隷属の首枷
「よもや昨日の今日で呼び出されるとは思わなかったぞ?」
「そう準備に手間取らなかったんでな。それにアンタも早い方がいいだろ」
「それもそうじゃのぅ」
ルルは、手紙の差出人ジカスに会うべく、昨日来たジカス商会の成金趣味の部屋に来ていた。
今、この部屋にいるのはルルとジカス、そして女秘書の3人だけである。
「初めに聞いておくが、今回から迷惑料としてアンタに渡すのはジカス商会全体の利益の一割では無く、直接迷惑を掛けた人身売買の方で得た利益の一割でいいか?」
「それで良い」
「なら良かった」
女秘書が机に書類の山を並べる。
「これは去年の利益を纏めた書類だ。これが毎月ので、こっちは年間の報告書だ」
女秘書は、ルルの前に次々と書類を出していく。
ルルは、机に置かれた書類を手に取り、目を通していく。
「……よくもまあ、こんなに稼げたのぅ」
「一応、過去三年分を用意したが、もっと見るか?」
「いや、いい」
「そうか。これが今年の分だ」
更なる書類の山がルルの前に並べられる。
「取りあえず今回は、先月の利益の一割を迷惑料として支払おうと思う」
「ふむ」
ルルは、先月分の報告書を確認する。
「額にして金貨2000枚」
「いい商売してるのぉ」
「来月以降の支払いは、月初めに受け取りに来てくれ」
「了解した」
「さて金貨の受け渡しだが……地下で渡す、付いて来てくれ」
「ほぅ、地下とな?」
「ああ、あまり持ち出したくはない金なんでな、地下にある専用の金庫で厳重に保管しているんだ」
「ふむ、仕方ないのぅ」
「よし、付いて来てくれ」
ジカスが席を立つと、秘書が書類の山を次々に暖炉に入れ、火魔法で燃やし始める。
「よいのか?」
「アレは複製だ」
「そうか」
ルルはジカスと共に部屋を出て、地下へ向かった。
「ようこそ、ジカス商会の裏へ」
ジカスの案内で地下に着くと、煌びやかで、これまた成金趣味な空間が広がっていた。
「悪趣味な場所じゃのぅ、目がチカチカするわ」
「ここに来るような連中には相応しい場所だろ?」
「ふん、違いない」
「さて、ここはまだエントランスだ、金庫はこっちだ付いて来い」
「上に行ったり、下に行ったり…………まるでダンジョンじゃのぅ」
ルルは、若干嫌気が差しつつもジカスに付いて行くと、今度は、まんま独房のような場所に着いた。
「ここは?」
「倉庫だよ、大事な商品の」
「成程」
よく見ると首枷や手枷、足枷で拘束された人間やエルフ、獣人の女子供が独房の中にいた。
ジカスの言う通り、ここは正しく倉庫…………人身売買の商品、奴隷を保管する倉庫だ。
「こいつらは九日後にオークションに並べられる」
「…………ふん」
ルルは心底興味無さそうに相槌を打つ。
「……ああ、そうだ、リリ」
「なんじゃ?」
「これに見覚えはあるか?」
ジカスは、手に持った赤黒い首枷をルルに見せる。
「独房の奴隷共が付けていた魔力封じと似とるな。それがどうかしたのか?」
「これはアンタのだ」
刹那、ルルは白金の剣を大量に召喚し、ジカスに向け射出する。
しかし。
「…………なに!?」
突然、白金の剣が制御出来なくなり、ジカスに命中することなく、全て地面に落ちてしまった。
「ジカス!貴様一体何を───ッ!?」
ルルは、言い終わる前に理解した。自分が白金の剣の制御を失った原因を。
ジカスの手物にあった赤黒い首枷が消え、いつの間にか、ルルの首に嵌められていた。
「それは隷属の首輪と言って───」
「チィッ!!」
ルルは、ジカスに施した契約の烙印を起動して、心臓を破裂させようとする。
──────だが。
「なッ!?」
契約の烙印は作動しなかった。
「おいおい、まだ説明の途中だぞ?…………でもまあ大体分かっただろ?そいつは対象の元に転移して強制的に装着させることが出来る。そしてその効力は、極めて強力な魔力の阻害と魔力吸収」
「貴様ァ!!」
「つまり魔法一辺倒のアンタには、致命傷なんだよ」
ルルは、隷属の首輪の妨害の中、神がかり的な集中力と膨大な魔力量で、今にも崩壊しそうな白金の剣をどうにか1本生成し、ジカスを殺そうとする。
その時。
「ガッ、ああああああああああ!!」
白金の魔女から吸い上げた膨大な魔力を使った雷魔法が首輪から放たれた。
「テメェの負けだ、クソババアが!!」
「……あ…ぁ………」
ルルは、失禁しながら意識を失った。




