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第3話 猫出現

「月闇の国のアリス」の続きとなります。読んでいない方がいましたら、そちらからお読みください。

 やっと会える。

俺の【アリス】。

あの役目が俺に変わってから、初めての【アリス】。

まだ見ぬ【アリス】。

狂おしいぐらいに愛おしい。



* * * * * * * *



『お姫様抱っこ』


 乙女なら一度はされてみたい抱かれ方。

でも…こんな状況ではされたくなかったな。

誘拐に近い上に、わたしを抱えているのは、とんでもない美形。目のやり場に困るじゃないか。


 それよりこの人って信用しちゃっていいのかな?

何も話してくれないから、どうすればいいのかさっぱり分からない。


「ねえ。どこ行くの?」

「城ですよ。【女王様(クイーン)】がお待ちです」

「クイーン?王様(キング)じゃなくて?」


 普通は、女王様(クイーン)より王様(キング)の方が偉いよね。大富豪だってキングの方が強い。ま、(エース)や2、ジョーカーの方が強いけど。


「此の国では、王様(キング)はいないので、最高統治者は【女王様(クイーン)】なのです」

「へ、へぇ…」


 ホントに変わった国。


「そこに行ったら、家に返してくれるの?」

「それは難しいです。貴女にはやっていただきたいことがありますので。第一、月闇の国(こちら)と貴女の世界の間にいる【門番】は、貴女が【アリス】だということは分かるでしょうし、ゲーム中に貴女が出ていくのは不可能だと思われます」

「…ねえ。【アリス】、アリスいうけど、何よそれ。わたしは有理子(ありす)だって言ってるでしょ」


 ムッとして反論すると、ヴァイスは困ったような笑顔を浮かべた。


「すみません。【アリス】という名の登場人物(プレーヤー)なので」

「は?どういう意味よ」

「貴女は、第十三代目の【アリス】なのです」

「…。…はいぃぃ?!」



*.+。*.+。*




 今から百三十年ほど前。まだ月闇の国と呼ばれぬ昔。

此の国でない世界――有理子がいた世界のことだが――に仕事のために訪れていた【白兎】は、金髪碧眼の少女に追い掛けられてしまい、此の国に逃げ帰ろうとした。しかし、運悪く、連れて来てしまったのだ。

それまで他の世界から月闇の国に訪れた者がいなかったので、住民たちは戸惑ったが、早く帰そうとした。だが、【女王様(クイーン)】は、その少女を気に入ったため、帰さぬようにした。

その事が、【女王様(クイーン)】の婚約者であった、隣国の【魔法使い】に伝わった。【魔法使い】は嫉妬し、月闇の国に【呪い】をかけた。

太陽に(きら)めく少女の金髪を(きら)めかせぬため、太陽を奪い取った。

それに困った住民は、別の魔法使いに【呪い】を解く方法を尋ねた。

その方法とは、元凶となった少女と同じ名の【アリス】という少女が、呪いをかけた【魔法使い】の子孫を探すことが出来たなら解かれるというものだった。

それから、十年ごとに【アリス】と名を付く少女を呼んでいる。



*.+。*.+。*



「…だから、わたしが選ばれたっていうこと?」

「そういうことになります。ただ、金髪碧眼の【アリス=リデル】でない方は初めてです」


 金髪碧眼って、外人さんじゃあるまいし。わたしの場合は、純日本人だから、黒髪黒目だよ。


「え、ずっとアリス=リデルだったの?」

「えぇ」

「そんなんじゃ、区別しづらいでしょ?!」


 わたしが驚いた声をあげると、ヴァイスも本当に驚いたように目を丸くした。

あれ。

初めて見たかも。ヴァイスの笑顔という仮面以外の表情。

何だか、理由は分からないけど


 ホッとする。


「今回の【アリス】は、変わったアリスですね…」

「ちょっと!わたしをツチノコみたいに珍獣扱いしないで…」


 罵倒しようとした言葉がヴァイスの大きな手によって塞がれた。

頭につくウサ耳をピクピクして、険しい顔をしている。


「あれー?【アリス】じゃなーいかー♪」


 どこかおどけた声が降ってきた。

ヴァイスは、目を木の上に光らせながら、屈んでわたしを下ろした。


「危ないので、下がっていてください」

「危ないってなに…が…」


 わたしの言葉が尻すぼみになった。それは、ヴァイスが出した胸ポケットから出した物のせいだ。


 バーンッ!


 木に向かって伸ばした手の先の黒光りするものから、焦げ臭いニオイ――硝煙が漂う。

あれは、『拳銃』。

実際に見たことがなくても、漫画やドラマで「何か」は知っている。


「何か…撃ったの…?」

「いえ、奴はこんなことでは当たりません」


 わたしの怯えた声に気がついたのか、わたしから顔を背けるように、背を向けた。

彼を傷つけてしまったかもしれない。

だけど冷淡に表情を消した彼は


   恐い

恐い


    『あの時』みたいに誰かが死ぬかも

    

      恐い

恐い


 わたしの身体は、いつの間にか後退りをしていた。

そんなわたしの背中が誰かにぶつかった。

何にぶつかったのか見ようと振り返ったが、それをする前に相手の片腕がわたしに巻き付いた。


「へっ?」

「アーリスゥー。ダメじゃないか、きみの騎士(ナイト)から離れちゃ」


 ヴァイスがこちらに振り返り、銃口が向けられた。

おどけたような声が今度は耳元から聞こえた。

きつく抱かれていたが、無理矢理顔を横に向けた。

すると、黒髪だが、金色の瞳を持った青年がいた。

頭に何かが付いているように見えたが、身長差がありすぎて、見えない。

生真面目な執事系美形(イケメン)のヴァイスとは正反対なタイプ。野良猫みたいな自由な感じの美形(イケメン)だった。

こちらの視線に気がついたのか、ふとこちらを向いて可愛いげにウインクまでしてきた。


「【アリス】を離しなさい。さもないと撃ちますよ」

「へぇ〜。出来んの?いくら腕が良いって言っても、こんなにベッタリな状況じゃ無理でしょ?」


 ひぃ…!

ヴァイスに見せ付けようとでもしているのか、顔を近づけてきた。

近すぎだって(汗)!血液逆流しそうだよ!!


「…ゲーム開始はまだなはずです。鐘だって鳴ってないじゃないですか」

「残念。君のご主人様は、待ちきれずに三時間前に鳴らしちゃったよ?」

「…っ。…陛下の馬鹿…」


 飄々(ひょうひょう)と答える黒髪の男にヴァイスは、拳銃を向けながらも憎々しげに唇を噛み締めていた。


 …ちょっと待って。

『陛下』に対して、普通『馬鹿』はないでしょ。

 

 何もできないヴァイスに満足したのか、わたしを拘束していた腕が少し緩んだ。

かと思うと、後ろの気配がしゃがみこんだように思えた。


「白兎くんは何も出来ないみたいだからそろそろおさらばしようかな?」


 わたしの身体が宙に浮いた。

つまり、またお姫様抱っこ。


「はいぃぃ?!」


 わたしを抱える男は、いきなりしゃがんだ。


 次の瞬間、跳びはねたかと思うと、木から木へと飛び移っていた。

すると、遠くからヴァイスの叫び声だけが聞こえた。


「有理子ー!!」


 なんでだろう。

さっきは、恐いと思っていた彼の声でも、生まれてからずっと、普通に呼ばれてきたこの名前がホッとするなんて思ってもいなかった。

 

 って、こんなにボーっとしてる暇はないんだった。

 

 今度わたしをさらった男顔を見ようと視線を上げた。

だが、顔まで行く前に、胸元で止まった。

エメラルド色のクローバーとサファイア色のスペードのネックレスがかかっていたのだ。

シンプルなんだけど、かわいい作りだ。

それを食い入るように見つめていると、何だか眠気が襲ってきた。

このまま無防備に寝ちゃっても大丈夫なのかという心配が頭を掠めたが、睡魔に身を任せて意識を手放した。



 起きたら元の世界に帰れたらいいのに。




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