終わりと始まりの神話 〜勇者、神界ブラック企業へようこそ〜
~勇者視線~
僕は名前も記憶も思い出した。そして力も神から引き継いだ。
「思い出したのでしょ?名前も記憶も……」
「はい……僕はこれから……どうすればいいのでしょうか……」
「選びなさい。人間の世界に戻って、限りある人として生きる。それとも……このまま……私たちと……」
「決めるのは、お兄ちゃんだよ」
「勇者クン私と一緒に……」
「オカマ黙りなさい」
死ぬ前に戻るという選択肢……だが……始まりの神に託された力……女神やハナ……魔神……みんなと一緒に……
世界を再生していく……
「決めました。神と約束しましたし、みんなで一緒に世界の再生しましょう」
「本当にいいの?」
女神の問いかけに、僕は笑ってうなずいた。
「……ええ。逃げるのは、もうやめにします」
始まりの神が遺した力が、僕の中で静かに脈打っていた。
この世界を再び生かすために――僕はここにいる。
女神、ハナ、魔神。
僕たちは並んで、空に手をかざす。
大地は光に満ち、枯れていた空間に新たな命の気配が広がっていく。
「いよいよね……」
「大変よぉ?社畜生活の始まりよぉ?」
「誰が社畜よ」
「まあ、私たちが揃ってるなら大丈夫でしょ」
仲間たちの声に、心がじんわりと温かくなる。
僕はもう一度、空を見上げた。
「始まりの神様。見ててください……あなたが信じた未来を、ちゃんと繋げてみせます」
~数日後・神の本部「再生局」~
「勇者くん、ここの書類全部片付けておいて♡」
「えっ!?それ僕の担当じゃ――」
「私は花を咲かせてくるから」
「私は昼寝よ」
「なんで僕だけ働いてるの!?僕もう神だよ!?最上位だよ!?」
女神が書類の山を横目に微笑む。
「神にも役割ってものがあるのよ、勇者」
「それって、社畜ってことですよね!?」
「気付いちゃったか……」
魔神が肩をポンと叩いた。
僕は涙をこらえながら書類の海に沈んだ。
それでも――
この世界を守れるなら。
誰かが笑えるなら。
ちょっとくらい、神の社畜生活も……悪くない。
たぶん。
(たぶんじゃない。マジでキツい)
――それでも、今日も僕は働く。未来のために。