生前の悪夢を見た僕。すべてを護りたい私。
~勇者視線~
暗闇。
どこまでも続く、息の詰まるような重苦しい空気。
「おい、まだ終わってねぇぞ!この企画書、今日中だって言ったろ!」
怒鳴り声が響く。見覚えのある天井、蛍光灯の光、キーボードを叩く音。
……これは、前の世界?
「すみません、すぐに修正いたします」
口が勝手に動いている。
報告書の山、終わらないチェックリスト、鳴り止まない携帯電話。
目の下は重く、背中は痛い。電車に揺られて通勤していたときの匂いすら蘇る。
「こんなところに戻りたかったのかしら?」
どこかで、女神の声がした。
「え……?」
「まだ終わってないのよ、早く帰ってきなさい」
その言葉と同時に、目の前の蛍光灯がパチッと消える。
気がつくと、僕はベッドで寝ていた。隣には、心配そうに見守る女神。
「……夢を見ていたようです。すみません、ご心配をおかけしました」
「べ、別に心配なんてしてないわ。あんたが勝手に倒れ……寝てただけだし」
女神様はぷいとそっぽを向いた。
でもその横顔は、ほんの少しだけ、悲しそうだった。
~女神目線~
彼が転生する前…休みもなく働かされ…いつも怒鳴られて、心が疲れていた。
私の横で寝ている彼はうなされている。きっとその時の夢を見ているのでしょうね…
でも…安心してね、あなたの事は私が守るんだから。
そろそろ彼を起こしてあげないと…
「こんなところに戻りたかったのかしら?」
私の声に反応する彼。
「え……?」
「まだ終わってないのよ、早く帰ってきなさい」
その言葉と同時に、彼は完全に目覚めた。
もう大丈夫だからね…でも私が不安そうだったら、彼も安心できないか…
彼が私に謝ってくる。
「……夢を見ていたようです。すみません、ご心配をおかけしました」
謝らないで、私はあなたと一緒に入れることが幸せなんだから…
「べ、別に心配なんてしてないわ。あんたが勝手に倒れ……寝てただけだし」
私は彼の顔を見ることができなかった。
必ず救うから、一緒に頑張ろうね……大好きなんだよ……