もふっこ学園の乙女事情
勢いだけで書いたのでゆるっとしてます。
もふっこ学園。
それは、もふっこ王国にある歴史ある学園。
今日は桜が舞い散る中、入学式が行われた。
貴族の子息子女が多い中、一匹の女生徒の存在が注目されていた。
「ねぇ、あの子でしょ。特別入学の⋯⋯」
「平民なのに学園に来るなんて。場違いなのに気づいていないのかしら」
遠巻きに噂されているけれど、その言葉はしっかり女生徒に届いている。
彼女はテン。
真っ白でふわふわな毛並み。桃色の瞳。
特異な魔法を使えるということで、王国から入学を許可された少女。
「だから学園になんて来たくなかったんだけどなぁ」
しょんぼりしながら小さく呟き、近道である中庭をズンズン進んでいく。
手続きの書類を渡したいから教員室に来るようにと先生から言われていたのだ。
慣れない校舎をうろうろしていたら遅くなってしまったので、小走りで中庭を抜ける。
ドシン!!!
「ひゃあ」
「うわっ!?」
尻もちをついたテン。
向こう側の校舎に入り、廊下を曲がったところで誰かにぶつかってしまった。
気まずそうに見上げると、ぶつかったのはライオンの生徒だった。
「廊下を走るのは禁止だぞ。気をつけてくれ」
「すみません! 急いでいたものでっ」
「怪我はないかい?」
「はい、ありがとうございます」
差し出された手を取り立ち上がると、金色のタテガミが目の前で揺れた。
「キミは、たしか特別入学したテン嬢だったね」
「⋯⋯はい」
「私は生徒会長をしているライオンだ。キミは平民だと聞いているが」
ここでも見下されるのかと少しムッとするテン。
「ああ、誤解しないでくれ。平民と貴族が一緒ではトラブルが起こりやすい。何かあったら相談してほしいと思ったのだ」
「そうでしたか。お気遣いありがとうございます」
誤解だと言われたのにもかかわらず警戒した態度を崩さないテンに、彼はふっ⋯⋯と笑って行ってしまった。
「おもしろい。この学園で私にそんな態度を取るのはキミくらいだよ。」
???な気持ちのまま教員室に行くと、サーバルキャットの先生が教えてくれた。
「ああ、生徒会長はこの国の第三王子だよ。知らなかったのかい?」
「そんなのっ知りませんよ!!」
どどどどうしよう! 失礼な態度を取っちゃった!
だって王子様とか直接見る機会なんてないしっ。
今さらアタフタとするテンに、先生は優しい言葉をかけてくれる。
「大丈夫だよ、あの子は些細なことは気にしないから。」
⋯⋯あの子?
首をかしげると、「彼は私の甥っ子だ」と爆弾発言。
まさかのサーバルキャット先生も王族だった!
はわわわわわ!!
焦って目がグルグルしていたら先生に笑われてしまった。
「はははっ僕はただの教師だよ。サーバル先生と呼んでくれ。」
そしてウインクしながら「キミの魔法には期待している、これからよろしくね。」と言った。
ピンと立っていた先生の耳がひょこひょこと揺れている。
この先生、ちょっとチャライ気がします!
それにしても⋯⋯びっくりしたぁ〜⋯⋯
立て続けに王族に遭遇して動揺したテンは、書類を抱えながらもヨロヨロと校内を歩いていた。
「たしか⋯⋯あそこを右に曲がれば元の教室に戻れるはず」
渡り廊下に差し掛かったとき、校舎の影から金属のぶつかる音が聞こえてきた。
なんだか気になって、ひょこっと顔を出し覗き込めば男子生徒が模擬戦をしているらしい。
鍛え抜かれた身体で剣を構えるゴリラと、魔法使いの格好をしたキツネ。
二匹とも上級生のようだ。
ゴリラが剣を振るえば、キツネが魔法の盾で防ぐ。
キツネが攻撃魔法を放てば、ゴリラは剣で切り払った。
一進一退の攻防。
「おお〜⋯⋯!」
テンは無意識のうちに拍手をしていた。
拍手の音に気づいた二匹は手を止めて振り返る。
「⋯⋯はっ! すみませんっ邪魔してしまいました!」
「新入生、見学の時間はもう過ぎているぞ。」
「すみません。つい見入ってしまって⋯⋯今から帰ります。」
「楽しんでもらえたなら良かった。時間がある時にまたおいで。」
「はい! ありがとうございます。」
「気を付けて帰るんだぞ」
面倒見の良さそうなゴリラ先輩と、無口なキツネ先輩に見送られて校舎を後にする。
校門を出て帰ろうとしたところで、横にある植え込みに違和感を感じたテン。
周りは揺れていないのに、そこだけが揺れている。
ーー何かいるのかな?
植え込みを覗き込もうとしたら、長い耳がピョコンと現れた。
ウサギさんの耳?
じ〜⋯⋯っと見ていたら、ウサギさんが顔を出したので目があってしまった。
「うわわわっっ」
「あっビックリさせてごめんなさい!」
大慌てで再び隠れたウサギさん。
テンは申し訳なく思って声をかける。
「あの、たしか同じクラスのウサギさんですよね?」
耳がピクリと反応した。
「私、後方の席にいたテンです。同じクラスなので一年間よろしくお願いします」
「⋯⋯⋯⋯」
「えっと⋯⋯? 邪魔してごめんなさい。じゃぁ私は帰るのでこれで⋯⋯」
反応がないからそっとしておこうと思ったのだが、予想外に話しかけられた。
「⋯⋯ねぇ、周りに誰かいたりする?」
「? いいえ、誰もいませんけど」
「本当!?」
ガバッと顔を上げて植え込みから飛び出してきたウサギさん。
「良かった〜!!!」
「どうかしたんですか?」
「僕って見た目がこんなに可愛いじゃん。しかも飛び級で入学した天才だし? 女子に追いかけられて大変だったんだよね」
「ああ⋯⋯なるほど」
そういえばクラスでも女子が騒いでいた気がするなぁ。
「キミは僕に興味なさそうだね」
「え? ええっと⋯⋯そう、ですね。」
「それはそれで何か悔しい気もするけど」
「そういうものですか」
「まぁいいや。同じクラスみたいだから明日からよろしく!」
そう言ってピョンピョン跳ねて帰っていった。
テンは呆気にとられたまま、流石貴族の学園はクセの強い者揃いだなぁと納得したのでした。
翌日。
登校すると早速ウサギさんが跳んできた。
バタバタとやってきたと思ったらテンの背中に隠れるように貼り付いている。
「えっちょ、なんですか!?」
「いいからっ! しー! しー!」
「???」
「ちょっとアナタ!」
後ろを向こうとしたら、突然強い口調で話しかけられた。
「私ですか?」
「そうよ、平民臭いそこのアナタよ。」
「⋯⋯」
「こちらにウサギさんが来ませんでしたこと?」
それが人に聞く態度なのかとしらけた目をしていたのだが、相手のハリネズミ嬢は全く気にしていないようだ。
巻き込んだウサギさんに少々いらつきつつも我慢、我慢。
「さぁ? 私には分かりかねます」
「そう。もし隠していたらタダじゃ済まさないわよ」
タダじゃ済まさないって、どうするつもりかしら。
そのトゲトゲで刺すのかしら。痛そうだわ!!
ハリネズミ嬢の言葉に釣られて思考がなんちゃって貴族言葉になってしまった。
彼女が離れていったのを確認してから深く溜息を吐く。
恨めしそうに背後に目をやれば、いつのまにか木の陰に隠れていたウサギさんが元気よく飛び出してきた。
「テンだっけ? 助かったよ、ありがとう!」
「私は匿うなんて言った覚えないんですけど」
「まぁまぁ。同じクラスなんだから助け合おうじゃないか」
「だったら今度は私が助けてもらいますよ?」
「考えておくよ」
こんのガキは⋯⋯
「ウサギさん! こんな所にいたんですね!」
「やべっ」
ウサギさんは脱兎のごとく逃げていった。
おかげでテンはハリネズミ嬢の恨みを一身に受けることになってしまった。
「アナタ、先ほど私に嘘をついたでしょう」
「そんなっ嘘なんて⋯⋯」
ハリネズミ嬢はトゲトゲの針をビンビンに立てて怒り全開。
ああ⋯⋯ヤバイ気がする。
テンがそう思うのが先か、ハリネズミ嬢が攻撃を仕掛けるのが先か。
ここは逃げるが勝ちだろう。
テンは全力疾走した。
それをハリネズミ嬢はスピンしながら追いかけてくる。
トゲトゲローリングアタックでもするつもりか!?
もうダメだ、追いつかれる⋯⋯!
涙目になりながらそう思ったところで救いの手が届いた。
ぷにぷにの肉球が現れたかと思ったら、もふもふの腕に包まれる。
ーーえっなに⋯⋯?
「大丈夫か?」
心配する低い声に顔を上げると、ライオン殿下だった。
トゲトゲローリングは急カーブを描いてどこかへ行ってしまった。
⋯⋯助かったぁー!
「もしかして、虐められてるのか?」
「いえ、そういうワケではないのですが助かりました。ありがとうございます」
腕から降ろしてもらい、ほっとしたのも束の間。
次の令嬢が現れた。
「殿下、どういうつもりですの?」
いかにも高貴な佇まいのロシアンブルーキャット。
たしか公爵令嬢で、ライオン殿下の婚約者だ。
この状況は⋯⋯勘違いされてしまっている気がする。
「誤解だよ。彼女が追いかけられていたから助けてあげただけだ」
「それにしては距離が近いのではなくて?」
「たまたまだ。キミが困ったときにもすぐに駆けつけるさ」
「そっそういうことなら良いのですが」
照れて赤くなった顔を隠すようにプイッと横を向くブルー先輩。可愛い。
ほっこりしながら見ていたら、恥ずかしそうにキッと睨まれた。
そこへゴリラ先輩とキツネ先輩もやってきた。
「あれっ昨日の子だ」
「ほんとだ」
「殿下とブルー嬢も一緒だけど、どうかしたのか?」
「おはよう二匹とも。テン嬢が困っていたのを助けてあげたところだ」
「また何かあったのか? 昨日も中庭を走り抜けてただろう」
⋯⋯見られてましたか。恥ずかしい。
「皆さんお知り合いなんですね」
「俺達は殿下の幼馴染なんだ」
幼馴染⋯⋯あ、これ高位貴族決定だ。
私なんかが話しかけて良い立場の人達じゃないよ。
ここは、さり気なくフェードアウトしなくては。
「あの、そろそろ教室に行くので失礼します」
彼らの隙間から抜け出そうと思ったのに、完全に囲まれていて逃げ出せる気がしない。
高位貴族は美形でオーラもある。
こんな近くで目にしたら迫力あるし眩しいわ。
対して私は小さなテン。
ただでも身体が大きい面々に囲まれて震えが止まらない。
ライオン殿下、ブルー先輩、ゴリラ先輩に、キツネ先輩。
あれ、ちょっと待って。
彼等って肉も食べるよね。
なんか私⋯⋯私⋯⋯もしかして食べられちゃうのでは!!?
ガクブル。
恐怖を感じたテンは勢いよく逃げ出した。
どこをどう逃げたのか覚えていないくらい無我夢中で走り、気がついたら教室の席で授業を受けていた。
ふぅ。無自覚なまま真面目な自分を発揮してしまったわ。
気がついたら授業をちゃんと受けているなんて、私すごい!
それにしても、もう巻き込まれるのはゴメンだよ。
帰りは変装して帰ろう。
帰り支度をし、今度こそは大丈夫だと自信満々で校門へ向かうテン。
今日のおやつは何かなとウキウキしながら渡り廊下に差し掛かった。
「あれ〜? テン嬢じゃないか。朝と装いが違うんだな」
再び会ってしまったゴリラ先輩とキツネ先輩。
えっっなんでバレた!?
「ななななっなんで分かったんですか?」
「なんでって⋯⋯毛並みはオレンジ色に変化しているけど見た目はあまり変わってないし」
「ガーーーーン!!」
「希少な変化魔法の使い手だと聞いてたけど、まだ使いこなせていないのか?」
今まで無口だったキツネ先輩がグイグイくる。
魔法のことには興味津々らしい。
「うう⋯⋯すみません。」
自分が情けなくてへこむ。
「まだ入学したばかりだし、これから頑張るんだろ。」
「変化魔法が使えるって言うから楽しみにしてたのに。」
「ううう⋯⋯すみませんんん。」
「お前はそういうこと言うなよ。テン嬢もそんなに怯えなくていいから。」
「本当にすみません。お願いだから食べないで⋯⋯」
「いや、食べないけど。」
「俺はともかくゴリラは植物しか食べないぞ。」
「えっそうなんですか!?」
「食われると思ってたのか。」
だって迫力ありすぎなんですよぉ(涙
その後、ゴリラ先輩に謝って、魔法大好きキツネ先輩と変化魔法の話題で盛り上がった。
彼等の協力があれば魔法を使いこなせる日もそう遠くはないだろう。
頑張れテン。負けるなテン。
テンの学園物語はまだ始まったばかりだ。
ここまで読んでいただき有難うございます!
転生モノとか悪役令嬢モノとか大好きでよく読んでいるのですが、自分で書きたくても向いておらず⋯⋯コメディならなんとか書けるかもと思ったのでもふもふの世界でお届けしてみました。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。もふ〜ん!