第四十八話
身体が温かくて心地よい、最近人肌恋しかったし。そういえば、最近こうやって誰かと口付けすることもなかったなぁ…もっと深くまでいいだろうか?
____え、人肌?口付け?
あれ、俺、今誰といたっけ……
我に返るまでどれだけ時間が経っただろう。
おそらく三分ぐらいは経っていた気がする。
「「……………ッ!?うわあっ!!」」
二人同時に大きな声をあげ、琥珀の体に覆い被さっていた怜はすぐさま起き上がった。
お互い目を合わせたまま、沈黙の時が流れた。
お互いにお互いの頰が真っ赤になる過程を見ているようで、それはそれで恥ずかしい。
だからと言って目を離したらそれはそれで気まずい。
琥珀は自身の顔が熱くなるのが自分でも分かった。それに気付いて余計に血が巡る。
琥珀は遊び人だ。
素肌を重ねることも口付けも、今更頰を赤らめることではない。いや、初めての時だってこんなことはなかった。琥珀にとってそれは快楽を求める以外何物でもなかったからだ。
だが今の相手は自分が生まれて初めて恋慕している怜だ。初歩の初歩であるこんな行為でさえ一生叶わないと思っていたから、驚きはありつつも何にも代え難いぐらいの嬉しさと、この琥珀が初めて恥じらいを感じているのだ。
琥珀と同じ気持ちのわけがない怜には本当に申し訳ないけれど。
「れ、怜……その」
何か言わなければ、と怜に問いかけたが怜の体はわなわなと震え出してしまった。
「ごめんなさい……珀」
「え?」
そう言ってすぐ、怜は急に 琥珀の唇を拭い出したではないか!?
「ちょっ……と、怜!?」
とても話しづらいが、問いかける他ない。
「男と口付けなんて、私は珀になんてことを……珀の名が廃れてしまう」
「……は!?あんなの不可抗力だって!それに何?俺の名が廃れるって」
怜との口付けを無かったことにしたくなくて、琥珀はまた怜の細腕を掴んだ制止した。
「妓楼での百戦錬磨の名です」
怜は腕を掴まれたまま、大真面目に答えてきた。
琥珀は今過去の自分に会えたとしたらその顔をぶん殴ってやりたい。
全く間違いではないのだが、好きな相手にこんな認識のされ方をして、情けなくて仕方なかった。
どうせなら、今回が初めての口付けです!ぐらい清純でいたかった。
「…………!」
琥珀は気付かなくてもいいことに気付いてしまった。
「いや、怜……それを言うなら怜はこれが初め……」
そう言うと、怜は掴まれた腕を無理やり振り払った。
「うるさい!!」
膨れ面になって、更に蛸ぐらい赤くなってしまった。
その顔があまりにも可愛すぎて琥珀は心臓が撃たれるような衝撃を受け、心の中で「ンッ……!!」と唸った。
怜には本当に悪いが、心から申し訳なく思うが、事故とはいえ怜の初めてが自分なのは優越感が溢れ出してしまった。にやけそうになる口元を必死に押さえ、一人で喜びを噛み締めた。
「ごめんごめん怜!揶揄っているわけじゃないんだ!でも、さっきのは事故だからカウントされないからさ!大丈夫大丈夫!!」
すっかり拗ねてそっぽを向いてしまった怜の肩を掴んで無理やり振り向かせた。
相変わらず顔は赤くて、だけどその目を見ると少し涙目になっていた。
「………え。怜、泣いて……そ、泣くほど嫌?」
そりゃ嫌だろうけど、泣くほど嫌がられるのは流石に辛すぎる。
怜は目をゴシゴシとして俯いた。
「………違います。その…"まだ"っていうことが恥ずかしいだけです。珀に申し訳なく思う気持ちはありますが、別に私自身は嫌じゃないです。」
そのまま聞き流そうとしたけど、ん?とある一言がひっかかった。
____え、い、嫌じゃない!?
「え、怜それって…」
頭が真っ白になって、続く言葉が出てこない。
だけど、怜はまたプイっと顔を背けてしまった。
「明日には父の元に着くのでもう寝ます。珀も早く寝てください」
そう言うと、本当にコテンっと横になってしまった。
まるで良いところで終わってしまった説話のように、さっきの言葉の意味が気になりすぎた琥珀は怜に声をかけようとしたが、叩き起こすのも悪い気がして、辛うじて生乾きぐらいにはなった琥珀の羽織一枚を怜に被せて、自分もそのまま瞳を閉じた。




