選択の門──勇者の意志が世界を裁く時
~勇者視点~
光の中から、誰かの声が聞こえた。
「お兄ちゃん……聞こえる……返事して……」
「ハナ……」
周囲の空間がゆっくりと揺らぐ。
闇の中に、わずかに現実が滲み始めていた。
「こっちに来ないで……女神様まで来たら、あの人たちが……」
「遅いわよ、全く……。けど、ちゃんと拾いに来たわ。あんたを一人にするわけないでしょ」
女神の声──懐かしくて、あたたかい。
それが胸の奥まで届いた瞬間、僕の視界が再び“試練の空間”に引き戻される。
いや……違う。
「ここは……門」
真っ黒な空間に、巨大な鍵穴のような構造が浮かび上がっていた。
その中心に、黒仮面が立っている。
「勇者よ。試練を乗り越えたな。だが、それは同時に“扉の鍵”を完成させたことを意味する」
「どういうことだ?」
「君の記憶は封じられていた。始まりの神が最後に創った拒絶の鍵──君は神を拒絶する意志そのものとして作られた存在。だが、記憶が戻った今、君の意志は開門の引き金となる」
「なんだと……?」
「選べ。赦しか拒絶か。いずれにせよ、世界は終わる。君の選択が、始まりの神を起こす」
その瞬間、門が脈動を始めた。
黒い光が脈々と走り、空間そのものが震えている。
「くそっ……!」
僕は剣を抜いた。
だが、剣が震えていたのは、空間のせいじゃない。
僕自身が──恐れている。
この選択が、本当に世界の形を変えてしまうのかもしれないということを。
「あなたは迷っている。いいでしょう……選ばせてあげます。これは選択の儀。最終試練です」
黒仮面が指を鳴らす。
「どうか、あなたが人間であった記憶に裏切られますように」
~女神視点~
「門が動き始めた……」
「お兄ちゃんが開けようとしてるってこと!?」
「いいえ。彼はまだ選んでいない……でも、門は動き出しているの。彼の存在そのものが、神域に干渉する力を持っているから」
「じゃあ止めないと!」
「止められるのは、私たちじゃない……彼自身だけよ」
でも……信じてる……あの子は……きっと選べるわ……世界の終わりではなく始まりを……