表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

手順

 日経平均が一気に五百円も下がり、市場は混乱していた。どの銘柄も値下がりを示す赤いランプが点灯し、ボードは真っ赤である。一体、どの銘柄に乗り換えれば良いのか。みんな目を血走らせている。反対に穀物市場、原油市場は、猛烈な勢いで値上がりしていた。

 一体、何が起きたというのだろう。信じられない。昨日までのことを、頭の中で整理し、今、目の前で起きている現実を、受け入れようと努力する。しかし、自らの判断ミスとは言え、この現実は受け入れ難い。愕然として、頭が真っ白になった。楽しみにしていた映画ではなく、ニュースが録画されていたからだ。

 今日が雨であることは、前の日から判っていた。だから、ビデオ予約を沢山しておいたのだが、どうやら最後の映画を、間違えてしまったらしい。今度は円相場が急騰している様子が写ったが、巻き戻しボタンを押して、テレビを消す。窓の外には、テルテル坊主が似合う空が見える。


 暇なので、掃除でもしようと思ってハタキを出したが、直ぐにそれは、無謀な行為であることに気付く。部屋には洗濯物がぶら下がっている。振り上げたハタキの行き場に困って、止む無く床をパタパタしたが、どう見てもホウキの方が、効率良さげだ。


 CDプレイヤーでクラッシックを掛けると、ピアニッシモが聞こえない。かといって、ピアニッシモが聞こえる様にすると、今度は、隣のおばさんが玄関を叩く。ワーワー煩い。どうやら怒っていようだ。CDプレイヤーの前で、常にボリュームコントロールをしても良いが、果たしてそれは『音楽鑑賞』と言えるだろうか。いや、言えないだろう。

 やむなく音の出力が割と一定である『ビックバンド』をスタートさせて、雑誌の整理でもすることにした。


 しばらく読んでいなかった雑誌が溜まっている。積み重ねられた雑誌を上から取り上げると、記事は斜めに、広告は格子に読む。三冊目を手にした所で、内容が何だか大分古いことに気が付く。どうやら、新しい順に読んでいたらしい。今更順番を変えるのは、自分の非を認めることになるので、そのまま続行。結論から判って、とても明快である。

「やはりレポートは、まず結論からだな」

 そう自画自賛して、自分の行動を正当化。何でも正当化するのは大事だ。


 薄ら寒いと思ったら、石油ストーブが消えていた。火のことね。まぁ、判るか。この石油ストーブはぬっくいが、すぐに機嫌が悪くなって消えてしまう。その度にご機嫌取り。面倒だ。だから、今まで使っていなかった。

 今は過ぎ去ったあの火、いやあの日、エアコンが壊れたのが、夏の終わり。修理の必要なしとの判断は正しかった。現に、直ぐに冷房の必要がない、快適な気候になった。だから最近だ。このエアコンが、暖房を兼ねていたと気が付いたのは。故に、もはや温暖化対策は待ったなしの状況にあった。

 誰に聞こえるように言った訳でもなく、それでも舌打ちをすると、石油ストーブのタンクを取り出す。同時に『ガチャン』という音がして、ストーブの安全装置が働いた。やかましい。煩いのは嫌いだ。

 石油の備蓄基地まで移動し、電動ポンプのスイッチをONにしたが動かない。ON・OFFを繰り返したが、虚しく音がするだけで反応がない。この現象は電池切れであるとの結論に達した。単三電池はカメラに山ほど使うので、ストックはカメラケースの中である。

 カメラケースを操作する前に、手を顔の中央にある匂い検知器にかけた所『危険』と判断される。だから、足による代行操作が行われることになった。

「手を洗ってから電池を取りましょう」

 頭の上で天使が言っている。それを悪魔が、見事に撃ち落す。

 部屋中に電池が散らばってしまったが、目的は達成された。無事電池を交換すると、電動ポンプは息を吹き返し、石油を吸い上げ始める。そして、数秒で石油が出なくなった。

 今度は理由を導き出すのに、さほど時間はかからなかった。ポリタンクを揺すると『ポコンポコン』と良い音をたて、空であることをにこやかに主張する。何だかそういう時は、かわいくもない音だ。温暖化の危機であったため、両手にポリタンクを持ち、玄関を足で開ける。外は、雨が降っていた。

 雨は嫌いだ。そういえば、財布も持っていない。温暖化対策は先送りということにして、ひとまず手を洗う。


 ふと見ると、石油ストーブの上に置いたヤカンから、力なく湯気が出ている。ポットに入れておけば、やる気が持続すると思ってヤカンを取り、ポットの蓋を開けた。ポットにはさらに力の抜けたお湯、通称湯冷ましが鎮座ましましている。

 このままヤカンのお湯を投入すると、さらにやる気がなくなると思われたので、ポットの湯冷ましを捨てる決意をした。ヤカンを左手に持ち、右手でポットの蓋を押さえながら倒すと、湯冷ましは勢い良く左回りになって、排水溝に吸い込まれて行く。ヤカンを右手に持ち替えて、お湯を全てポットに入れ終えると、替わりに水を入れて石油ストーブの上に置く。次にお湯になるのは何時か。それは不明である。


 台所の窓から見ても雨。この分だと、トイレの窓から見ても雨だろう。雨は嫌だ。今日はインスタントコーヒーで我慢することにして、カップを出す。

 粉ミルクとコーヒーを適当に振り撒くとお湯を入れる。溶けきれない粉が固まって、粒になってしまった。かき回す棒がある引出しを手探りで探すと、余り手応えのない、細長い棒に手が触れた。それは大量にある、ストローの一本だった。まぁ、棒には違いない。にやっと笑うと、クルクルとかき回しながらこたつへ向かう。

 ドリップコーヒーなら、先にミルクを入れておくと、かき回す手間が省けるのにと思う。こたつへ向かう途中電池を踏んだが、コーヒーをこぼすのは防ぐことが出来た。

「コーヒーの一滴は血の一滴」

 古い格言をつぶやいて、こたつに入る。すると不思議なことに、こたつのスイッチが入っていなかった。ダルマスイッチを何度もカチカチする。点かない。見ると、今電池を踏んだ弾みで線を引っ掛け、コンセントを抜いてしまったようだ。根性のないコンセントめ。

 こたつのコンセントを差し込んだが、点かない。ダルマスイッチをカチカチとカチして、解決する。


 ふと見ると、転がっているファミコンを見つけた。自分の部屋なのだから「見つけた」はないのだが、そう思った。ビデオ録画に失敗したので、仕方なくファミコンでもやることにした。

 テレビを二チャンネルにして、ファミコンのスイッチを入れると、挿しっ放しのゲームが動き始める。聞き慣れたオープニングテーマ曲を途中で打ち切って、早速ゲームをスタートさせた。

 一時間程プレイしたが、結局一度もあがれなかった。捨てた牌を引いてしまったり、相手の為にドラを増やしてしまったり、散々だ。一度だけリーチをかけようとした時、ついストローでコーヒーを飲んでしまい、熱さのあまり操作ミスをして、気が付いたら負けていた。

 いつも通り、こたつの天板をひっくり返し『本気モード』にすれば良かった。今日はついていない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ