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第一話 絶頂の終わり

はじめまして、くろかたと申します。


今作は最弱主人公がお送りする勘違い系異世界コメディとなります。

あるようでなかったお話でもありますので、感想を送っていただけたらとても嬉しく思います。

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 思えば、この世界に迷い込んでしまってきてからずっとそんなことばかりを考えていた。

 何もかもがおかしな世界。

 この17年間の人生で溢れに溢れ続けた自尊心も粉々に砕かれ、今もなお現在進行形で粉末状にされても尚、この状況をなんとかしなければならない。


「ふっ、たかが人間なぞ。この魔造兵器の前では塵芥に等しい」


 視線の先で玉座に腰かけた頭に角が生えた少女が揚々とそう言い放つ。


「私はこの世界の覇者となる。全ての生物を我が者にし、最強の軍団を作り上げるのだ……!!」


 年端もいかない少女だろう。

 しかし、その態度も尊大で自分が他の何よりも優れている、とそう信じて疑わない顔をしている。

 事実、そうなんだろう。


「さあ、この魔王の前に跪きなさーい!!」


 だって、こいつ魔王って言っているし。

 この世界に住む住民は生まれながらにして、そう在ることを運命づけられている。

 少女の言葉にため息をついた俺は、そのまま歩き出し、玉座の横をそのまま気付かれず(・・・・・)に素通りする。


「高揚のあまり独り言をする私かわいすぎ……! ……ぶふっ、くふふっ!」

「……」


 後ろでちょっと残念そうに笑っている少女―――魔王と呼ばれる彼女にかわいそうな人を見る視線を向けながら、改めてどうしてここにいるんだろうとと、最初の思考に戻る。

 この世界では俺は異物だ。

 それもとびっきりの、いてもいなくてもどうでもいいくらいの存在。


「俺も強さにものをいわしてみたかったなー……」


 泣き言を口にしながら俺は振り返る。

 ここまでの道のりを、どうして俺が魔王が操る自立移動型巨大殲滅兵器“サウザーマキナ”の中に単身潜り込まなきゃいけないその理由を。

 


 誰かに言われたことがある。

 “お前は百年に一人の逸材”だと。

 賞賛と嫉妬の入り混じった言葉に、当時子供だった俺は頷いた。


『千年に一人だね!』


 クソガキだった。


『みんな、俺くらいになればいいのにな!』


 いや、訂正する。

 とんでもねぇクソ生意気なガキだった。


『俺、なんでもできるからさ』


 調子に乗りやすく、謙遜もしない、そういう業界に出れば速攻で袋叩きに合うような顰蹙を買うような性格をしていた自覚はあった。

 だが、そういう危機察知能力に無駄に長けていた俺は、さらりと目立つようなことを避けるようにし、自分が好きだったスポーツへとのめり込んでいった。


「オッラァ!!」


 力の限りに投げたハンドボールがぐんぐんと空へ舞い上がり落ちていく。

 五十メートルを軽々と超え、ようやく落ちたところでやや唖然とした様子の同級生が記録を口にし、最高記録を打ち出したことを確信する。


「よっし!」

出原(いずはら) 悠馬(ゆうま) 52.4メートル。ハンドボールだぞ? すごいな……どんな肩してんだ」

「フッ、フィジカルモンスターですから!」

「自分で言うなよ。次、宇野」


 先生に苦笑されながらもその場を離れると、クラスメートが口々に俺に話しかけてくる。


「なあ、野球部入らない? 二年からでもお前なら大歓迎だぞ」

「いいや、出原はサッカー部がもらう!」

「いや、ボクシング部だ! お前なら、お前なら世界を目指せる!!」

「卓球部は!? その化物染みた反射神経を生かせるのはここしかないぞ!」

「まあまあ、落ち着け皆の衆」


 俺は運動ができる。

 勿論勉学もパーフェクトな俺だが、それが目立たないほどに俺の肉体は身体を動かすことに特化していた。

 身体は健康。

 怪我も食って寝れば大抵すぐに良くなる。


「宇野、23メートル」

「あぁ、出原の後は嫌すぎるよ。もう」


 出席番号的に俺の後の宇野君が肩を落としてそう呟く。

 そんな彼の肩に手を置き、俺は笑顔を見せる。


「まあ、これが君と俺との差というわけだ。もっと頑張りたまえ」

「こ、この……僕に君を殴り飛ばせる力があれば……!」

「ハッハッハ、なんなら頭脳ですら俺は強いぞ!」

「ねえ、誰か! このゴリラをボコって!」


 投げれば剛腕。

 蹴れば豪脚。

 柔軟ですらそつなくこなしてしまう俺だが、不思議と部活に入る気は起きなかった。

 高校で成績を出せばいいなとは思っていたが、なんだかやる気もおきないしそれなら、ジムにでも行っていた方が有意義だと考えていたからだ。


「で、出原、部活はどうだ?」

「悪い、今は部活とかそういうのに入るつもりはないんだ」

「えー、勿体ないぞ。化物」

「決めた卓球部には入らん」

「「「お前ぇー!!」」」

「ぎえええ!?」


 無茶苦茶軽いノリで人を化物呼ばわりしたクラスメートが同じ卓球部員と思われる数人にもみくちゃにされ始めた。


「フッ、なにか本気になれることをしてみたいぜ」


 そんな光景を見ながらそう口にすると、クラスメートの連中から白い目で見られてしまう。


「傍から見ると、痛いやつだよね」

「それが許されるバグキャラだもん、こいつ」

「なんでこいつ痛い目に合わないの……?」


 本当に好き勝手言ってくれるな。

 しかし、まだまだ体力測定は残っているので最後まで真面目に本気でやらせていただこう。



「今日は上々だったな」


 学校が終わり、今は帰り道。

 慣れた通りを歩きながら俺は今日の身体測定の結果に満足していた。


「去年よりも伸びた。フッ、この出原悠馬、未だに全盛期を知らず……か」


 腕を組み喜びをかみしめる。

 日々の鍛錬は自身を裏切らないものだ。

 俺は特別だ。

 やろうと思えばなんだってできる。

 でも、それをしないのはこれといってやりたいことが見つからないからだ。


「……部活か。……触っていないスポーツのやってる部にでも入ってみるか?」


 たしかうちの学校の部活でやったことないスポーツといえば……弓道部、インディアカ部……か?

 弓道はともかくうちの学校すごい部活があるな……。


「きゃあああ!!」

「あ、あれは大変だぞ!!」


「ん?」


 思い悩みながら橋の上を歩いていると、ふとそんな悲鳴が聞こえる。

 顔を上げて前を見ると、橋の上から見知らぬ男女が川の方を指さして悲痛そうな表情を浮かべている。

 なんだ? と、思いながら俺も川の方を見ると―――、


「ええええ!? 赤ん坊!?」


 川の真ん中に箱にいれられた赤ん坊が流されている!?

 段ボールのような箱にいれられた赤ん坊が、ゆらゆらと揺れながら川のど真ん中を流されている。

 時折、川の音にま混じって赤ん坊の泣き声も聞こえてくるあたり、普通のことではない。


『おぎゃー、おぎゃー』

「いやなんでだぁ!?」


 どんなことしたら赤ん坊が箱に流されるような事態になるんだよ!?

 このまま流されれば海に出ちまうぞ!? かといって船で近づこうとすれば、船の勢いで段ボールがひっくり返っちまうかもしれねぇ。


「……ッ、しょうがない!! そこの人、警察でもなんでもいいから助け呼んでくれ!!」


 スマホと財布とカバン、そして上着と靴を脱ぎ捨て橋の欄干によじ登る。

 危険なのは分かっているが、見てしまったからには放っておけるか!!

 幸いこの橋は大した高さにあるわけではないので、大きく息を吸い川の真ん中へと飛びこむ。


「……ッ」


 なんとか着水に成功し、水から上がった俺は水面に浮かぶ箱を見つけそこまで泳ぐ。

 あっという間に箱にまで辿り着いた俺は、すぐに箱を掴み安堵の吐息をつく。


「よ、よかった……まったく、赤ん坊がなんでこんな川の中を……」


 不注意で箱に乗って流れてしまったんだろうか?

 ……いや、どういう不注意だよ。

 そのまま赤ん坊は無事か、箱を壊さないように中を覗き込む。

 しかし、入っていたのは赤ん坊ではなかった。


「……は? おもちゃの、人形?」

『おぎゃー、おぎゃー』


 中にあったのは着せ替えられた玩具の人形であった。

 壊れたように、ノイズ混じりの泣き声を発しているそれに唖然とさせられる。


「ふ、ふざけんなぁー!! 性質が悪すぎッ……ッ!?」


 やっべ足が攣った!?

 準備体操もしないまま無茶をしてしまったことと、怒りのまま声を上げてしまった勢いで足に電撃が走ったような痛みが走り、そのまま痺れて動かなくなってしまう。


「いや、これ、まずいっ!」


 片足を動かせずパニックに陥る。

 駄目だ、慌てるな、と頭では理解していても体がそれに追いつかない。

 身体が水中へ沈み込む。

 口の中に水が入りこみ、息もできなくなってくる。

 嘘だろ、こんなバカな死に方するのか!?

 俺はこんなところで死ぬような男では……!


「———ががぁ(否ァ)!」


 思い切り水を吐き出し、光の指す上を見上げる。

 攣った足を極力、動かさないようにし腕と右足の力のみで頭上を目指して泳いでいく。

 俺は!

 こんなところで!

 死ぬ!

 男ではァ!!


「ばぁぁい!!」


 口と鼻から水を噴き出しながら俺は水面から浮上する。

 すると、どういうことだろうか。

 先ほどまで足すらつかなかった水底に足が届き、そのまま立ち上がることができる。

 

「はえ?」


 周りは家々が立ち並ぶ住宅街ではなく、青々とした森の中。

 足元を見れば膝までつかるほどの深さの水に、おまけに小さな泉の中。

 全てが先ほどの光景と噛み合わない。

 いや、唯一噛み合うとすれば……無意識に握りしめていた赤ん坊の玩具くらいだろう。


「ココドコ……?」


 持っていた玩具をその場で零れ落とす。

 ゆるやかに溢れだす泉の水の音。

 森の奥から響いてくる聞いたことのない生物の鳴き声。


「……幻覚?」


 しばらくの間呆然としていたがすぐに我に返り、足元の水を顔にかける。

 目が覚めるほどに冷たく透明感のある水が顔にかかり、清涼感と共に顔を上げるも目の前の光景は変わらず、森。


「なるほどな……」


 ここまできて自分の状況が分からないほどバカではない。

 水に沈んだ俺が次に水面に上がった時、別の場所に出ていた。


「ここが、死後の世界ってやつかぁ……」


 俺は死んじまったわけか。

 死んでどこぞの森の中で魂だけで目が覚めてしまったんだな?

 ……。


「うわああああ!? こんなアホなことで死ぬとか笑いものどころの話じゃねぇェェ!?」


 だってあれ赤ちゃんだと見間違うじゃん! ご丁寧に泣いてたじゃん!! ふざけやがってぇ!!

 元の世界では玩具の赤ちゃんを助けるために死んだ奴として失笑されながら後世に伝わってしまうんだぁ……!


「もうおしまいだぁ死ぬしかないってもう死んでるんだった!?」


 されども、まだ俺の意識は続いている。

 どうやらあの世というのも、自動で天国に送ってくれるほど優しくはないようだ。


「三途の川でも探すか……ははっ。……はぁ」


 なにもかもが終わった絶望の顔のままとぼとぼとその場を歩き出す。

 上着もねぇ、靴もねぇ、スマホもねぇ。

 靴下のまま地面を歩いていくと、すぐ近くに川の流れる音を聞きつける。


「そっちか……」


 しげみをかき分けそのまま音の先へと辿り着く。

 そこにはそこそこの大きさの小川が見つかったが、想像していた三途の川とはなにもかもが違っていた。

 どうやらここではないようだ。


「はぁ」

『グラァ……』

「ん?」


 なんだ今の鳴き声? イノシシか? クマか?

 まあ、どうでもいっか。

 重いため息をついていると、すぐ近くの水面が大きく波打っていることに気付く。


「ん?」


 不思議に思い顔を上げると、俺から5メートルも離れていない距離に信じられないほどに大きな恐竜のような生物が、水面に顔を突っ込み水を飲んでいた。

 ……。

 ……、……。


「うわああああああああ!?」

『グラッ!?』


 生まれたばかりの赤ん坊でも出さないような絶叫を上げる。

 その声に、すぐ隣の恐竜、いや違う! ドラゴンも驚きに水面から顔を上げて俺に気付てしまう!

 自分が驚くほどのチキンであったことにひたすらに後悔しながら逃げようとしても、足が恐怖で竦んで動かねぇ!


「は、はわわ……ッ、こ、こぉい! 戦ってやる!!」


 恐怖に足を震えさせながら拳を構える。


『グゥ……?』


 しかし、なぜかドラゴンには可哀そうな奴を見る目で見られてしまう。

 すると、何を思ったのかおもむろに自身の身体に口を近づけたドラゴンは、べりっと鱗を一枚はがすと、それを俺の前に落としてくる。


「……」

『グゥ』


 からーん、と空しい音を立てて目の前に落ちる鱗。

 宝石のような輝きを放つそれ見下ろしていると、「それ持って早く帰りな」とばかりにドラゴンは首を動かしてくる。

 ……。

 ……、……。


「こ、このぉぉぉ! なめやがってぇぇ!!」


 なぜに初対面のドラゴンにかわいそうな目で見られなきゃならねぇんだ!

 しかもその鱗はなんだ!? 餞別のつもりか畜生!!

 怒りで恐怖で竦んだ足を動かし、そのままドラゴンへと殴りかかる。


「食らえぇ!」


 繰り出される渾身の一撃。

 ちょっとした厚さのコンクリートでさえ粉砕する拳がドラゴンへと叩きつけられる。


「い、痛ぇ……」

『ググゥ』


 べしっ、という儚い音が返り俺の腕に痛みが走る。

 痛みに悶える俺に、ドラゴンは呆れたため息を零す。

 こ、この……! なんだこいつ、普通の人間みたいな反応しやがって……!!


『ッ!』


 ん? なんだ?

 突然牙を剥き出しにさせたドラゴンが俺とは別の方向を向く。

 瞬間、大口を空けたドラゴンがその口から信じられない規模の炎を吐き出した。


『ガァァァァ!!!』


 放射状に木々を呑み込み、容易く川の水を蒸発させる炎。 


「え……?」


 それを目の前にして、情けなくしりもちをついてしまった俺が目にしたのは、炎の中を平然と突き進む人影であった。

 見えたのは人影だけ。

 一瞬にしてその人影が炎を進む姿が見えた瞬間、炎を吐き出ししていたドラゴンの身体が後ろへ大きく吹き飛んだ。


「はえ?」


 空中に浮きあがり、仰向けに背中から叩きつけられるドラゴン。

 木々がなぎ倒され地響きが鳴り、打ち上げられた雨のように降り注ぐが、それでも俺の視線は目の前で―――拳を突き出した少女に釘付けにされていた。


「よし、あとは誰にもバレないように素材を剥ぎ取るだけ」

「……」

「周りに気配はないし、いくつか鱗をもらっおっと~♪」

「……」


 燃えるような赤い髪色。

 見惚れてしまいそうなほど、整った横顔。

 火の粉を纏いながら、その場に降り立った……まるでファンタジーに出てくる村娘のような装いの少女は、意気揚々とドラゴンの鱗を数枚はがしている。


「あの」

「!?」


 声をかけてみると、一瞬で目の前から消える。

 あれ? 今、目の前に?

 きょろきょろと周りを見回すと、どういうわけか俺から30メートル以上離れた場所に拳を構えた彼女がいた。


「だ、だれ!? もしかして見てたの!?」

「み、見て……ました」


 俺らしくもなく敬語になってしまった。


「どこから!!」

「え、最初から……」


 そう言うと彼女は驚きの表情を浮かべ、こちらに近づいてくる。

 控えめに言って可愛い印象の女の子であるが、その腕でドラゴンを殴り飛ばしたと思うと恐怖の方が勝ってしまう。


「最初から? この私が、気配に気づけなかった? え、嘘……」

「な、なんだよ……」

「え、まさか……」


 無警戒にじろじろと俺を見てくる彼女に怖くなっていると、不意に両肩を掴まれる。

 ミシリ、というとんでもない握力に頬を引き攣らせた俺に、彼女は満面の笑顔を見せてくる。


「すごい! こんなに貧弱で、ひ弱そうな人見たことない!」

「……」


 初対面でこんな無礼なことを言われるのは初めてかもしれない。

 しかも、笑顔だぞ?

 悪意の欠片もない笑顔。

 俺、いったいどんな地獄にやってきちまったんだ……!?

弱々しすぎてドラゴンに憐れに思われ、はがした鱗のおこぼれをもらう主人公。

元の世界では最強スペックの主人公でしたが、異世界では存在そのものが雑魚(辛辣)


次話はすぐさま更新いたします。

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[良い点] まさかの強弱逆転世界でのロボットもの? [気になる点] 元の世界での出原悠馬のスペックは某残念なパイセンを遥かに凌いでましたか? この世界のモンスターヒエラルキーではスライムが頂点ですか…
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