第5話 出発
その夜、ツヨシは暖炉のそばでカメラをじっくりと調べていた。
レンズを覗き込み、シャッターを何度も押してみたが、あの時のような強烈な光は発生しない。
「サン フラッシュ…偶然じゃないはずだ」
ツヨシは呟きながら、もう一度カメラを操作した。しかし、何の反応もない。
その時、ティナが後ろから声をかけてきた。
「ツヨシ、その光、きっとまた使えるわよ」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、あの光は普通じゃなかったもの。ただのカメラであんな威力が出るはずがないわ」
ツヨシはカメラを見つめながら考え込んだ。
確かに、あの光はこのカメラが持つ特別な力だと思わざるを得ない。
「夜間なら使える。でも、一度使うと次に使えるまで時間が必要みたいだ」
「時間が必要…?」
ティナが不思議そうに首をかしげた。
「ああ。でも、もしこれをうまく使えれば、俺たちの武器になるかもしれない」
ティナは頷き、真剣な眼差しで言った。
「きっと、このカメラが私たちを助けてくれるわ」
暖炉の温もりの中、ティナが静かに話しかけてきた。
「ねえ、ツヨシ」
ティナの表情には、不安と決意が混じっている。
「どうした?」
ツヨシが顔を上げると、ティナは少し考え込んでから話し始めた。
「最近、この森でも魔物が増えてきてる。そして、それがどんどん大きく、強くなっているの」
ツヨシはティナの話を黙って聞いていた。
「魔物は夜にしか活動できないみたいだから、昼間は今のところは安全よ。でも、だからって安心していると、いつか昼間にも活動できる魔物が現れるかもしれない」
ティナは暖炉の火をじっと見つめながら、さらに言葉を続けた。
「おじいちゃんから聞いたんだけど、昔から伝わる言い伝えでは、天界に行けば魔物を浄化する方法が見つかるって」
「天界って、神様がいる場所なのか?」
ツヨシが尋ねると、ティナは首を横に振った。
「それは分からない。でも、何かがあるはずよ」
ティナは少し間を置いて話を続けた。
「ここから2、3日かかる所に、伝説の洞窟があるの。その洞窟の奥には、天界へと通じる異次元の扉があると言われているわ」
「扉…か」
ツヨシは地図を見ながら呟く。
「ただ、その扉を開くには何か特別なアイテムが必要らしいの。でも、何が必要かまでは分かっていないの」
「アイテム…どんなものなんだろうな」
「わからない。でも、それをまず探さないと・・・」
ティナはさらに付け加えた。
「その扉の先に何があるのかも分からないし、たどり着けるかどうかも分からないの」
ティナはツヨシの目をまっすぐに見つめながら言った。
「ツヨシ…お願いがあるの」
「私と一緒に、その洞窟まで付いてきてほしいの。私一人じゃ怖いから・・・」
その言葉に、ツヨシは少し驚いたが、すぐに頷いた。
「もちろんだ。一緒に行くよ。俺にできることがあるなら力を貸すよ」
ティナは安心したように微笑み、感謝の言葉を口にした。
「ありがとう。うれしいわ」
ツヨシは立ち上がり、周囲を見回しながら言った。
「何か武器が必要だな。俺が襲われたみたいに、盗賊だって出るかもしれないし、手ぶらじゃ危険すぎる」
ティナは少し考え込み、棚の奥から古びたハンマーを取り出した。
「これがあるけど…おじいちゃんが昔、使ってたものよ」
ツヨシはハンマーを手に取った。
「盗賊が相手なら、何とかなるかもしれない」
翌朝、二人は冒険の準備を整え、街へ向かうために出発した――新たな物語が動き出す瞬間だった。
(続く)