彼女に尾行される僕。彼が心配過ぎる私。
~勇者視線~
僕は魔王の討伐へ向かっている。今回の相手は女の魔王らしい。出発前に僕が誘惑されるのではと、女神に心配された。ここまでは問題はなさそうだ。だが……
「僕は気づいていますよ。出てきて下さい」
サングラスかけた女神が僕を尾行している。
「気のせい……きのせい……私は木の精霊」
木の陰から顔を出しながら、女神が誤魔化そうと必死だ。この人暇なんじゃ……
「何をしてるのですか?」
ため息つく僕に女神が呟いた。
「あなたを見守っています」
ここまで来たんなら、魔王討伐自分でしなさいよ……
「僕が信用できないのですか?」
僕は女神に詰め寄った。
「どこにも行かず、帰って来てくれる?」
女神は涙目になりながら、囁いた。
「僕は女神様のもとに必ず帰ります」
ちょっと嬉しかった。なんだかんだ僕の事を思ってくれているのかと思った時だった。
女神の懐から大量の魔王討伐リストが落ちてきた。バツが悪そうな女神が口を開く。
「まあ、次あるし早く終わらせなさい」
これが本音かい!
~女神目線~
彼が今日向かうのは、女の魔王。
嫌な予感がしてならなかった……
だから私は、こっそり彼の後をつけていた。
サングラスで変装し、木の陰に身を潜める。
完璧な変装……のはずが、彼にすぐに見つかってしまった。
「僕は気づいていますよ。出てきてください」
しまった……
顔を出しながら、私は精一杯の言い訳を口にした。
「気のせい……きのせい……私は木の精霊……」
彼はため息をついたが、怒ってはいない。
きっと、呆れてるだけ……
「何をしてるのですか?」
言い訳なんて、意味がない。
私は、正直に答えた。
「あなたを見守っています」
だって、心配なんだもの……
あなたが無事に帰ってこないかもしれないって、それが一番こわい……
「僕が信用できないのですか?」
私の心を見透かしたように、彼が問う。
私は目をそらして、でも、ちゃんと伝えた。
「どこにも行かず……帰ってきてくれる?」
涙が出そうだった。
でも彼は、静かに、でもはっきりと答えてくれた。
「僕は女神様のもとに必ず帰ります」
その言葉が、嬉しくて、安心した……
でもその瞬間、やらかした……
私の懐から、魔王討伐リストがドサッと落ちる。
彼の顔が引きつっていた。
「まあ……次あるし。早く終わらせなさい」
本当は、絶対に帰ってきてほしいって、伝えたかったの……