第二十二話 慣れないことをすると大抵失敗する
本日二話目の更新です。
第二十二話、更新いたしました。
ナナに家から持って来てもらった荷物は単純だ。
ロープなどがいれられたカバンと服。
まあ、服と言ってもボランティアの時にいただいたつなぎに近い掃除用の制服と、服と同じ色の帽子だ。
それに袖を通し着替えを済ませた俺は、ナナに運んでもらい移動要塞サウザーマキナの砲撃範囲ギリギリの位置に存在する林の中に移動していた。
「ナナ、ありがとう」
「どういたしまして」
ロープを肩にかけた俺はレッドファルザーの羽根から作り出された赤いマントを着たナナを見る。
赤い髪の彼女に赤いマントは映える。
少なくとも俺なんかよりも遥かに似合っている。
「あの、ユーマ。ギルド長はなんて……」
「俺がなんとかするって言っておいたよ。ギルド長には怪我人の手当てを任せたから、君はバレない程度に派手に動いても大丈夫」
もしこの騒ぎが終わったら俺の評判はかなりマズイことになるだろうが、それについては後で考えればいいことだ。
「ごめん。また君に私の嘘を……」
「バレたくないんだろ? なら、そういうのは俺に任せとけ」
今だけは開き直っていく。
ギルド長と、他の面々から申し訳なさそうな反応をされてしまったけれども。
「……ユーマ、気を付けてね」
「君は……まあ、うん、平気そうだからいいか」
「そこは言ってよ! 全然平気だけど!?」
ぷんすかと怒るナナにからからと笑う。
不安が紛れたような気がする。
「もう……ふふ、じゃあ、行ってくるね」
同じく困ったように笑みを零したナナは、赤いフードを深く被る。
頭から足元までを覆い隠した彼女は、一瞬でその場から消える。
「さて、行くか!」
頬を叩き、林から出てサウザーマキナの側面から忍び寄る。
砲台の範囲内に入っても反応される様子はない。
やはり、一定の魔力を持つ者を探知しているようで、俺程度の魔力では反応すらしないようだ。
「そろそろか……、っと!」
一斉に砲台が動き出し、同じ方向へと向けられる。
その先には、赤いマントを着た一人の人物が佇んでおり、幾百の砲門を向けられても尚、怖気づくことなく、むしろ堂々とした姿でフードの奥から見据えていた。
「ナナ、任せたぞ……!!」
ナナの役割は誘導である。
味方も相手も、俺の着ていたマントに強く印象付けられているので、服装そのものを俺に近い者にさせ、マントを着てしまえば一見しただけでは変装に気付かない。
『来たわね、ユーマ!! 放てぇ!!』
ロゥリの好戦的な声と共に赤い魔力の砲弾が一斉に放たれる。
弾幕が空を覆い、降り注ごうとしたその時、軽く横へ飛び出したナナが異常な加速を見せながら、追尾する弾幕を振り切った。
『——正体を現したわねぇ!! 撃て、撃ちなさい!!』
俺でさえ目視できる動きということは、相手の意識を釘付けにするためにナナが誘導に徹してくれている証である。
砲弾を手で軽くいなし一撃も当たることなく捌いていく彼女の力に魅入られながらも、頭を振って我に返った俺は、縄を持ち直しながら行動に出る。
「今のうちに……」
ナナが相手の注意を引いてくれている間に何事もなく壊れた足元に到着した俺は、機械的なでっぱりを掴み巨大な足を上っていく。
ボルダリングは元の世界で何度かチャレンジしていたので、経験済みだ……!!
まさかこのような形で活躍するとは思いもしなかったが……!!
「今更、落下死くらいでビビるような俺じゃねぇ……!!」
呆れるほどの高さに微塵もビビりもせずに右前脚の、上部分に辿り着いた俺は、そのまま入れる穴を探す。
……お、予想通りにナナの攻撃で空いた穴がある。
警戒しつつ、そこから中を覗き込んでみると、中は意外にも広い通路のようになっており、見張りの者はまだ通っていないように見えた。
「……ここから入れるな」
入る前に、攻撃を捌き続けているナナに視線を落とす。
一瞬だけフードの奥の彼女と視線があったような気がしたので、サムズアップをした後に躊躇なく中へと入りこむ。
潜入成功……!!
着地すると、穴の開いた壁の隣にこの世界の文字で『8』という数字が刻まれていることに気付く。
「……8? なんの数字だ?」
「こっちも直さなきゃならないなんてなー」
「!」
前方からの声に反応し、すぐさま近くの通路の曲がり角へと移動する。
すると、俺が入り込んだ穴の前に一人の黒づくめの人がやってくる。
そいつは工具箱のようなものを持ち出しながら、一人で愚痴る。
「あぁ、もう。あの化物に構っているせいで修復機能が満足に働かないし……なんて初陣だよ、もう……」
よし、まずはこいつから情報を聞き出そう。
短く持った木剣を持ちながら、音もなく背後から忍び寄った俺は、そのまま首に腕を回すと同時に喉元に木剣を突きつける。
「動くなァ!! この野郎!!」
「なっ……!?」
「今すぐ、テメェのボスの居場所を吐けェ!! この野郎!!」
我ながらものすごくテンパっていることを自覚しながら、黒づくめの男を引きずり近く部屋に移動する。
中は、物置のような場所で尋問には最適な場所だ。
「お、落ち着いて話し合おう……」
「あぁ!? こちとら話し合う余地すらなかったぞ!! この野郎!」
「ひ、す、すまない! 悪いとは思っているがしょうがないことなんだ!!」
「知ったこっちゃねぇわ!!」
まだ俺を相手に話が通じると思っているようだ、このお坊ちゃんは。
いやね? 俺も話がしたいんだよ?
でもね、隙を見せて俺が雑魚だとバレれば一瞬で終わりなので、強気でいくしかないのだ。
「いいかッ、俺はなァ!! めっちゃ怒ってんだぞ!!」
「ひぃぃぃ!?」
「もう怒りすぎて!! なんか、もうッ、本ッ当にカリカリしてんだよ!! この気持ち分かるか!!」
「わあああ、分かりましぇん!?」
「なにがしぇんじゃァ!! 泣きたいのはこっちの方だわ!!」
ど、どどうすればいいんだ!?
脅すか!? 脅せばいいのか!? そんな乱暴なこと一度もしたことないぞ!?
だ、だがやるしかない……!!
「ボスの居場所を吐け! 吐かなきゃまずは……まずは痛いことをするぞコラァ!!」
「ひぃぃぃ!?」
「それかアレだぞ! お前、別な痛いことすっからな!! 想像も絶する責め苦に果たしてお前は耐えられるか……ん!?」
木刀で軽くぐりぐりしていると、不意に男の身体が脱力する。
そのまま腕を放すと、へにゃりと地面へ崩れおちるそいつに顔から血の気が引く。
「おい、おいどうした? 大丈夫か? しっかりしろ」
「……」
「気絶してるだと……」
白目をむいて気絶する黒づくめの男。
きまずい沈黙に頭を抱えた俺は、とりあえずローブを剥ぎ取ろうとして……。
「なんだこれ、脱がせ方が分からん……?」
ローブはなんか着物の帯みたいな帯や金具で結ばれており、剥ぎ取れねぇ。
え、嘘だろ? 予定ではここで変装して中にうまく潜入するはずなんだが!? ただでさえ行き当たりばったりなのに、その行き当たりばったりの計画さえ駄目になってしまったのだが!?
『ただいま外部勢力との戦闘状態にある』
「ッ!!」
頭上から響いてくる声。
その声が屋内の丸いスピーカーから聞こえてくることに気付いた俺は、少しばかり安堵しながら聞こえてくる声に耳を傾ける。
『各自、それぞれ与えられた職務を全うするように。なにか異変があれば魔具で逐次報告するように。繰り返す、ただいま、外部勢力との戦闘状態に――』
……こりゃ、下手に騒ぎは起こせねぇな。
こいつは、その魔具ってもんを持っているのか? 一応、首元やポケット、ボタンなどにおかしいものがないか調べてみると、どうやらこいつはそれらしいものを持っていないようだ。
「どうするか……ん?」
そこで視界にふと映り込んだのはバケツとモップであった。
どうやらここは、掃除用具としての場所を兼ねているようだ。
幸い今の俺の姿は、掃除用務員。
動きやすさを重視し、地味な恰好を選んできたわけだが……。
「やって……みるか……」
演技なんて専門外だ。
なにせ、元の世界では偽ることなく、ありのままの自分でいることを許されていたから。
しかしやるしか道はないので、覚悟を決める。
外でナナが戦っている今、俺だけが今の状況をなんとかできるかもしれないからだ。
潜入開始回。
とりあえず、今回の主人公をよく覚えていてください。




