5895
「……うっ……うぅ…………」
冷たいの岩床の上で、ルルは目を覚ました。
起きてすぐに気付いた事は、口枷が外されていた事。
「……痛っ…………!」
次に身体中の痛み、重さ、怠さ。
ルルは辛さに負けそうになりつつも、ゆっくりと身体を起こそうとした、その時。
不意に自分の手足が、身体が視界に映った。
カースド・タトゥーが刻まれた自分の手足が。
自分の左胸に押された契約の烙印が。
「──────ッッッ!!」
ルルは目の前の現実を否定するように、絶望を振り払うように魔法を使おうとする。
何度も
何度も何度も
何度も何度も何度も
…………だが現実は変わらない、何度やっても結果は同じ。
ルルは、もう魔法を使うことは出来ない。
かつて世界中から恐れられた白金の魔女リリは、もう死んだ。
「あ……あぁ…………ああああああ!!」
絶望は、まだ始まったばかりだ。
「昨日は、よく眠れたか?」
涙も枯れかけた頃、ルルの独房に一人の訪問者が現れた。
「…………ジ……カス……」
現実に打ちのめされていたルルの目に光が戻る。
「ジカス、貴様ッ!」
ルルは鉄格子の先にいるジカスに手を伸ばして食って掛かる。
「おっと」
ジカスはルルの手をひょいっと躱し、ルルに施した契約の烙印を起動する。
「あぐぅぅぅううッ!?」
胸が締め付けられ焼けるような心臓麻痺に近い苦痛に襲われ、ルルは胸を押さえながら悶え苦しむ。
「流石に参ってるかと思ったが……フフッ、元気そうで良かった」
「う”ぐぅぅぅぅ!…………ッか…はッ!…………はあ、あッ!?ぐぅぅぅううう!!」
契約の烙印による苦痛によってルルは脂汗を噴き出し息も絶え絶えになっている。
「───だがその態度は感心しないな」
「あピっ!?」
ルルに嵌められた赤黒い首枷、隷属の首枷から電撃が放たれる。
「ぴギッ!いぎぎぎぎっぎいい!!」
ルルは床に崩れ落ち、痙攣しながら言葉にならないような悲鳴を上げている。
「アンタはもう俺の奴隷だ。その奴隷が人間様、ましてや御主人様に対して取っていい態度じゃないよな~?」
「や、やべ…………ろ”ぉ”ぉ”お”お”お”!!」
「それに言葉遣いも」
「お”お”ぉ”ぉ”お”お”ぉ”!も、ほぉっ!やめ、で……やめでぐださいぃぃピィィイイッ!?」
「ふん……まあいいか」
やっとルルを苦しめていた契約の烙印と隷属の首枷の電撃が止まる。
「かッ……はぁっ!?…………はぁ、はぁ、はぁ!」
ルルは必死に呼吸する。
真っ白だった視界が徐々に元に戻っていく。
「本来ならたっぷり時間を使って調教するところだが、明後日にはオークションだ、今はとにかく時間がない」
ジカスがそう言うと、ルルの独房が開かれる。
部下の男が独房に入り、ルルを羽交い締めにする。
羽交い締めされたルルは、男との対格差で足は地面から離れ、持ち上げられてしまう。
もっとも、今のルルに立っていられる程の力は残っていないが。
「これが何か分かるか?」
ジカスは黄色いタグをルルに見せる。
「はぁはぁ…………あぁ……?」
ルルはタグを見る。
タグには『5895』と書かれていたが、その数字の羅列に一切心当たりが無い。
「『5895』今からこれが、お前の名前だ」
「…………はぁ?」
一瞬、この男が何を言っているのか分からなかった。
「痛ッ!?」
理解出来ないまま、ルルの左耳に先程のタグを耳標として取り付けられてしまった。
「さて、俺は忙しいんでな、もう行くが、オークションまで好きに過ごしていいぞ5895」
「…………っ!………うぅ……」
ジカス達が5895の独房を去って暫くした後、ルル───いや5895は、少しの間すすり泣いていた。
それからオークションまでの間、5895は他の奴隷たちと同じ独房生活を送りながら、迫る奴隷オークションに向けて、時折他の奴隷たちと外に連れ出され、商品価値を高めるべく髪を切って整えられたり、入念に身体を洗われたりと人並みには扱われていた。
そして…………オークション当日を迎えた。




