少女と偽りの村から加護なき地へ
~勇者視線~
目の前に少女がいる。村が襲われているから助けてほしいと言っている。事前情報にはない。明らかに罠だ……だが……
「女神様、行ってきても宜しいでしょうか?」
「賛成はしない。でも、ダメって言ってもアンタは行くんでしょ」
「お兄ちゃん……あぶないと思うよ」
2人は反対している……やはり無謀なのか……
少女は泣きそうな瞳で、僕を見上げていた。
「村が……燃えてるの。お願い……助けて……」
表情に嘘はない。だが、魔王討伐後すぐ、しかも女神の観測にも引っかからない異常事態など、本来ありえない。
――でも、見捨てられるか?
「女神様。罠だと分かっていても、助けを求める声を無視はできません」
「本当に……バカね、アンタは」
女神の声が、少しだけ震えていた。
「……じゃあ、せめて私の加護を最大限に上げておくわ。戻ってくること。絶対に」
「お兄ちゃん……」
ハナの声がかすかに揺れる。
「ちゃんと、帰ってくるって約束して……」
僕は微笑んだ。不安を押し殺して……
「約束するよ。僕はまだ、やることがたくさんあるからね」
少女の案内で森の奥へと進む。空気は静かで、しかし異様なまでに冷たい。
村なんて……ない。
「やっぱり……そうか」
僕の言葉に、少女は笑みを浮かべた。無垢な子供の笑みではない。歪んだ、作り物の顔。
「あなたは優しい人ですね。あの方のお心に触れる素質があります」
その言葉と共に、少女の身体が歪み始める。肌がひび割れ、仮面のような黒い面が、額に浮かび上がった。
「門を開くには、試練が必要なのです」
「試練……」
その時、周囲の木々が、空が、大地が、世界そのものが反転したかのように歪み始める。まるで現実が剥がれていくような感覚。
これは……見たことのない空間だ。
「女神様、通信が……」
声が届かない。加護が遮断された……
「ここは神域の境界――門の裏側」
少女だったモノが、仮面の男の声で囁く。
「我らは確かめる。あなたが味方なのか、それとも敵なのかを」
深淵のような闇が、僕を包み込んだ。
~女神視線~
彼の気配が消えた……
まさか……これは門なの……
あの子を介して、無理やり神域の境界に引きずり込んだのね。やり方が強引すぎる……
彼を……一人にするつもりはなかったのに……
いつもそう……誰かを助けるために……自分を犠牲にしようとする……
そんなの……見ていられるわけないじゃない……