ジカス商会
ルルが馬鹿な暴漢とマフィアを惨殺してから二日後。
ルルは、ゲロドと一緒にポートリス王国の中心部にある、ジカス商会に来ていた。
ジカス商会とは。
20年以上前にポートリス王国に突如として現れた商会である。
創業当時、他の商会と比べ、特に目立った商品やサービスも無い、誰から見ても将来性の無い小さな商会が何故か年々勢力を拡大、今では王国一の規模を持つ大商会となっていた…………というのがゲロドの話である。
(ふむ、創業当初から人身売買で成り上がったといった所か。……しかしジカス商会か……ジカス、ジカス…………何処かで聞いた覚えがあるんじゃが…………はて、何処じゃったか?)
「あの、今日の会議では…………」
「も~、分かってるよ~。今日は大人しくしてるから~」
「お願いします……」
今日行われる悪巧み会議では幹部連中の顔を見るだけで大人しくしているという話で、ルルはゲロドと共にジカス商会に来ていた。
「この先でオーナー達が、お待ちです」
女性社員にオーナーが待っている部屋に通される。
オーナーが待つ部屋は、モンスターの皮を使った高級な黒いソファ、黒い机、金のシャンデリアと、正に絵に描いた様な成金趣味の部屋で趣味が悪い。
そんな趣味の悪い部屋に男3人、女が1人待機していた。
「お久しぶりです、ジカスさん。今日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますゲロドさん」
60代くらいの銀髪の男がゲロドに挨拶を返す。
(ふむ……あの男が、ジカスか)
ルルは、ジカスを隈なく観察するが……その顔に見覚えは無い。
───だが心当たりはあった。
「ひひっ、キヒヒヒヒ!キヒヒヒヒヒ!!」
ルルが突然笑い出す。
同時に、この部屋にいた、ジカス、ゲロド以外の人間に白金の剣が突き刺さっている。
「なっ!?」
「何だァッ!?」
ジカスとゲロドが同時に声を上げ驚く。
「安心せい、殺してはおらん。意識は奪ったがのぅ」
「お、お前は一体!?」
「なんじゃ?ワシを忘れたのか、ジカスよ。……いや、この姿では無理もないか…………しかし」
ルルは右手に魔力を込め、何かを握り潰すように握り拳を作る。
「ぐ、グゥゥゥゥ!!」
ジカスとゲロドが胸を押さえ、苦悶の表情で苦しみだす。
「『契約の烙印』この痛みはお主も覚えておろう?」
契約の烙印とはルルが得意とする呪術である。
焼きごてによる烙印を押された者は術者に命を握られ、術者は相手に苦痛を与えることも、殺すことも出来る、絶対支配の呪いである。
そして、この烙印は一度押されたが最後、生きている限り解除することも逃れることも叶わない。
先日、ルルがゲロドに施した烙印をジカスも持っていた。
「お、お前……!リリ、リリなのか!?な、何だッ、その姿は!?」
「色々あってのぅ。今は、ルルと名乗っておる。……しかしのぅ、ジカス…………」
ルルは、今も脂汗を出しながら苦悶の表情で胸を押さえている二人を尻目にソファに深々と座る。
「よもやワシの一番弟子である、お主がこんな所で奴隷商として大成しているとは思わなんだ」
「アンタこそ……!とっくにくたばったものだと思ってたのに、まさかそんな姿で俺の前に姿を現すなんてな……ぐぅぅ…………!」
「くひひ、長い人生、お互い何が起きるか分からぬものじゃな」
「…………それで、白金の魔女とも呼ばれたアンタが俺に一体何の用だ?」
「ふむ。実は先日、人攫いに襲われてのぅ。勿論返り討ちにしたが聞けばこの国で禁じられている人身売買をしている者がいるという話ではないか!これでは、また襲われるのも時間の問題。ワシが負けることなどあり得ぬが、一々相手にするのは煩わしい。…………そこで」
「大元の俺を殺しに来たと?」
「お主だけではない、人身売買に関わる者、その全てを」
「クッ…………!」
ジカスは身構えるが、師匠である白金の魔女の強さは身に染みて分かっていた。
抵抗しても自分では万が一にも勝ち目がないことを。それに、この烙印があったんじゃ、そもそも勝負にすらならない。
今の自分に出来るのは絶対の死を受け入れる事だけ───そのはずだった。
「じゃが気が変わった」
「……な……に?」
「貴様が得た利益の一割を毎月ワシに払え、でなければ殺す」
「んなっ!?」
「貴様がワシの可愛い可愛い弟子だから示談で済ませてやると言っておるのだ」
こんな質問意味がない、答えが実質一つしかない質問なんて。
「…………分かった、払う」
ジカスは渋々了承する。
「くふふ、流石はワシの一番弟子、物分かりの良い奴は好きじゃぞ」
ルルは、握り拳を解き、契約の烙印が齎す地獄の苦痛から二人を解き放つ。
苦痛から解放された二人は荒く呼吸をする。
「詳しい話は、また後日。今日は帰る」
そう言うとルルはソファから立ち上がり部屋から出て行く。
ルルが部屋から出て行ったのと同時にジカスの部下を串刺しにしていた白金の剣は魔力の粒子となって消えた。




