第七十二話
それから見るに耐えないほどの拷問の日々が始まった。王宮の者は見ていられないといった様子で、皆どこか暗い気持ちになっていた。
“なぜ青藍を殺したのか?”
“毒をどこで入手したのか?”
どれだけ非人道的な拷問の数々に身を引き裂かれようと、血だらけになろうと、蓮司は叫び声すら上げず、ただただ耐え忍んで何も言わなかった。
言えるはずも無いからだ。
蓮司に青藍を殺す気など全く無かったどころか蓮司は本気で青藍を救いたかったのだから。
「………琥珀様。食事ぐらい摂ってください」
望月はダメ元でそう呟いた。
琥珀は何も言葉を返さない。
青藍が殺されたと知らせを受けてからというもの、以前の感情が戻ることはなかった。
ずっと青藍の位牌の前でぼうっと座っているだけの日々ばかりだ。
望月は持ってきた食事を外に置き、琥珀の後ろに座った。
「………なあ、望月」
「………ええ琥珀様」
「天は結局兄上を見放したんだな」
「兄上に最後に会った時、桜がまだ咲いててさ、すごく綺麗だったんだ」
「……えぇ、そうでしたね」
「あんな立派な人がさ、若くして死ぬなんて………しかも殺されただってさ」
「ありえない、ありえなさすぎるだろ!!誰がそんなことできるってんだ!?なんで!誰でも良いじゃないか!いっそのこと俺を殺せよ!!なんで兄上なんだ!!?」
琥珀は居ても立っても居られなくなって、立ち上がり暴れ喚き散らした。
「琥珀様っ……」
望月は琥珀を何とか抱きしめたが力が有り余る若者を止めるのは容易ではなく、すぐに振り払われ、あまりの勢いに望月は尻餅をついた。
「………琥珀様、」
どうしようかと困っているところに、遠くから官吏の声が聞こえてきた。
「ったく……なぜあいつは何も言わないんだ!いつまで経っても仕事が終わらないじゃないか!!」
「ああ、お疲れさんだな。だけど、特定できた毒の名を伝えたらあの医者青褪めていたんだろ?もうそろそろ吐くだろうさ」
一人があることに気付いた。
「ねえねえ君たち。最近王様のお姿を見たかい?私は青藍様の葬儀以降、一回も見ていないんだけど」
「私も見てないな。王様が来てくれたら一発なんだろうに」
おそらく拷問を担当しているであろう男が大きなため息をついた。
「お前ら知らないのか?あいつを王宮に入れたのは王様なんだぞ。そうなると来ないのも納得じゃないか?」
少し能天気そうな官吏がわあ!と驚いた様子を見せた。
「そうなのか!私はそれを知らなかったようだ!そうなると私は……王様にも多少の責任があるんじゃないかと思うのだけど」
一人が最後小さくそう呟いた瞬間、他の二人は青褪めた。
「「黙れっ!!!二度とそんなこと言うな!!」」
琥珀も会話を聞いていたらしく、「ハッ」と鼻で嘲笑った。
「なあ、まだ犯人は生きてるんだって?」
「そ、それは」
望月は目線を逸らすしかなかった。琥珀が何を言うかが予想できたからだ。
「聞いてるんだ!!答えろよっ!!!」
暫く迷った後、ボソっと呟いた。
「………あの者たちの言う通りでございます。まだ何も白状しないようで」
それを聞いた琥珀は上を向いて笑った。
「兄上を殺しといて、自分だけ生き延びようと!?なんて奴だ………!!!ハッハッハッ」
そう吐き捨てた琥珀は何かを思いついたようで扉に手を掛けた。
「どこへ?」
望月が琥珀の手を制止した。
「駄目です勝手に行っては……王様に知られたら」
琥珀は望月に冷たい目線を向けた。
けれど、望月も必死だ。怯まずに手を押さえる力を強めた。
望月の手の力が強くなったのに気付いて、琥珀は大きく嘲笑った。心底おかしいといったように笑うその様子は、あまりにも気味が悪い。
「父上が知ったらなんだって?俺の前でもシラを切ったら俺が殺してやるだけだ」
「ッ!?琥珀様!!なりませんそれだけは……!」
______ブチッ
望月の必死の抵抗を呆気なく振り解き、琥珀はそのまま扉を開けて出て行ってしまった。
「待ってください琥珀様ッ!!」
急いで琥珀を追いかけようとした矢先、何かを踏んだような気がして、望月は床を見た。
「なんだこれは……琥珀様のものではない気が」
そこには薄紫色の、いたって平凡な髪紐が千切れて落ちていた。




