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#3

 しかしながら、この僕だって、簡単に諦めのつくような物分かりの良い男では決してない。


 そうとは分かっていても、自分だけにはなんとかして女神様の顔を振り向かせたい、と、そう思うのが人情というものだろう?


 そこで、いよいよ締め切りを明日の夜に控え、にっちもさっちもいかなくなった僕は、


 其の一・焦らない

 其の二・強欲にならない

 其の三・自分自身を卑下しない


 以上の必須三箇条をしっかりと胸に刻み付け、夜の散歩がてら近所の温泉施設へ出かけてみることにしたのだった。




 湯舟に浸かって、特段見たくもないおじさんたちの裸体をぼんやりと眺めながら、女神様の見目麗しい乳房を視界の端に探し続けた。


 大広間でやけに薄味なソフトクリームを頬張るのと同時に、両耳だけは抜け目なくそばだてておいて、彼女の細やかな息遣いを聞き逃すまいと注力した。


 ボロ雑巾みたいな漫画本の、古紙臭いページを適当にめくりつつ、鼻腔の先に彼女のかぐわしい香りを捉えようと粘りに粘った。


 しかし、女神様は一向に姿を現さない。その気配すら漂わせない。一体どうして、なぜ、と僕は思う。


 今の僕はおおらかな気持ちでゆったりと構えているから、端から見ればなかなかに紳士然としているはずだ。


 ここへ向かう道すがら、噂にしか耳にしたことのない「博愛精神」とやらを脳内に強制インストールしておいたので、普段なら鬱陶しく思えて仕方がない、その辺のコンビニ前にたむろしていた悪ガキと不良の中間みたいな手合たちにも、慈愛の眼差しを向けることができた。


 微塵もナヨナヨとしておらず、かといって、根拠なき自信家によく見受けられる不遜さも持ち合わせていないので、ついさっき、お釣りを床にばらまいてしまった売店の控えめなお姉さんに対しても、


「ああ、気にしないでください。僕、拾いますから。大丈夫ですよ、うん、うん」


 と、極めて朗らかな態度で接してあげられた。


(僕は頑張ってあなた好みの男を演じているんですよ。起死回生のアイディアを授けてくださいなんて欲張りなことはもう言いませんから、せめてそのお姿だけでも拝ませていただけないでしょうか?)


 個室トイレの便座に長時間腰掛け、身もふたもない祈りを捧げてみたりもした。


 しかし、相も変わらず僕の周囲を取り巻いているのは無碍な沈黙のみ。


 こうなると、彼女がそもそも実在しているのか、それとも否か、その真相自体が危ぶまれてくる。


次回へ続く

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