鐡の骸
近未来SFロボットです。表現があっているかは不明ですが、こんな感じです。読んでいただけると嬉しいです。
「片翼の鐡?」
樹がそう言うと、佐一は興奮したように続けた。
「そうそう!大昔の伝説でよぉ、戦争がある所に突然現れてたった一機で全部潰しちまうっていう最強の機体なんだよ!でも残ってるのは過去の記録だけで今は幻の機体って言われてんだ。なぁ、憧れるだろぉ!?」
「お前はほんっとそういうの好きだよなぁ・・・」
樹は呆れたように教科書に目を向ける。
「んだよぉ、ロマンがあるだろぉ?男のロマンだろロボットってのはさぁ」
「人殺しの道具じゃなかったらな」
「そりゃあ・・・そうだけど」
そう、片翼の鐡と呼ばれているそれは平和の象徴、戦争を終わらせる機体と呼ばれてはいるが、戦争に参加していた人々を全員殺しているのだ。それはその伝説にも書かれてあることだった。ある者は神からの天罰とし、ある者は地獄からの使いだとしている。戦争を文字通り潰した後、その機体は何処かへと消えるのだそうだ。後に残った残骸はその機体の強さと恐ろしさを刻んでいった。だが、あくまでも伝説。それは何十年も前に記された書物に書かれた物だ。それにもしその機体があるのだとしたら今出てこないのはおかしい。今、樹達の国は別の国と戦争の真っ最中なのだから。樹達が居る場所は安全区域、今争っているのは2つの国境の近くにある小さな島の領土についてだ。この小さな島は希少な鉱石が沢山採れる場所で、それをどちらの国が保有するかという事で争っているのだ。
「・・・馬鹿馬鹿しい」
学校の帰り、樹はそう呟いた。こんな下らない争いがいつまで続くのか、何故話し合いで決まらないのかと嘆いていた。そんな時だった。安全区域のはずのこの場所に敵国の機体がさも当然のように上空から落下し、入り込んで来たのだ。
「なっ!ここは戦闘区域外だぞ!?法律さえ守れないのかあの国は!!」
敵国の機体の銃口は樹に向いていた。殺される、そう思った時だった。それは、突如現れた。敵国の機体を一瞬にして切り刻み残骸へと変えた。
「・・・片翼の・・・鐡・・・」
実在していたのかと思ったのも束の間。各地で爆発が起き、次々と機体が降ってきていた。だが、今自分の目の前にはあの伝説の機体が存在している。これでなんとかなる、そう思った時、片翼の鐡は片膝をつき、何かが降ってきた。よく見るとそれは人でおそらく片翼の鐡に乗っていた人物だ。急いで駆け寄るとその人は目を開けたまま衰弱死していた。片翼の鐡はコックピットを開けたまま微動だにしない。
「俺が、俺が何とかしなきゃ・・・!」
樹は機体を登り、コックピットに乗り込んだ。すると、コックピットが自動で閉まり、起動した。動かし方は分からないがとりあえず目の前にあるレバーを触り確かめる。手の部分が動いていると正面の小さなモニターに表示された。足元のペダルを踏むと、片翼の鐡は立ち上がった。
「よし、操作は思ったより難しくない。これならいける、やれるぞ、俺ならやれる!!」
その時、何者かが背中に銃を撃ってきた。しかし、損傷はない。振り返ると敵国の機体が三機こちらに銃口を向けていた。
「やる、やるぞ・・・殺るんだ俺が!!!!」
樹は機体を操作し、一機に向かって走り出した。そのままタックルを決めてマンションに激突する。再び背中を撃たれ、樹は叫ぶ。
「邪魔なんだよお前らはぁぁぁ!!!」
樹の叫びに呼応するかのように片翼が開き、羽根のような刃が敵の機体二機を切り刻んだ。有線のその刃は再び翼へと戻ってきた。すると、タックルした機体がまだ動けたようで、零距離でコックピットに銃口を向けて撃ってきた。樹は恐怖で敵の機体を殴り続けた。頭を殴り潰し、コックピットを殴り潰した。その頃には息が上がって呼吸が荒くなっていた。しかし、まだ敵はいる。どうやらこの機体の存在が敵にバレたようで今いるであろう全機がこちらに向かって来ていた。
「やってやるよ、俺がやらなきゃみんな死ぬんだ!」
樹は自分に言い聞かせるように叫び、背中のブレードを抜き敵へと突撃していった。敵の殲滅はそう時間がかかるものではなかった。何せ敵の攻撃では傷一つ付かず一方的に破壊するだけだったのだから。
「お、終わった・・・」
降りてきた敵の機体すべてを破壊し終わって、樹は放心状態になっていた。
「・・・殺した・・・俺が、俺が人を・・・」
感覚はなかった、だが、人を殺したという事実だけはこの手にあった。涙が頬を伝う。自分が忌み嫌う人殺しになってしまったのだという実感が少しづつ湧いてくる。その時、触ってないはずのレバーが勝手に倒れ、足元のペダルが勝手に踏み込まれた。
「ッ!?な、なんで!?待て!動くなよ!!」
全力でレバーを引くがまったく動かない。片翼の鐡と呼ばれた機体は敵の武器を拾い上げ、街を破壊し始めた。足で踏み潰し、銃で建物を破壊し、大きな建物を切断した。樹はただ呆然とその光景を見るていることしか出来なかった。片翼の鐡が動かなくなる頃には街がすべて破壊され残骸と化していた。
「俺の・・・家が・・・」
勿論、街の中には自分の家もあった。きっと両親が家の中に居たであろうことを想像すると胃酸が込み上げてくる。樹の心情もお構い無しに片翼の鐡は再び独りでに動き始めた。空間に亀裂が走り、空間に穴があく。機体はその中へ入っていった。いわゆるワープゲートだったのだろう。謎の空間を片翼の鐡は通っていた。その何処かへ向かう道中で、樹は一人の男の生涯を見た。ミハイル・アーチボルトという男の人生を。彼は樹と同じく戦争を憎んでいた。脳が進化した生き物でありながら何故、武力を行使するのか、何故行使しなければならないのかと。そんな彼の思考は歪んでいき、いつしか戦争が出来ない程、人口を減らしてしまえばいいという思考へと至った。彼は技術者となり、この片翼の鐡と呼ばれる機体をたった一人で作り始めた。完成する頃には70年という月日が流れていた。オーバーテクノロジー、今で言うロストテクノロジーを使って作り上げられたこの機体は禁忌の機体だった。そして、この機体は彼の名から取ってアーチボルト・インサイトと名付けられた。彼はこの機体に乗ってワープし、戦争を潰して回った。だが、法を犯した彼は捕縛されることとなる。そして、この機体も破棄されるはずだったのだが、最後の抵抗として機体だけをワープさせたのだ。その後、彼は死刑となりその生涯を終えた。何故その生涯が流れているのか、それを考えた時、怨念という言葉が思い浮かんだ。
「まだこの機体に乗ってるんだ・・・怨念となって・・・」
彼はまだこの機体に居るのだ。パイロットを餌として使い潰しながら今も尚、その妄執を果たさんと動いているのだ。
「ーーーーなんなんだよこれ!!!」
樹がミハイルの怨念に囚われている頃、佐一は地下へと逃げ込んでいた。自分以外の人達の波にさらわれながら、樹の姿を探す。
「樹!!居たら返事してくれぇぇ!!」
その声すら悲鳴に掻き消され、届かない。避難してから数時間が経ち、ようやく外に出られることになった。外に出てみると、そこにあったのは残骸だけだった。自分の知る街の光景は一切なく、逃げ遅れた人々が潰れたトマトのようになっている。佐一は耐えきれずに胃の中の物を地面に吐き出した。そんな時だった。国のお偉いさんがやって来て、生き残った人々をある場所へと連れ去ったのは。銃を持った兵士達の指示に従って輸送機から降りると、そこには大きな機体があった。円雷と名乗る技術者が事の顛末を話し始めた。敵国の機体をあの伝説の機体、片翼の鐡が倒したこと。そして、街を破壊したのも片翼の鐡であること。今は敵国のど真ん中に片翼の鐡が出現し、荒らし回っていること。そして、このままでは片翼の鐡に滅ぼされてしまうということ。その為に以前から伝説を真似て最新技術の粋を集めて作り上げた禁忌の機体、片翼の鐡を倒しすべてを終わらせる、その名をクローズ。クローズは万人が乗れる物ではない、適合出来る者のみが乗ることを許される。ここにいる兵士達は乗れず、生き残った者達に適性者がいるか探すということだった。まず一人が選ばれ、コックピットへと乗せられた。その瞬間、その人は叫び声を上げ、硬い地面へと落下した。
「あぁ、言い忘れていたが、我々が試した時よりも更に性能を上げていてね。適正でない者は死ぬんだ」
円雷は落ちて潰れた遺体を見下しながらそう言い捨てた。そんなことを聞かされて乗りたがる者はいない、だが、乗らなければ兵士の持つ銃で無数の穴が開けられる。乗るという選択肢以外存在しなかった。佐一の前に居る人達が乗っては落ち、乗っては落ちを繰り返し、死体の山を積み上げていた。佐一にはその機体が死刑囚に使われる処刑道具のように見えた。そして遂に、佐一の番となった。おそるおそるコックピットに背を預ける。その瞬間、まるで全身に雷が走ったかのような激痛を感じ、悲鳴をあげた。しかし、佐一が死ぬことはなかった。歓喜の声があがる。円雷は興奮して飛び跳ねている。その時、佐一は確かに聞いた。樹の声を。
「樹が呼んでる・・・」
佐一は誰に教わったでもなく、コックピットを閉じ、クローズを動かし、何処かへと向かっていった。
「私のクローズ・・・」
円雷は膝から崩れ落ちた。佐一は向かう、急いで走る。そして、出会う。自分が語り聞かせたあの伝説の機体、片翼の鐡に。
「そこにいるのか・・・樹」
片翼の鐡は振り返り、クローズを、佐一を見据える。そして、彼の声が聞こえる。
「佐一?佐一なのか?・・・頼む、俺を、この機体を殺してくれ!!!」
その声と共に片翼の鐡は襲いかかってきた。だが、その速度にクローズは追いついている。むしろ、凌駕している。いくらオーバーテクノロジーといえど、今の技術には追いついていない。佐一は攻撃せずただ躱している。
「どうにかならないのか!樹!」
「無理だ!もう俺は取り込まれてしまってるんだ!!だから、俺ごと、こいつの妄執に終わりを!!!」
「出来るわけないだろそんなこと!!!」
「頼む・・・」
樹のその言葉には覇気がなく、それが全力だった。
「ッ・・・っっっうわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
佐一は剣を振り下ろす。その一撃はしっかりと片翼の鐡を捉え、袈裟斬りとなる。
「ありがとう」
最後に樹の声が聞こえた気がした。片翼の鐡は倒れ、二度と起き上がることは無かった。そして、短期決戦用だったクローズも同じく機能停止状態となり、パイロットの佐一も意識不明の重体となった。佐一が目を覚ました時、2年の月日が流れていた。街はだいぶ修復が進んでおり、見慣れた景色が戻りつつあった。だが、失ったものがあまりにも多すぎた。クローズに乗った代償として、彼は歩けなくなり、片目が見えなくなった。皆が彼を英雄と褒め称える。彼を表彰し、祭り上げる。だが、彼の心には大きな穴が空いたままだった。そして、その傷が癒えることなく、彼はその生涯を終えた。享年52歳だった。
読んでいただき誠にありがとうございました。いかがだったでしょうか?少しブラックでゴア表現があったりして心が陰ったりしてしまっていないですか?もしそうであれば申し訳ないです。宜しければ感想など頂けると嬉しいです