表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
97/165

牡丹妃の詩

お待たせしました。

 港では、反乱軍の屍が幾重にも積み重なり、小さな丘を築いていた。都督の部隊は、凄惨な光景の中でも乱れ一つ見せず、静謐な殺気を放って防御陣形を維持している。


 戦いは、赤が去った直後に激化した。突撃してくる反乱軍の尖兵せんぺいを、魯の部隊は正面から受け止めた。衝突の瞬間、第一列の盾の壁に意図的な「隙間」が生まれる。好機と見た敵兵がそこへなだれ込むが、それは死への誘いだった。

 二列目の壁に阻まれ、勢いを失った敵を逃さず、一列目が再び隙間を閉ざす。完全な袋の鼠となった敵兵を、三列目の槍兵が盾の隙間から冷徹に突き伏せていった。

 一団を殲滅すると、疲労を見せぬうちに一・二列目が後退し、新鮮な四・五列目が最前線に躍り出る。この一糸乱れぬ「循環」を目の当たりにした脩璃しゅりが感嘆の声を漏らすと、魯が不敵に笑った。

「これはまだ序の口。これより我が軍の本領をお見せしましょう」


 魯の号令一下、部隊が攻勢に転じた。盾を押し立てた「鋼鉄の壁」が前進を開始する。一歩ごとに盾を大地に叩きつけ、「ドン、ドン」という重低音が港に響き渡る。その異様な威圧感に、反乱軍の兵士らは恐れをなし、思わず後ずさった。

 敵が崩れかけた瞬間、魯部隊の中央が大きく後退し、代わって両翼が包囲するように突き出した。

鶴翼かくよくの陣……!」

 華鳳かほうが呟く。懐に誘い込まれ、三方から包囲された反乱軍は、逃げ場を求めて互いに押し合い、密集して身動きが取れなくなった。もはやそれは戦いではなく、一方的な「刈り取り」であった。


「……まるで、淡々と作業をこなしているようだ」

 げんが戦慄を込めて呟くと、華鳳が教え諭す。

「これが戦術だ。名将が鍛え上げた兵の動きだよ」

 魯の笑い声を聞きながら、阮の心にはある種の憧憬しょうけいが芽生えていた。奴婢の自分には許されぬ夢だと知りながら、彼はその戦い様を瞳に焼き付けた。


 一時間に満たない時間で、港の反乱軍は霧散した。戦闘停止の銅鑼が鳴り、魯が脩璃に向き直る。

「お見事でした、魯都督」

「……この混乱の時期でなければ、どれほど誉れであったか。鵬王様、お待たせしました」

 魯が悲痛な面持ちで一礼すると、脩璃は静かに示現しげんを促した。

「さて、れん殿。そろそろ、隠された真実を話していただけますか」


 示現は重い口を開いた。

「……はい。私の名は蓮示現れん・じげん。亡き賢志王の異母弟にございます」

 衝撃の告白に、斉賢せいけん長顕ちょうけんが絶句する。示現は、先々代の王が卑しい身分の侍女に手を付けて生まれた子だった。後宮から追放された親子を密かに支え続けたのが、若き日の賢志であった。恩義を感じた示現は、兄を父のように慕って育ったという。


「賢志様と牡丹ぼたん妃の出会いは、世に流布する噂のようなものではございませんでした。お二人は若き日から、崑国の未来を語り合う同志だったのです」

 示現は、牡丹妃が賢志へ贈った一首の詩を詠み上げた。

『春色は人を悩まして眠りえず、月は花影を移して欄干に上らしむ……』

(春の気配に胸が騒ぎ、眠ることができません。月が牡丹の影を欄干に伸ばすように、私の想いもあなたへ届けばよいのに)

 

 その清らかな恋心から生まれたのが斉賢であった。しかし、その幸せを憎悪が切り裂く。

「皇后の刺客に殺された、というのは世を欺く方便。……妃は、自ら毒を仰がれたのです」

「……何だと……!?」

 斉賢が声を絞り出す。

「妃は、ご自身が生きている限り、皇后と鍾国しょうこくが賢志様を追い詰め続けると悟られた。賢志様と斉賢様の命を救うため、自らの命を身代わりとして捧げられたのです……」

 想像を絶する母の愛と、父の苦悩。斉賢が絶句する中、示現はさらに深く、崑国の闇について語り始めた。

作中の牡丹妃の漢詩ですが、宋代の政治家 王安石の『夜直』という漢詩が出典です。

もとより『夜直』は作中にあったような艶っぽい内容ではありません。物語上都合のいい様に訳を入れさせてもらいました。

史実のものとは違うことをこの場で言い訳しておきます。ご了承ください。


次回の更新は4月8日(予定)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ