Mosquito
時計は午前二時、今夜は徹夜になる。残りの作業量から経験がそう言っている。
それならコーヒーでも淹れるか、そう思った時だ。
プウ〜ン
忌まわしい羽音がした。ヤツだ。急いで周りを見渡すがどこにもいない。
非常にマズいことになった。何がマズいって作業に集中できないことだ。ヤツの存在が、付き合いたての彼女からのメールくらい気になって作業が進まなくなってしまう。それに比べたら血を吸われるとかはこの際どーでもいい。早急に決着をつけなければ。
午前二時二十分、ヤツが一向に見つからない。マズい。気づけば二十分も消費してしまっている。だがここで引き退がっては全てが無駄になる。しかしこれ以上時間をかけていられないのも事実、どうするべきか……。
諦めよう。人間諦めが肝心だ。大人しくコーヒーを淹れて作業に戻ろう。遅れた分を取り返さなければならないし、ヤツも見つからないなら居ないも一緒だ。そう思った時だ。
プウ〜ン
ヤツだ! いや、もう惑わされないぞ。無視だ、無視!
ブン! ブゥン!
……いいだろう、相手になってやる。時間の余裕は無い。だが、ヤツは必ずここで始末する。
まずはヤツを視界に捉えるところからだ。然るのち、平日三回休日は二回の「いただきます」で鍛えた僕の音速合掌でその忌まわしいフラフラ飛びを地獄まで叩き落としてやる!
ふぅん
あ! 今羽音で嘲笑したな!? 聞こえたぞ!
そして今、貴様の位置を捉えた! さぁ来い、戦い方を教えてやる!
今、新婚初夜より熱い夜が始まる……!
待てよ、押入れに何かなかったか? 蚊取り線香とか殺虫剤とか。 押入れを開けると結構分かりやすい位置に蚊取り線香があった。火を着けてその辺に置いといた。
程なくして新婚初夜より熱い夜は終わった。
が、既に食われていた僕は痒過ぎて結局集中出来なかった。




