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紫苑に露  作者: 花信風描
第三章 再会
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第十六話

猛龍王は青藍の寝台の近くに腰を下ろし、その逞しい手に似つかわしいぐらい優しくそっと彼の頭を撫でた。撫でられた青藍は「………私は子どもではありません」と言いながらも、嬉しそうに頬を淡く染めた。

「それにしても、父上。こんな夜更けにどうされたのです?見張りの者さえ外に出すなど、」

そう問われた猛龍王の表情は珍しく緊張していて、いつもの猪突猛進さが微塵も感じられないほど暫く黙り込んでしまった。

しかし、いつまでも青藍を起こしたままにしたくないと思い、唾をゴクリと飲み、顔を上げ青藍の瞳を強いまなざしで見た。

「青藍、私はそなたの病を完治させ、次期王にさせるつもりだ。」

意を決して出した声は非常に大きく、誰かに聞かれてしまったかもしれないと珍しく心配した。

青藍の表情を見ると、あまりにも突拍子のない発言に心底困惑していた。

だが、そんな表情を見ても、猛龍王は怯むことなく言葉を続けた。

「優秀な医師のあてがある。今、どこで何をしているかは全く分からないが、彼ならばそなたを完治させることができるはずだ………!」

「父上」

青藍は期待を込めながら足早に話す猛龍の言葉を落ち着いた声で遮った。

「徹底的に人払いをなさるから、何を仰るつもりなのだろうと思っていましたが…。最初にお伝えいたしますが、私は次期王になろうなどと思ったことはありません。」

自分の意思とは真逆の答えに猛龍王は思わず立ち上がり、「なんてことを言うのだッ!」と声を荒げた。

それにも関わらず、青藍は変わらず淡々と告げた。

「私の本心です。このように病弱に生まれたのも、私にはその資質がない、王になる器ではないという天命なのだといつも思うのです。」

「………では聞くが、そなたでなければ誰が次期王となるのだ。」

青藍はふふッと笑った。

「父上、分かっておいでなのに、なぜ聞くのです?私には唯一の可愛い弟がいますから。私は本当に琥珀がいてくれて良かったと思うのです。あの子がいなければ次期王の座を決めるのに無駄な労力を使うことになりかねませんから。」

「なぜ清もお前も………同じことを言うのだ…!あやつは…何度も禁忌を犯し王家を穢しているッ!そんな穢れた奴が王になどなれるはずがないだろうッ!?それがこの国の道理だ!先祖が大切に守ってきたこの国が滅びるぞ!」

青藍はまだにこやかに笑っている。

「確かに、琥珀は王家の人間とは思えないほどわんぱくな子ですし、王家の人間が民の世界と交わるなど、先祖や大臣らから糾弾されてもおかしくはないことですが……。しかしながら琥珀は少し幼くて、自分の感情に正直に生きているだけです。きちんと自分の立場を理解させて何か月間か謹慎でもさせれば誰も文句は言わないでしょう。」

「………その人間性があやつの問題だろう。」

なぜ一族は皆琥珀に甘いのか。猛龍王は呆れて大きなため息をついた。幼い子どもだから、愛息子だから、と大目に見ずに、もっと早い段階から身分を剥奪して望み通り民の世界に放り出しておけば良かったと心底後悔した。まさか18になっても善悪の判断がつかないとは思っていなかったのだ。

「それに父上、この国に医官よりも優秀な医師などいるはずがありませんし、いてはいけないはずです。ましてや、部外の者を王宮内に呼び込むなど、それこそ琥珀がしていることより言語道断では?災いが起きるのは自明の理でしょう。私は、ただ私だけのために父上に禁忌を犯させるつもりは全くありません。」

猛龍はまたもや黙り込んでしまった。あまりにもその通りで、この子は勉学すらままならないはずなのに、いつ父親を打ち負かすほど賢くなったのだろうと思った。

しかし、猛龍とてこれが琥珀を非難するいつもの自分と矛盾している行為だと当然分かっていないはずはなかった。だからこそ秘密裏に自室を抜け出し、徹底的に人払いをしたのだ。確かに、大臣らの前で大口をたたいた時は何も考えていなかったが、それから毎晩夜も眠れぬほど葛藤し、出した答えなのだ。猛龍王は、今の青藍との会話を通してもやはりこの子は自分よりも、先祖の誰よりも王にふさわしい資質を持っていると確信した。だから、たとえ青藍自身に反対されても、このことが公にされて自らが罪に問われてもやり遂げたいと強く思った。

「…………否。私は何としてでもそなたを王にする。」

「父上ッ!!」

「私自身が禁忌を犯すのだ。もう琥珀のことは何も口出しをしないと約束しよう。」

「父上ッ!!?私の話を聞いていましたかッ?」

青藍は思わず手を伸ばし父親の肩を勢いよく掴んだ。それでも猛龍の瞳を見て、その奥が熱く燃えているのが分かると手をぱっと離し、父親を止められないと悟った。

「詳細が決まったらまた来る。身体を大事にするのだぞ。」

そう言ってすくっと立ち上がった猛龍王は緊張気味で入ってきた時とはうって変わって、強い意志を感じさせるように堂々と部屋を出て行った。



「ッ!!ゲホッ……」

久しぶりに人と頭を使って会話したからか、父親が出て行くと緊張の糸が切れ咳き込んでしまった。物分かりの悪い父親だとは思っていたが、これはあまりにもまず過ぎると鼓動が急速に早くなるのを感じた。



「……………どうにかしなければ……。」

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