勅命
お待たせしました。
じりじりと包囲を縮める兵士たち。絶体絶命のその時、荷車の箱が内側から弾け飛んだ。
「すべてを知っての狼藉ならば、容赦は無用。――構わぬ、かかれ!」
悠然と姿を現した脩璃の号令が響き渡る。それを合図に、箱から飛び出した華鳳や阮、そして車夫に扮していた「破玉」の精鋭たちが一斉に牙を剥いた。
直後、将軍の傍らにいた三十余名の兵が、音もなく次々と崩れ落ちた。
「毒針か……!」
倒れた兵の首筋にきらめく斑模様の針を見つけ、将軍は戦慄した。後方の物陰に、同数の潜伏者がいる。将軍が背後の気配に気を取られた隙に、「破玉」の筆頭・赤が咆哮とともに突進した。
赤の振るう棍棒は、兜越しに兵士の頭蓋を粉砕せんばかりの勢いで炸裂する。赤が突き進んだ後には、なぎ倒された兵士の列が道のように続いていた。
その傍らでは、華鳳と阮の師弟コンビが実戦さながらの修練を繰り広げていた。
「ほら阮、次は左だ!」
「はいッ!」
必死に食らいつく阮。その戦いぶりに触発され、オユンも「血が騒ぐわ!」と短刀を手に乱入する。彼女の素早い身のこなしに、兵士たちは手首を斬り裂かれ、なす術もなく転がった。
形勢不利と見た将軍が懐から笛を取り出し、援軍を呼ぼうと鋭い音を響かせる。
「ピィィィィィ――!」
だが、その音を切り裂くように赤の剣が閃いた。笛は両断され、将軍は後退を余儀なくされる。
「お主、名を聞こう」
「……名乗る必要はない。死ね」
二人の一騎打ちが始まる中、示現が先陣を切って包囲の一角をこじ開けた。
「皆様、こちらです!」
その鮮やかな剣捌きは、陽明が「相当な使い手ですね」と舌を巻くほどだった。
一団が検問所を突破した頃には、背後の敵軍はほぼ制圧されていた。悠然と立つ赤の足元には、泡を吹いて倒れた将軍の無残な姿があった。
◇
一行は示現に導かれ、大型の楼船がひしめく軍港へと辿り着いた。
「皆様、お急ぎください!」
追撃する新手の兵数百人を赤たちが食い止める中、脩璃たちは将軍旗の翻る楼船へと駆け上がった。甲板では、威厳ある壮年の将軍が待ち構えていた。
「お待ちしておりましたぞ、蓮殿」
「お待たせしました、魯大都督」
斉賢が困惑の声を上げる。
「蓮だと? 一体誰のことだ。示現、説明しろ!」
示現は答えず、代わりに壮年の将軍――水師大都督・魯忠漣が斉賢の前に跪き、抱拳礼を捧げた。
「御前にて拝謁つかまつる。私は水軍を預かる魯と申します」
次の瞬間、示現の纏う空気が一変した。彼は懐から「白璧紅龍」を高く掲げ、朗々と宣言した。
「勅命である! これより本璧を第二皇子・崑斉賢に下賜する。併せて崑国璽を継承せしめ、これより崑斉賢を『新崑国王』に任ずる。――以上!」
「ははっ、謹んで拝承いたします!」
魯大都督が平伏する。示現は呆然とする斉賢の手に、白璧と国璽を半ば強引に押し付けると、自らも甲板に膝を突いた。
「……示現、お前……」
手の中の重みに、斉賢はただ狼狽し、後ずさるしかなかった。
次回の更新は3月25日(予定)です。




