偽物に、偽れない想い出の向こう側
~勇者視線~
女神とハナが近づいている。似ているが、雰囲気が違う。目に生気がない。
「さあ、戦うのです」「お兄ちゃん…手加減なしだよ」
2人はこんなこと言わない……偽物だと分かっていても……戦う事なんてできない……
「僕には戦う意思はない……」
「あら、私たちには関係ないわ……」
「無抵抗でもいいよ……」
2人が迫っている。僕はゆっくり下がる。距離を保つ。
「逃げるだけでは終わらないわよ」
「私たちを倒さないと超えられないよ」
分かっている。でも……できない……偽物だとしても……
「臆病と優しさは違うのよ」
「お兄ちゃん…逃げるの?」
「僕には……君たちを傷つけることはできない」
2人は微笑む。だけどその笑顔は、冷たく歪んでいる。
「なら、ここで終わりね」「残念……さようなら、お兄ちゃん」
2人の姿が揺れ動き、黒い影のようなものが広がってくる。足元を飲み込もうとする闇――僕は目を閉じた。
そうだ。目を閉じよう。戦うことじゃない。拒絶することでもない。
僕が貫くのは――信じることだ。
僕はゆっくり膝をついた。そして、心の底から思いを言葉にする。
「たとえ偽物でも……僕の知ってる2人は、そんな風に誰かを脅したりしない。僕は信じてる。あの笑顔も、あの言葉も……全部、本物だったと」
沈黙が広がる。
次の瞬間、黒い影が止まり、風が吹いた。祠の空気が変わる。
「……強いね」
女神とハナの声が重なった。それは、さっきまでの冷たい声ではなかった。
「偽物でも……想い出の重みは消えないんだね」「ありがとう、お兄ちゃん」
2人の姿が光に包まれ、やがて消えていった。
僕はその場に倒れ込んだ。涙がこぼれていた。
戦いではない方法で、僕は自分の心に勝ったんだ。
~女神目線~
彼は選んだ……剣ではなく……心で超える道を……
優しさは……時に強さに勝る……おかえりなさい……ありがとう……無事に帰って来てくれて……