黄泉の泉に映る面影~幻の両親と黄泉の守護者~
~勇者視線~
金満堂の話を信じて、僕たちは黄泉の森の奥深くを目指していた。
霧が濃くなり、薄暗い森の中で足音だけが響く。
鬼子は少し不安そうだ、僕の袖を掴んでいる。
「お兄ちゃん……ちょっと怖いかも……」
「大丈夫だよ。僕がいるし、女神様もいるから。」
「ふふん、安心しなさい。何か出てきたら塩で一掃するわ。」
頼もしいけど……それでいいのか……
しばらく進むと、森の奥から不思議な音が聞こえてきた。
「ぽちゃん……ぽちゃん……」
「水音……?」
「泉が近いのかもしれないわね。」
森を抜けると、そこには静かな泉が広がっていた。
水面が青白く光り、神秘的な雰囲気が漂っている。
「ここが黄泉の泉……」
鬼子が泉に近づこうとした瞬間、突然水面が揺れた。
「誰だ……この泉に近づく者は……」
水の中から現れたのは、巨大な蛇の霊だった。
「貴様ら、何の目的でここに来た?」
鬼子が一歩下がり、僕が前に出る。
「僕たちはこの子の両親を探しているんだ。ここにいると聞いて……」
「愚か者……この泉は黄泉の涙……その者たちが触れる資格があるか、試させてもらおう!」
巨大な蛇が咆哮し、水しぶきが飛び散る。
「うわっ!」
「きゃあ!」
女神が冷静に構えを取る。
「厄介ね……霊体の蛇か。これは塩が効かないタイプね。」
え……塩って……万能じゃないのか……
蛇が頭をもたげ、巨大な口を開けて噛みついてきた。
僕は剣で迎え撃つが、霊体に刃が通らない。
「くそっ……物理攻撃が効かないなんて!」
「この泉を穢す者は許さぬ!」
蛇が体を巻きつけてくる。
「ぐあっ!」
体が締めつけられ、息ができない。
「お兄ちゃん!」
鬼子が必死に駆け寄るが、蛇が尾で彼女を弾き飛ばした。
「うわぁっ!」
「鬼子!」
女神が策を考えている。
「ちょっと……ヤバいかも……」
蛇が僕をさらに締め上げ、意識が薄れていく。
その時——
鬼子が立ち上がり、真剣な目で蛇を見つめた。
「もう……許さない……」
鬼神化の気配だ……でも……前とは少し違う……
鬼子の体が光り、鬼神の力をまとっているのに、冷静なままだ。
「やめて……お兄ちゃんを傷つけないで……」
鬼子が両手を合わせ、祈るように呟いた。
すると、泉が淡い光を放ち始め、蛇が苦しそうにのたうち回る。
「な、なんだ……この力は……」
鬼子が穏やかな表情で言った。
「お願い……静かに眠って……」
蛇が少しずつ消えていき、その場に光の玉が浮かんだ。
「すまぬ……やはりその子は……」
蛇の霊が完全に消え去り、泉が再び静けさを取り戻す。
僕は膝をつきながら鬼子に近づく。
「す、すごいね……どうやったの……」
鬼子が困ったように笑う。
「わからないけど……何かが自然に流れ込んできて……」
女神がため息をつきつつ微笑んだ。
「この泉の力を使ったのね……やっぱり鬼子、ただの子供じゃないわ。」
すると、泉の水面に映るように二人の人影が浮かんだ。
「これは……!」
男女が手を繋ぎ、優しく微笑んでいる。
「父さん……母さん……」
鬼子が涙を浮かべて手を伸ばすが、人影はすぐに消えてしまった。
「待って……待ってよ……」
女神が鬼子の肩をそっと抱いた。
「大丈夫よ、きっとまた会えるわ。」
鬼子が涙を拭き、僕に笑顔を向けた。
「うん……絶対会えるよね!」
僕は鬼子を抱きしめながら、心の中で誓った。
——絶対に本物の両親を見つけてやる。
そして、もう二度と悲しませないって。
~女神目線~
この子の力はやっぱり特別ね……でも両親が泉にいるってことは……
何かもっと深い事情があるのかもしれないわね。
これからの旅、ますます面倒になりそうだわ……