黄泉の宿と記憶を繋ぐ温泉
~勇者視線~
黄泉の国をひたすら進む。薄暗い世界、かすんで見える。そんな中に明るい提灯が……
場違いな宿屋が現れた。もういいよ……オチは出られなくなるとかでしょ……
僕が無視して進もうとすると……客引きが僕の前に立ち引き止める。
「旅人さん寄って行ってくださいよ」
「間に合っています」
「うち温泉が自慢なんです」
「血の池ですよね?」
「いやいや、効能がすごいんですよ……」
そんなやり取りをしていると、鬼子が「おじちゃん……」と呟く。知り合いなのか……
「ちょっと寄っていこうか?」女神が提案した。
うーん……イヤだけど……鬼子ちゃんの為か……
宿の部屋は綺麗で快適だった。お風呂も色を気しなければいい湯だった。料理もおいしく満足した。
さてと……本題のおじちゃんに話を聞くか……
「この子に見覚えありますか?」
僕は鬼子の写真を客引きの男に見せた。客引きの男はしばらく考え込む。
「昔の事だからな……見たことあるような……」
そこに女神がしゃしゃり出た。横に鬼子も一緒にいる。
「記憶を呼び覚ますにはこれが一番よ!」何するつもりだよ!!!
女神は催眠術セットを取り出した。催眠術師かよ…… てか、そのヒラヒラのマントどこから出したの……
男が渋い顔をしている。
「やっぱり似てる……昔、うちの宿に泊まってた村の子供だ。村が襲われた時、必死に逃がそうとしてた女の子がいたんだよ。村の守り神に捧げられるって聞いてたが……あの時助けてやれなかった……」
「そっか……」鬼子が俯く。
「でもな、その時の子供たち……全員無事だったんだ」
「え……」鬼子が驚いて顔を上げた。
「お前が時間稼ぎしてくれたおかげで、村の連中が隠し通路に逃げ込めたんだ。だから……お前が守ってくれたんだよ」
「私が……?」
「そうだ。俺たちは感謝してる。お前のおかげで生き延びたんだ」
「ありがとう、おじちゃん」
鬼子がふっと笑った。
「ほら、ちゃんと守れたじゃない」女神は意地悪く言うが鬼子は笑顔だった。
その笑顔は心から笑っているように見えた……
~女神目線~
やっぱり……この子は救えていたのね……なら何で恨むような霊もいるのかしら……
まだまだ調べていく必要があるみたいね……