施術最終日
あれから連日、ルルの身体に刻まれて続けているカースド・タトゥーだが、元々は大罪人に付与させるような解呪不能な強力な呪術であり、これを入れられた者は人権を失う。
解呪の為にタトゥーの入った皮膚を剥がして別の健全な皮膚を移植したとしても、移植した皮膚が呪われ、タトゥーが再び浮かび上がってしまう。
またカースド・タトゥーの刻まれた箇所を切り捨て、回復魔法などで欠損箇所を再生したとしてもタトゥーごと再生されてしまう。
カースド・タトゥーから逃れるには、タトゥーの入った部位を文字通り切って捨てるしか方法は無い。
しかしそんなことをしてしまえば、日常生活を送る事が非常に困難になってしまう。
一度入れられたが最後、魔法使いとしても、人間としても完全に終わってしまう。
まだ人間でいたいのなら何が何でも逃げなければいけない。
…………だというのに、施術中に味わう、生きたまま身体を焼かれ刃物で抉られる地獄のような苦痛は、白金の魔女の精神を摩耗させるには十二分すぎた。
ルルはもう『一刻も早くこの苦痛から解放されたい』『早く終わってほしい』『もう許してほしい』と、その事ばかり考えるようになってしまっていた。
こうして遂に迎えたカースド・タトゥー施術最終日。
いつも通り、一日の最後に掛けられる逃走防止用の昏睡の魔法を解除されて、ルルは目を覚ます。
今日も相変わらずラバー製の口枷を噛まされて全裸で四肢を固定されていた。
「──────ッッ!?」
しかし昨日までとは違い、今日は分娩台に拘束されていた。そのせいで股が開かされ、陰部が丸見えになっている。
「ムグゥゥゥ──────ッ!!」
今すぐに身体を隠したい。だが四肢が固定されているせいで隠すことも出来ない。
あまりの羞恥に頭がどうにかなりそうだが、ルルを真に悩ませているものは他にあった。
それはカースド・タトゥーの事だ。
連日の施術によってルルの身体には既に、右腕、左腕、右足、左足、背中にカースド・タトゥーが刻まれている。
今日は施術最終日。次は、一体何処に──────
「カースド・タトゥーも今日で最後だな」
「───ッ!!」
ジカスの声が聞こえて、思わず身体がビクッと震える。
「最後とは言ってもアンタを無力化するカースド・タトゥーは、昨日の時点で完成してるけどな」
「…………ンゥ……?」
何を言っているのか理解出来なかった。もう、完成してる?
「分からないのか?その腐った泥沼のような魔力」
タトゥーは……今日が最後だって…………。
「もう魔力の操作なんて出来ないだろ?」
今までカースド・タトゥーの事で頭がいっぱいになっていたルルは、ジカスに言われて、今、ようやく気が付いた。魔法使いとして完全に死んだ自分の身体に。
「フーッ、フーッ、フーッ!」
頭が真っ白になる。
動悸がする。
呼吸が荒れる。
魔女として今まで築き上げてきたものが、今の自分を作り上げて来たものが、こんな簡単に失われるなんて……。
「なんだ、やっと気付いたのか?」
信じられない。
信じたくない。
認めたくない。
「もうアンタは悪名高い白金の魔女じゃない。それどころか、もう人として扱われる事も無い」
…………頭の何処かで自分は大丈夫だと楽観的に考えていたのかも知れない。
白金の魔女と恐れられた自分がこんな目に合うはずがないと。
「くく……クハハッ!アンタはもうただの奴隷だ!これから先、男を悦ばせるだけのな!?」
いつか起死回生の機会が訪れると。
「フーッ、フーッ、フーッ!」
ここで終わるはずがないと。
「アーッハハハ!もう終わってんだよ、クソババアァァァ!!」
「ン”ン”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ゥ”──────ッ!!」
ルルの魔女としてのプライドが崩れ去り、子供の様に泣きじゃくる事しか出来なかった。
それが唯一今のルルに許された行動だった。
ジカスは一頻り笑った後、ルルに語り掛ける。
「ふぅ……今日入れるカースド・タトゥーは、これから先、奴隷娼婦として生きていくアンタへの俺からの餞別だ」
ジカスは、ルルの下腹部を愛でるように撫で回す。
「ンフッ!?」
ルルの身体がピクンと小さく跳ねる。
「ここに、娼婦として役立つ呪いを幾つか入れてやる」
「ンゥゥゥゥ!ングゥゥウウッ!!」
「ああ、それと…………」
「んひゅっ!?……ぅ…………ンンッ!!」
「…………ふん、処女か、なら高く売れそうだ。よし、終わったら知らせろ」
「はい」
ジカスは彫り師にそう告げ部屋を退出する。それと同時にカースド・タトゥーの施術が始まった。
「…………んっ、ン”ゥ”ゥ”ウ”ウ”ウ”!!」
「ムグゥゥウゥウ──────ッ!?」
「──────ッ!」
「───!」
それから8時間以上掛けてルルの下腹部に子宮をモチーフにしたようなハートマークのカースド・タトゥーが刻み込まれた。
「ヒュ───ッ、ヒュ───ッ」
ルルは、長時間の施術で顔は泣き腫らし、息も絶え絶えになっていた。
「ふむ、よく出来ているな。よし、付けろ」
「畏まりました」
ジカスの指示で4人の部下達が分娩台に拘束されているルルに、鈍く光る黒い手枷と足枷を嵌める。
「今、嵌めたのは罪人用の魔道具だ。それを嵌めている限り、人に危害を加える事は出来ず、逃げる事も出来ない」
「……う……ぅぅ…………」
「その首枷も同じ効果を持っている。……ああ、言い忘れていたが、自傷や自害を禁じる効果も付与されているからな」
「ンフッ!?」
「おいおい、まさかその反応……もしかして死んで楽になろうとでも思っていたのか?」
ジカスは、ルルの顎を掴み、顔を覗き込む。
「…………」
ルルは、後ろめたそうに目を背け、押し黙った。
「そんな事、俺が許す訳がないだろ。アンタはこれから奴隷として生き、奴隷として死ぬんだ。楽に死ねると思うなよ」
「…………んぅぅ…………」
「……まあともかく、これでようやくアンタは俺の奴隷になった訳だ!」
ここまでされても未だに実感がわかない、どこか他人事のように感じていた。
自分が奴隷になるなんて、信じられないでいた。
「……フ、フフフ……よし、アレを持って来い」
「畏まりました」
ジカスは部下から先端が赤熱している焼印用の焼きごてを受け取る。
「ンウウウウウッ!?」
ルルは、ジカスの持った焼きごてを見て、これから何が起きるのか分かってしまった。
「俺も……アンタに倣おうと思ってな」
「ムグゥゥウゥウウッ!!ムッグゥゥゥウウゥゥ!!」
ルルは目を見開き、必死に懇願する。
『嫌だ、それだけは嫌だ』と。
「自分の物には、ちゃぁ~~~んと印を付けないとな」
しかしルルの懇願は口枷のせいで伝わる事は無い。
いや、仮に伝わったとしても、その懇願が聞き入れられる事は無い。
赤熱した焼きごてがルルの左胸上部に、グッと押し当てられる。
ジュゥゥゥゥゥ!!
「ン”ッッッ、グゥ”ゥ”ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ゥ”ウ”ウ”ウ”────────────ッッッッッ!!!」
まるで獣の声のようなルルの絶叫が地下室に響き渡る。
肌が、肉が焼ける音、肉が焼ける臭い、そして痛みに耐えかねず失禁してしまった音。
そして男の欲望と女の絶望が渦巻く、この地下で、この日、ルルは人でなくなった。




