最終決戦、ビーチフラッグで全力疾走~応援の力、女神に届くとき~
~勇者視線~
戦いの空気が、一気に変わった。
先ほどまでとは違い、場の空気がピリッと張り詰めている。
目の前の女神は、まるで“格”が違った。
まるで、99人の勝負はこの戦いのための“前座”だったかのように。
「うちとの勝負は、あの旗を先に手にした方が勝ちよ」
赤い旗が、風に揺れている。地面には白線。距離にして20メートルほど。
ビーチフラッグ。
ふざけてるようで、空気は一切軽くない。
「ルールは合図とともに走り、旗を奪い合う。ただし、スピードだけでは勝てないわ」
その言葉と同時に、地面がゆらりと揺れた。
砂が、生きている?いや、これ、ただの地面じゃない……
「この砂は“記憶の砂”。あなたたちの記憶の重みが、そのまま足にのしかかる。過去に逃げた分だけ、重くなる」
記憶の砂――それは、罪悪感や後悔、忘れようとした感情を具現化したもの。
「逃げた記憶は、足を引っ張るのよ」
敵の女神が歩き出す。まるで何の抵抗もないかのように、砂を切り裂くような足取り。
「私は、もう全部受け止めてるから。だから、軽いの」
そのとき、横で我らが女神が苦笑していた。
「いや、ちょっと待って、私これめっちゃ重いんだけど」
それが、あなたの罪の重さ……
「ハンデ上等よ!かかってきなさい」
我らが女神は開き直っている。
「お姉ちゃん!気合よ!根性よ!」
ハナの目が血走っているように見てる。気合入れすぎだからね……
「女神様!信じています!」
僕も声援を送った。すると、女神が光ったように見えた……なんだ……
「何だか力が溢れてきたんですけど……」
もしかして……僕はさらに声援を送った。
「女神様なら勝てます!」
女神がさらに輝く。やっぱりそうだ……
僕はハナにも声援を送るように伝えた。
「ハナちゃん僕たちの声援が女神様に力を与えている」
「うん、わかった。やってみる」
僕とハナは声が枯れるくらい声援を送り続けた。
「あんた達、ありがとう。体が軽い……力が漲ってる……負ける気がしないわ」
そして運命のスタートの時。
「よーい……」
空気が張り詰める。
「――スタートッ!!」
スタートダッシュは互角。やや、敵の女神がリードしているように見える。
半分の10メートルが過ぎる、まだ互角。砂煙が立ち込めている。
我らが女神の足取りの方が力強く感じる。敵の女神も負けずに走る。
残り5メートル。「女神様!もう少しです!勝ってください!」僕は叫ぶ。
女神の足元から虹のような光が輝きだす。
「負けないんだから!」
叫ぶ女神。走るというより飛んでいるかのように前に進む。
そしてそのまま旗をつかんだ。
「勝者!女神!!!」
「やったー!」「お姉ちゃんすごい!」僕とハナは飛び上がって喜んだ。
~女神目線~
――勝った。旗をこの手に、しっかりと握ってる。
でも、まだ心臓がドクドクいってる……なんなの、この感覚。勝っただけなのに、胸が熱くて、泣きそう。
私、ずっとひとりで戦ってきた気がする。
記憶はまだ完全じゃないけど――そう、たぶん……私は、誰にも頼れなかったんだ。
強がって、全部自分で抱えて、誰かに任せるくらいなら壊した方がマシって、そう思ってた。
でも、今は違う。
あの子たちの声が、背中を押してくれたの。
「信じてます」って……なんでそんな言葉で、涙が出そうになるのよ。
でも、あの声に包まれて――心が軽くなった。記憶の砂も、痛みも、全部。
応援されるって、こんなにあったかいのね。
声って、力になる。
気持ちって、ちゃんと届くんだ。
私は今、ちゃんと「誰かと一緒にいる」って感じてる。
忘れないように、大事にしまっておこう
私の記憶の、一番柔らかいところに。