#4
やけくそになった僕は、大広前へ戻ってふて寝を決め込んでやることにした。
今日という今日は、起きている時と寝入っている時の境目を見定めてやろうと瞼の裏で意識を集中させたのだけれど、ハッと気がついた時には、机の上に冷たいよだれを垂らし、やけにすっきりとしている己を発見していた。
「お客さーん。そろそろ閉めますよー。お客さーん」
大仰なモップを手にした用務員のおばさんに遠くからせっつかれ、僕は、
「あぁ……、うぇ? あ、はい」
とだけ返事したのだった。頭のてっぺんをポリポリ掻きながら。
首をだらしなく垂らし、机の上に広がったよだれの池をティッシュで拭き取る。
すると、意識の奥底から浮上してきたらしいとびきり古い記憶が、フッと脳裏に蘇ってきた。
せっかくの機会をみすみす逃すのも勿体ないからと、そのイメージとちょっと間遊んでみることに。
お椀のなかの離乳食にテカテカとした指を突っ込み、無心で弄んでいる、とりとめもない記憶の断片。相反する懐かしさと新鮮さが、なんだか変な風に心地良い。
その間僕は、普段から引きずり倒している数多の執着心を、どこかへ置き忘れていた。
そもそも、即物的かつ利己的この上ない動機を携えてこの施設へやって来たことすら、無意識のうちに念頭から除外していた。
(あっ、ついにきた! 起死回生のインスピレーション!)
起き抜け。童心。そして無頓着。
ほんの束の間とはいえ、偶然にも三つのクリア条件を満たした僕に、インスピレーションの女神様は、とびきりの笑顔と、どこまでも柔らかな抱擁をプレゼントしてくださったのだった。背後から、そっと優しく。
次回へ続く




