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辺境伯 ノワール=B•オルクス

先日、父が急逝した。


クリオ「まぁ、アレは不摂生で、だな。毎日、塩辛いツマミで晩酌してりゃそうなる。ノワールはどう思う?」


頭の中の住人の言う通りだ。あの人が健康な老後を暮らせるなどとは到底思ってなかった。


自分の執務机に座って私はハネた自分の毛をいじっていた。


ノワール「炎天下の領地で畑耕してりゃねぇ。脳幹梗塞?バカみたい。」


クリオ「そろそろ、あの話が来るんじゃないか。」


コンコン


クリオ「ほら来た。」


ノワール「入りなさいな。」


ガチャ


アルゲン「ノワール様、国から使節が見えてます。」


ノワール「応接室?」


アルゲン「はい。」


ノワール「わかった。お前はワインを蔵から出してきなさい。」


そう言うと、私は自分の部屋を出て、応接室に向かった。


クリオ「領地のことだろ?」


ノワール「でしょうね。」


ガチャ


ノワール「おまたせしました。当主の娘、ノワールでございます。」


応接室のソファにくつろいでいた国の大臣共に軽くお辞儀。

私の悪い噂は知っているだろうから、さっさと帰ってもらおう。


大臣A「これは、これは、オルクス卿。この度の父君の急逝、心からお悔やみ申し上げます。えー……」


国の使者の一人が長々と社交辞令を述べようとするのをもう一人がソイツの耳元で小さな声で叫ぶ。


大臣B『長居など無用!さっさと本題に入れ!』


禍津神まがつかみのノワール。


私の周囲にいると禍事まがごと、凶事が起きる。サロンの貴族達を通して広まったその噂話は、大臣のみならず、王宮内で知らないものは居ないだろう。


クリオ「そんなに、気にすることでもないだろ?」


その通りだ。


人生に凶事はつきものだ。それが少し多くなるだけのことだ。


そそくさと、大臣が巻物を広げて読みあげる。


大臣A「ノワール=B•オルクスを正当なオルクス家の当主と認め、今後とも我がソリタニア国、辺境領イスラの領地経営をおまかせする。と、国王より仰せつかっております。」


ノワール「謹んでお受けいたします。」


大臣B「では、これに署名を。」


クリオ「さらさらさらぁ〜!」


クリオの声は他の人間には聞こえない。聞こえるの私だけだ。

執事のアルゲンシュタインぐらいだ、そのことを知って驚かなかったのは。

他の者は幻聴だ、悪魔憑きだと騒ぐだけだった。


まぁ、悪魔憑きと言われればそうかも知れないが?


クリオ「奴らと一緒にするな。俺は神だぞ。」


大臣A「ありがとうございます。オルクス卿。」


大臣B「それでは我々はこれで。」


ノワール「お待ちを。客人を、しかも国の大臣様を手ぶらで返したとあってはオルクス家の名が廃ります。」


ガチャ


アルゲン「当家の領地で採れたブドウを使った赤ワインでございます。どうぞ、お持ちになってください。」


大臣達は驚いた様子で受け取っていた。


クリオ「もう廃れてるだろ。って顔だったなw」


私は作り笑いをしながら使節を返した。あー、疲れる。




しばらくして、


私の親友のヴァイスがやってきた。


頭をすっぽりと覆う鉄製の仮面で肌が焼けないようにフードをかぶっている。

さながら、夏場に現れた死神のようにも見える。それを見たメイドたちからも小さく悲鳴が聞かれた。


ノワール「すまんな。ヴァイス。教育が行き届いてなかった。」


ヴァイス「いいよ、気にしてない。だけど、教育と評して、彼女らにひどいことをしないでくれよ?ノワール。」


彼は私のことをよく知っている。彼が居なければメイドをこの後、血を抜いてバラバラにしてたところだ。


ノワール「お見通しか。わかった。やめておこう。」


ヴァイス「ところで、君のところの領地、裏でなんて呼ばれてるか知ってるかい?」


ノワール「いいや?」


クリオ「俺も知らない。」


私の頭の中に住んでるだけあって、クリオは私が知らないことは知らないことが多い。特に最近の出来事とかは。


ヴァイス「炎の巨人スルトの踏んだ土地。だってさ。」


ノワール「ソレは、どういう意味かな?」


ヴァイス「痩せてて、税収が少ないって意味だよ。王族達はそれを酒の席で笑いものにしてるのさ。」


ソレは初耳だ。ソイツ等を拉致って耳と鼻を削ぎ落としてやろう。


ヴァイス「……ノワール。怖いこと考えたでしょ?顔に出てるよ。」


おっと、いけない。


加虐性癖が顔に出てしまう。


ヴァイスは王位継承権のある公爵家の末っ子だ。王宮には出入りしているらしい。病気で崩れた顔を仮面で隠して社交の場に出るとか、とても勇気のいることだろうに……。


ノワール「ふーん。じゃあ、代替わりしたんだ。見返してやろうじゃないか。」


ヴァイス「オー、そりゃぁいい。いつになく、プラスなこと言うね。」


ドキッ


ノワール「そ、そうか?」


私は心を揺さぶられて、照れ笑いした。


ん?ちょっと待てよ。それって、いつも悲観的なこと言ってるのだろうか?私は?


ヴァイス「僕も手伝うよ。」




辺境に漆黒の悪女と不気味な仮面男が揃って出ていった。さぞ、王族、貴族の集うサロンでは面白おかしく噂話が花を咲かせていることだろう。


ノワール「ヴァイスも来るのか?」


ヴァイス「僕はこんなだろ?家にも居場所がなくってさ。」


クリオ「それで、俺らの所に世話になろうって?」


いや、末っ子とは言え公爵家の人間とパイプがあるのはいいことだ。馬車の中で向かい合っているヴァイスは何かの本を読んでいる。いつもの光景。


ヴァイス「君は、危なっかしいからなぁ。僕がついてないと。」


ノワール「おいおい、昔のことだ。」


昔は、虫や爬虫類、両生類を見つけては解体して殺し、剣を振り回して遊ぶような、おてんば娘だったと自戒している。


ヴァイス「ハハハ、今もだよ。」


むむむ……そんなに心配されるようなことしてるか?


クリオ「これからしでかすのかもな?」




父の居た広めの別宅、荷物を下ろすやいなや、ヴァイスは自分の家のようにあれやこれやと執事やメイドに指示を出した。


ヴァイス「後で僕の部屋に帳簿を持ってきてくれ、状況を把握しないと。」


私は素直に関心した。自分は現状把握より、どこを切り開けば宝の山が出てくるかな?とか夢のようなことばかり考えていた。


クリオ「ノワールとは大違いだ。」


ノワール『ヴァイスに来てもらって正解だったかもしれないな。』


私には兄弟は居ないが、出来る弟がいるところはこうなのだろうか?とても、安心できる。


しかし


コン!


ヴァイス「あいた!?」


仮面を小突く。


ノワール「ここは私の家だぞ?」


ヴァイス「あぁ、ごめんよ。気が急いてたかも。」


ゾクゾク


ん〜、やめられない。この高揚感。何ともいじめがいがある。かわいいやつだ。


ヴァイス「またー。」


おっと、また顔に出てたか。


後ろの馬車の所でメイド達に指示を出して荷物の搬入をしていた執事に向き直る。


ノワール「アルゲン。父の部屋は?そこを私の部屋にしよう。」


アルゲン「かしこまりました。ノワール様。」


私はヴァイスを連れて別宅に入って、自分の部屋を探した。


ノワール「無駄に広い。女でも囲ってたか?」


今は亡き単身赴任していた父を邪推する。


褒められたことではないが、病気がちな母と悪魔憑きの娘を置いて領地に逃げるように出ていった父へのささやかな仕返しのつもりだった。


ガチャ


父の部屋を確認する。散乱した書類達が当時の慌ただしさを物語ったている。


ノワール「家族写真か……」


その中に、写真立てを見つける。まだ、病気をする前の母と幼い自分と父の笑顔の写真。


スルトに踏まれた土地。


父は父なりに領地経営に必死だったのだろう。私たちに貧しい暮らしをさせまいと。


クリオ「…………」


ノワール「珍しい、お前でも泣くときがあるのか?」


クリオ「うるせー、目にゴミが入ったんだよ。」


頭の中に居て?何のゴミなんだか。




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