第2話 逃げる少女と巨大な影
ツヨシは薄暗い森の中を歩いていた。風が草木を揺らし、どこか不気味な静けさが漂う。
そのとき突然、遠くから鋭い叫び声が聞こえた。
「助けて!」
ツヨシは慌てて声のする方へ目を向けた。木々の間から見えたのは、狼に追い詰められている1人の少女だった。
少女は地面に尻もちをつき、恐怖に顔を引きつらせていた。
鋭い牙を剥き出しにした狼が、今にも飛びかかろうとしている。
ツヨシは思わず茂みに隠れた。心臓がバクバクと鳴り、冷や汗が頬を伝う。
「どうする…?無理だ、俺じゃどうにもならない・・・」
だが、少女が怯えた声で「助けて…」と呟くのが聞こえた瞬間、ツヨシの胸に小さな勇気が灯った。
「俺だって、何もしないわけにはいかない…!」
ツヨシは飛び出した。
「おい!こっちだ!俺を見ろ!」
狼が鋭い目でツヨシを睨みつけ、低い唸り声を上げた。
その時、ツヨシは少女の手に何か光るものが握られているのに気づいた。
「…なんだ、あれ?」
よく見ると、それはチェーンソーのような形をしていた。いや、チェーンソーだ。きっと、そうだ。
「あれは…!当たれば一発で敵を倒す、このゲームに出てくるチート武器じゃないか!?」
狼がツヨシに向かって走り出すと、少女はその隙に立ち上がり、光るチェーンソーを持ったまま全力で逃げていった。
「えっ、逃げるのかよ!?あのチート武器で倒せばいいのに!」
ツヨシは狼から必死に距離を取ろうと後ずさるが、狼の動きは速い。
次の瞬間、狼の前足が地面にある罠のようなものに引っかかった。
「助かった…!」
だが、罠のかかりは浅く、狼は必死に暴れながら、今にも抜け出そうとしている。
「これはまずい…時間の問題だ…!」
ツヨシはすぐに逃げる少女を追いかけ始めた。いや、追いかけているのは、少女ではなく、その手に握られたチート武器、チェーンソーかもしれない。
「ちょっと待って!そのチェーンソー、貸してくれ!」
ツヨシは全力で走りながら叫んだ。
しかし、少女はツヨシの声を無視して、振り返ることなく森の奥へと逃げていく。
「なんで逃げるんだよ!こっちが命懸けで助けたのに!」
ツヨシが愚痴をこぼしていると、背後から狼の唸り声が聞こえた。
振り返ると、罠から抜け出した狼がこちらに向かって猛スピードで走ってきていた。
「くそっ、もう追いつかれる!」
ツヨシは恐怖に背中を押されるように全力で走った。
足がもつれそうになるたびに、必死で踏ん張る。
・・・その時、後ろから突然狼の悲鳴が聞こえた。
「えっ…?」
恐る恐る振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
狼を追ってきたのは、狼よりはるかに大きい、巨大な魔物だった。
鋭い牙を持つその魔物は、狼を一瞬で噛み殺した。狼の体は地面に崩れ落ちた。
「な、なんだよあいつ…!」
「これはやばい…!」
ツヨシは震える足を無理やり動かし、再び前を向いて走り始めた。
「待ってくれよ、少女!いや、チェーンソー!頼むから貸してくれ!」
ツヨシは再び全力で走り始めたが、魔物の重い足音がどんどん近づいてくる。
その時、前方で少女が転ぶのが見えた。
「くっ、ここで止まったら…!」
ツヨシは意を決して少女の元に駆け寄った。
「大丈夫か?頼むから、チェーンソーを貸してくれ!」
ツヨシは、少女からチェーンソーを取り上げた。
それは、間違いなくチェーンソーだった。
少女はツヨシを見上げ、震える声で言った。
「無理よ…そんなのじゃ、あれは倒せない…」
「いや、これしかないんだ!でも、当たりさえすれば!!」
その瞬間、魔物がツヨシに向かって突っ込んできた。ツヨシはチェーンソーのスイッチを入れ、回転する刃を魔物の頭に向けて振り下ろした。
(あ、当たりさえすれば・・・!!)
「くらえぇぇぇ!」
鈍い音がして、刃が魔物の頭に当たった!!
「ガキィィィン!」
魔物の鋭い牙がチェーンソーの刃を噛み砕き、破片が宙に散った。
「そ、そんな…話が違うだろ!」
ツヨシは絶望しながら後ずさりした。チェーンソーはバラバラになった・・・。
(続く)