アヌビス
エンハンブルクのヤクザを内部抗争に持ち込んだ私は
イスキアとルーカーを残して道路の進捗状況を確認するべく道路開発の現場を訪れた。
土建屋「の、ノワール様!ご機嫌うるわしゅう!」
ノワール「進捗は?」
突然、現場に現れた私の手の甲にキスをしようと駆け寄り跪いた土建屋を制して私は現場を見渡した。
土建屋「工程の7割は進んでいます。冬前には使えます。」
その中のデスマスクの一団を見つける。
クリオ「お、ちゃんとプログラミングできてるっぽいな!」
禍津神の能力パペットマスター。
簡易霊を封入した死体を意のままに操ったり、事前に命令コードを簡易霊に入力して、それに沿った行動をさせる。
土建屋「彼らはよく働いてくれるんですが、疲労骨折してもなお、働こうとするんですよ。」
ノワール『ちょっと!?クリオ!』
クリオ「そこまで精密なプログラミングはしてないなぁ。後で書き換えるかぁ。」
私は苦笑いするしかなかった。
生者メイクも考えたが、命令コードが複雑になるとかでクリオに却下された。
ノワール『一度、命令コード書いたら、それをコピペすればいいんじゃないの?』
クリオ「そこまで細かい設定は専門の魔女じゃないと。俺は素人だからな、簡単なのしかできねぇ!」
クリオ曰く、そのすじの魔女、ネクロマンサーでないとちゃんとした、プログラミングはできないらしい。
屍兵達は生者達に混じって黙々と土木作業に従事していた。
ノワール「彼ら(元下層民)は給料を何に使ってるの?」
土建屋「もっぱら、嗜好品の通販ですかね?一部の奴らは風俗に行きたいとか贅沢なこと言ってますけど。」
ノワール「ふーん。」『性奴隷でも捕まえてくるか?』
土建屋「ところで、その、デスマスクの人たちの件なんですが……」
ノワール「何よ、まだなんかあるの?」
土建屋「他の連中は最初こそ強烈な悪臭を放ってたんですが、最近は小綺麗になってきましてね?」
ハッ
ノワール「わかった。みなまで言わなくていい。香木と香水を準備しよう。」
土建屋「ありがとうございます。」
クリオ「あ、屍臭か。」
ノワール『盲点だったわ。すごい悪臭の下層民共に紛れてるから問題ないと思ってたけど。』
チッ
私は舌打ちした。予想できる範疇のことは対処してるつもりだが私はこういうところで抜けてるところがある。
ノワール『反省……しても直らないか。もう、25だし。』
クリオ「大丈夫さ、ノワール。周りがちゃんとフォローしてくれる。お前は自分のしたいように突き進めばいい。」
私はおてんば娘から成長してないのだろうか?
クリオ「残虐性は成長したんじゃないか?」
うるさい。
私はそこからゴブリン達のところを軽く視察して久しぶりに屋敷に帰った。住宅街につく頃には辺りは暗くなっていた。
領地の家々の煙突からは夕飯の煙が上がっている。
ノワール「あら?シチューかしら?いいわね!」(スンスン)
どこからともなくシチューのいい香りがしてくる。こんな時間に帰っても自分にはないだろうからと、イスキアにもらったアンパンをかじる。
クリオ「まぁ、無いよりマシだな。」
屋敷の門まで着くと少し戸が空いており、ヴァイスが宅配業者に対応中だった。
ノワール「ただいま。」
ヴァイス「あ!ノワール!おかえり!」
ヴァイスは興奮気味に大きなダンボールを抱えていた。
ノワール「ヴァイス、何頼んだの?」
ヴァイス「見てのお楽しみさ!ノワール、ご飯まだだろ?一緒に食べようよ!」
アンパンは……別腹ね!?
クリオ「1食くらい、食べすぎても太りゃしねーよ。」
ヴァイスの部屋で一緒に夕飯をいただく。ペットに子犬がいたらきっとこんな感じなのだろう。
ノワール「…………」
ヴァイス「どうしたの?」
ノワール「いいえ、ヴァイスが楽しそうだから見てたの。」
あ、そうだ
と言ってヴァイスは今さっき受け取ったダンボールを開けた。
ヴァイス「じゃーん!見てよ。この前、注文した仮面がようやく届いたんだ!かわいいでしょ?数量限定のレアモノなんだから!」
箱から取り出して見せてくれたのは白い犬のフルフェイスマスクだった。
南方の国の神にそんなのがいたような?
ヴァイス「アヌビスっていうんだ!普通は黒なんだけど、コレはレアで色違いバージョンなんだよ?いいでしょ?!」
正直ついていけない。病気になって顔が崩れてから彼の趣味はマスクのコレクションらしい。
クリオ「俺も欲しい!」
ノワール「…………ヴァイス、それの普通のある?ちょうだい?」
ヴァイス「いいよ!」
私はお風呂から上がると自室に執事を呼んで留守中に起きた出来事を聞いた。
ノワール「隠し部屋で麻薬の精製、いいアイデアだと思ったんだけどなー。」
アルゲン「今後は麻薬畑の隣に小屋を建てて、そこでやりましょう。」
ノワール「そうね。ここに運ぶの運送コストの無駄だったし、そうしてちょうだい?
……あ!そう言えば、麻薬畑の隣に建設中の建物があったわね。」
アルゲン「それです。見られてたんですね?」
ノワール「ここに来る途中にね?」
あ、そうだ。
ノワール「アナタ、確か記憶の操作できたかしら?」
アルゲン「一応、心得ております。」
ノワール「麻薬販売が軌道に乗って、風呂に沈んだ女子がでてきたら、今いるゴブリンとこの娘達と交換してやって?」
アルゲン「危険では?」
ノワール「まあね?でも、血が濃くなるでしょ奴らの?」
アルゲン「そうでしょうけど……」
ノワール「風呂に沈んだ女子は麻薬が嫌でも抜ける。
今の娘達も里帰りできる。
ゴブリン達も血が濃くならなくて済む。我ながらいい事してるわ!そう思わない?」
アルゲン「…………」
ノワール「何よ?その沈黙は……」
私はムスッとした。
たまにアルゲンは含みのある沈黙を作る。失礼しちゃう!
アルゲン「わかりました。その時が来たら、そのように。」
朝、久しぶりに自分のベッドで起きる。
私はヴァイスと共に朝食のトーストをかじっていた。
コンコン
そこへ誰かが部屋をノックする。
アルゲン「イスキアから定時連絡が来ました。」
私はトーストを片手に部屋を出てアルゲンと話した。
ノワール「進展はあった?」
アルゲン「はい。構成メンバーの半数は死傷したそうです。」
ノワール「思ったより早かったわね。」
アルゲン「仕掛ける好機かと。」
ノワール「善は急げね。すぐ出発する!私の馬は?」
アルゲン「いつでも。」
私はヴァイスに挨拶すると男装に着替えて馬屋に向かった。
漆黒の馬が鞍を取り付けられている。それにまたがるとアルゲンがかけてきた。
アルゲン「関所には連絡しておきます。お気をつけて。」
馬を走らせ国境の関所へ向かう。
関所の役人「産気づいた奥さんとこへ戻る?出稼ぎは大変でしょう?よし!通せ!」
ノワール『私、女なんだけど?』
クリオ「胸がないからな、ノワールは。」
ぐっ
もんでもらったら大きくなる。その迷信にすがるのはまた今度だ。
その日の夕飯前にはイスキア達の滞在しているホテルに着いた。
ルーカー「あ、おっか姉さんだ。」
イスキア「コラ!ルーカー、死にたいの?」
部屋ではイスキア達はリラックスした様子でくつろいでいた。
気が張って、途中で切れられても困るから、コレはコレでいい。
クリオ「ハハハ、ノワールにピッタリのあだ名だな。」
ノワール「そのおっか姉さんから命令よ?奴らを潰す。」
イスキア「徹底的にですね。」
ルーカー「地獄を見せてやりましょう。」
ガトロマーノ邸
イスキア「火遁、ヒヘミ、ニシキオロチ。」
門番をしていた二人のヤクザモンの足に後ろからヘビが巻き付く。
ヤクザモン「うわ!なんだ?!」
ヤクザモン「ヘビ!?」
イスキア「着火。」
ボワッ!
「〜〜〜〜!」
2人の門番は声にならない叫びを発しながら炭化した。
ルーカー「塵遁、雷神剣。」
バチチッ!
イスキアの隣りにいたルーカー、その手にしていた刀が雷をまとう。
ルーカー「それじゃ行ってくるわ。ウグイスは俺が出てくるまで待っててくれよな。アルゲンさんいねーんだし。」
イスキア「あっそっか。水遁ないんだ今。」
ルーカー「おいおい、俺ごと丸焼きにする気か?ったく。」
ルーカーはそう言うと、ガトロマーノ邸に入っていった。
ヤクザモン「どこの組のもんじゃー!おお!?コラ!」
スパン!
ルーカーの雷神剣は立ち塞がるヤクザモンを綺麗に両断した。手にしていたドスも骨も臓器も。
ガトロマーノ「うう!?カチコミ?!スリガラのとこの新入りか?!」
ガトロマーノを守っている手勢は10人も居なかった。
ヤクザモン達がルーカーにドスで襲いかかる。
スパン!スパン!
ヤクザモン「おづつ!」
ヤクザモン「あぎゃ!」
斬鉄。
ドスがあってもルーカーの刃を受けれない。ドスの刀身は何の抵抗もなく綺麗に切られてしまう。
ルーカー「知ってるか?酸素を運ぶ赤血球には鉄が含まれてるんだ。」
ガトロマーノ「何いってんだ、こいつ?!さっさとやっちまえ!」
飛びかかるヤクザモンは次々とスライスされていく。
勝てない。
もう、ルーカーに飛びかかろうというヤクザモンはいなくなった。ジリジリ後ずさりするだけだった。
ガトロマーノ「そ、そうだ!銀行にたんまり貯金がある!それをやるから見逃してくれ!?」
ルーカー「そうなんだ?後でもらっとくわ。」
ガトロマーノ「おげ!?」
ブシュゥゥゥ!
突然、痙攣しだしたガトロマーノは、顔の穴という穴から血を噴いて絶命した。
「ひえぇ!」
「バケモンだ!」
「ず、ずらかれ!」
残りのヤクザモン達はドスを捨てて外へ逃げていった。
ルーカー「一人も逃がすわけねーだろ?」
外に出たヤクザモン達の燃える音がする。
ルーカー「さてと、金庫とか漁るかなぁ。」