第4話 希望の光
ツヨシと少女は、冷たい夜風が吹きすさぶ森を抜け、ようやく彼女の家にたどり着いた。
家は古びた丸太作りで、木々に囲まれた中にひっそりと佇んでいる。
窓から漏れる暖かな灯りが、冷え切ったツヨシを優しく迎え入れるようだった。
「ここが私の家よ」
少女が振り返り、ほっとしたように微笑む。
その笑顔に、ツヨシは思わず息を呑んだ。
「えっ…!」
暗がりの中では気づかなかったが、少女は驚くほど美しかった。
整った顔立ちに涼しげな目元、さらりと揺れる長い髪――彼女の姿は、ツヨシが現実世界で憧れているアイドル、リナにそっくりだった。
「ど、どうしたの?」
少女が不思議そうに首をかしげる。
「あ、いや…なんでもない!」
ツヨシは慌てて目をそらしたが、胸の高鳴りを抑えることはできなかった。
ツヨシは暖炉の前で体を温めた。身ぐるみをはがされてパンツ一丁で冷え切っていたせいか、火の温もりが骨の芯まで染み渡るようだった。
「少し待ってて」
少女は奥の部屋に入り、すぐにシャツを持って戻ってきた。
「これ、おじいちゃんが昔使っていた服だけど、これを着て」
ツヨシが受け取ると、背中には大きな文字が書かれていた。
「…『ヨワシ』?」
彼は思わず吹き出した。
少女もその文字に気づき、少し恥ずかしそうに笑った。
「本当は『キョウシ(教師)』って書かれてたの。おじいちゃん、学校の先生だったから。でも、文字が剥がれてこうなっちゃったの」
「今の俺にはぴったりかもな」
ツヨシはシャツを着ながら苦笑いを浮かべた。「弱い」と自覚している自分を表すようで、少し悔しい気もしたが、逆にそれが小さな決意を生むきっかけにもなった。
暖炉の温もりに包まれながら、少女は食事を差し出した。
焼き立てのパンと水、それだけの質素な食事だったが、ツヨシには心地よく感じられた。
「そういえば、まだ名前を言ってなかったわね」
少女が微笑みながら言った。
「私はティナ」
「ティナか…」
ツヨシはその名前を聞いて再び驚いた。リナにそっくりな見た目だけでなく、名前まで似ているのは偶然だろうか。彼は少し考え込んだが、すぐに答えた。
「俺はツヨシ」
ティナは少し驚いたような表情を見せたが、特に何も言わずに微笑んだ。
ツヨシは、ティナに話しかけた。
「そういえば、そのチェーンソー…すごい武器だと思ってたんだけど」
ティナはくすりと笑い、肩をすくめた。
「ただのチェーンソーよ。木を切るための道具。森で木材を取ってただけなの」
「マジか…。てっきりチート武器かと思ってたのに」
どうやら、この異世界では、チェーンソーはただの道具でしかなかったようだ。
暖炉の温もりに包まれながら、ティナはツヨシに話しかけた。
「さっきのことだけど…あの光、すごかったね!」
「ああ、さっきのカメラのこと?」
ツヨシは手元のカメラを見ながら返事をした。
「あんなに強烈な光で、魔物を無力化するなんて。何かの武器か技なの?」
ティナが目を輝かせて聞いてくる。
ツヨシは少し困ったように首を振った。
「いや、そんな大層なものじゃない。ただの古びたカメラだよ。偶然うまくいっただけだよ」
ティナは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んだ。
「でもあの光、信じられないくらい眩しかった・・・」
ティナは真剣な目でカメラを見つめる。
「ねえ、それを『サン フラッシュ』って呼ばない?だって、まるで太陽みたいに私たちを守ってくれたじゃない。」
その言葉に、ツヨシは少し考え込みながら頷いた。
「…確かに。希望の光って感じがするな」
夕食を終えた後、ティナが真剣な表情で話し始めた。
「ツヨシ、少し話しておきたいことがあるの」
「なんだ?」
「私は、昔、おじいちゃんから教わった回復魔法を使えるの。でも、限界があるわ」
ティナは説明を続けた。
「死んでしまった人や、大きな怪我を治すことはできないし、自分に使うこともできない。でも、軽い傷や疲労なら癒せるわ」
「それでも十分すごいよ!」
ツヨシは素直に感心したが、ティナは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「それだけじゃなくて、少しだけ未来を見ることもできるの。ほんの数秒先までだけどね」
「未来が見える…?」
「そう。だから敵の攻撃を避けることはできるの。でも、それを活かして戦う力は私にはないの」
ツヨシは彼女の言葉に心を締め付けられるような感覚を覚えた。
「俺がなんとかするよ。これからは俺が君を守る」
「私だけなら、敵の攻撃を避けられるから、大丈夫よ」
ティナがくすりと笑う。ツヨシも笑い返しながら、「それでも」と小さくつぶやいた。
(続く)