無い。助けられる資格も。
ジカスの言う通り白金の魔女リリは、これまで何人もの人間を殺して来た。
そんな自分が他人に助けられるとは思ってもみなかったし、その資格も無いと理解していた。
だからルルは、もう諦めていたし、このまま奴隷として誰かに売られることを覚悟していた。
だというのに何故───
「それならアンタは奴隷商だろ?」
「───ッ!?」
「多くの人の未来を奪ったって話ならアンタだって同じはずだ。いや、もしかしたら婆さんより奪った数はアンタの方が多いかもな?」
「そういう話をしているんじゃない!私は───!」
「いいや、俺がアンタを倒す理由は今ので充分だ。……しかし、まあそうだな……婆さんを助ける理由、か……」
知りたい。
何故、彼は自分を助けようとしているのか。
彼は突如この世界に召喚されたことで、これまでの生活や、親や知人と、今まで持っていた物を何もかも失い、召喚したルルに恨みこそあるはずだ。
そんな彼が何故、どうして?
「それは俺が、婆さんの弟子ってこと……だああああああ!!」
雄叫びと共にタロウの筋肉が一気に膨張し、パンパンにパンプアップし、その余波で彼の上着が弾け飛び上半身裸になる。
これもタロウの身体強化魔法の成せる技なのだろう。
その証拠に時折、彼の赤く煌めく魔力が彼の周囲でスパークしている。
「婆さんを助ける理由なんてそれで充分だ。さあ、これから繰り出す俺の攻撃をご自慢の魔法でカンニングでもして避けてみろ。やれるものならあああああ!!」
ジカスが見た未来の光景、それは…………これから来る攻撃を避けれず壁にめり込む自分の姿だった。
「うおおおおお!!」
タロウは一瞬でジカスの懐まで近づく。
そして──────
「でぇぇぇりゃああああああああ!!!」
拳のラッシュがジカスに襲い掛かる。その数、3秒間に25発!
避けることも抵抗することも出来ず、次々にジカスの身体にタロウの拳がめり込んでいく。
そうして最後の一発を食らったジカスは吹き飛び、壁に激突し、めり込んだ。
当然ジカスは気絶、戦闘不能。
「どーよ、俺の大・勝・利。ちゃんと見てた?」
ジカスを倒したタロウは、ルルの元に駆け寄り、彼女に嵌められていた首枷を引きちぎり、更に腕の拘束も解く。
解放されたルルは何も言わずに壁にめり込んでいるジカスの元に向かう。
「え、あ、ちょっと!?」
ルルは魔法で何か棒状の物を生成し始めた。あれは……焼きごてだ。
しかし、いくら隷属の首枷が無いとはいえ、その身に刻まれたカースド・タトゥーのせいで焼きごては今にも崩壊しそうだ。
ルルは、今にも崩れそうな焼きごてをジカスの額に押し付けた。
「い”っ!?」
ジュゥゥゥゥゥと肉が焼ける。
「な、なぁにやってんだババア!?」
いやまあ色々と、このオッサンにやられたんだろうがそこまでするかぁ!?
タロウは慌ててルルを止めようとするが時すでに遅く、ジカスの額には『変態』の文字が刻まれてしまった。
「あーらら…………」
「ふん」
ジカスに消えぬ烙印を施したルルは力なく倒れてしまう。タロウはルルが地面に倒れる前に、なんとか抱きかかえる。
「疲れた…………」
そう言うとルルは、寝息を立てて寝てしまった。
「え?まじ?」
「おっらあああああ!!サトウ・タロウは何処だぁぁぁ!?」
遂に自分を追って競売場に突入して来た衛兵や冒険者達。
逃げ惑う富豪達。
助けを求める奴隷達。
壁にめり込んだ、このジカス商会の社長、ジカス。
そして全裸のロリババアと抱きかかえる俺と盟友の白馬。
「や、やべええええええ!!?」
サトウ・タロウの戦いは、これからだ。




