第六十八話
「いや、何とも嬉しい偶然ですね、まさか私の拙息と第二王子様が同じ歳とは………」
「私もとても驚きました………!何だか蓮司さんとはご縁を感じてしまいます。ご子息はどのような子なのですか?私の弟のように腕白な子ですか?」
青藍と蓮司は、自分の宝物のような存在について会話に花を咲かせていた。
実際、青藍と蓮司は二人とも物腰柔らかく聡明であるため、相性は非常に良かった。王宮の外の様子やら、医学のことやら、旬の花とか。生真面目なことから楽しい話まで。日が経つにつれて二人の中は深まっていった。
「いえいえ、私の拙息は活発とは程遠く、いつも医学の勉学ばかりしています。正直私は、こんな愚かな私に憧れてほしくなどないのですが」
「何を仰るのです?もし蓮司さんが父親なら、私もご子息と同じ道を選んだかと思います」
「………有難きお言葉です」
「でも、そうすると、ご子息と私の弟は正反対ということになりますね。弟は勉学が大嫌いなのですよ」
最近は頑張っていますけど、と青藍は可愛らしく付け加えた。
あ、と蓮司も何かを思い出した表情になった。
「これもまた偶然ですね、私の方も、もう少し前にはなりますが、友人ができたようで。その子に実際私も会ったことがあるのですが、かなり元気の良い子で。その子のおかげで、やっと年相応になってくれたというか………父親としてはその子に感謝しているんです」
「それは何とも微笑ましい限りですね………あり得ないことですが、叶うなら蓮司さんのご子息に、弟とも友になってあげてほしいです」
「………青藍様?それはなぜ、」
青藍は少し切なそうに微笑んだ。
「あの子は……琥珀は、本人がどれだけ望んでも全てを打ち明けられる友人や想い人など得られませんから。これも王家の定めなのでしょうが、あの子はそんなこときっと耐えられない。私も、苦しむ弟の顔をこれ以上見たくはないのです」
その言葉に、蓮司の頭の中にはかつての猛龍が浮かんだ。そして、そんな猛龍に対して最後に言い放った言葉。
多分、今あの時に戻ったとしても同じことをするのだろうが、蓮司の心は少しばかりチクリとした。
「ああっ!!すっかり話題が暗くなってしまいましたね、申し訳ないです。ああ、そうそう、私の弟は琥珀という名なのですよ、美しい名でしょう?名前に負けず、あの子は本当に可愛い子で。蓮司さんのご子息は?何という名の子なのですか?」
蓮司は一瞬ピタリと固まった。王宮内で名を出すことほど恐ろしいことは無いからだ。
青藍も何か察したのか慌てて撤回した。
「………申し訳ないです蓮司さん。貴方の状況を考えれば言えるわけないですよね」
ええ、と言いかけて止めた。
青藍は違う。青藍とはお互いに信頼しあっている。
青藍は第二王子の心配をしているが、青藍も王家の人間。寂しさは本人が気付いていないだけで一緒だろう。
「問題ありませんよ、青藍様」
「怜、私の拙息の名は怜と申します」
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蓮司が診察を終え去って行った後、青藍はひとり深い溜息をついた。
「まさか、琥珀が言っていた大切な人が……蓮司さんのご子息だったとは」
青藍にとっては、“あの”琥珀が同性を好きになったということ、それは驚きではあったものの、そんなことはもはやどうでも良かった。
(琥珀に言うべきだろうか?蓮司さんに言えば何とか会えたりしないだろうか?)
そんな甘い考えが頭に浮かんでしまった。
蓮司が今王宮にいることは三人だけの秘密。いくら琥珀だとしても言えるわけがないのに。
それに、二人が会えたところでどうにもならないし、実際に二人の想いが結ばれることはないだろう。
青藍が首を突っ込むべきではないのは、誰の目から見ても明らかだ。
(けれど………)
『二人で全て忘れて何処かへ逃げてしまいたかったんだ!!』
琥珀のあんなにも苦しそうな顔を見たのは初めてで、青藍は今でも忘れることができなかった。
それを知っておきながら、何も言うべきではないのはあまりにももどかしく、息が詰まるようだ。
「……………ごめん。ごめんね、琥珀」




