示現の秘密
お待たせしました。
残酷な描写があります。
汗明の勧めに従い、酔いの残る賢帥はある将軍を自陣へ呼び出した。深夜の急な呼び出しにいぶかしみながらも、将軍は総大将の命に従い、一人その元へと赴いた。
他愛もない会話を交わす賢帥の背後。物陰に潜んでいた汗明が、獲物を狙う蛇のごとく音もなく飛び出した。
一閃――。
鮮血が夜の闇を濡らし、将軍の頭部が地を転がった。噴き出した血溜まりが賢帥の足元をじわじわと湿らせてゆく。
「賢帥様、時が来ました。参りましょう」
「……うむ」
返事をする賢帥の瞳は、どこか虚ろだった。
陣を出た汗明は、直ちに伝令を呼びつけた。「全軍出陣、阿望宮へ向かえ」という常軌を逸した命に伝令が怯むと、汗明は血の滴る剣をその頬に押し当て、凄んだ。
「総大将のご命令だ。命が惜しければ、一刻も早く走れ」
足元に転がる無残な骸を目にした伝令は、顔を蒼白にして馬を駆った。手始めは成功した。汗明の冷酷な笑みとともに、崑国の長い夜が始まった。
阿望宮に反乱軍が到着したのは、薄明の夜明け前だった。
欠伸をしていた衛兵が、地平線を埋め尽くす松明の列に目を剥いた瞬間、風を切る音が響いた。上官の喉を一本の矢が貫き、それを合図に矢の雨が降り注ぐ。
緊急事態を告げる鐘が鳴り響くも、時すでに遅し。汗明が用意させていた破城槌が、重厚な城門を内側から震わせる。「ドォン、ドォン」という不吉な重低音が、眠れる王都を震撼させた。
◇
その頃、国王・賢志は自室で、人目を忍んで招き入れた「ある人物」と対峙していた。
「……破城槌の音か。よもや、ここまで早く仕掛けてくるとはな。だが、易々と首を差し出すつもりはない。お主はここを脱出し、手筈通りに事を運べ」
影のような人物は、王の命を受けると音もなく闇へと消えた。
◇
「脩璃様、お急ぎください! 謀反です!」
示現の叫びで、脩璃は寝所から飛び出した。反乱軍の指揮官が賢帥であると聞くや、直ちに阮を走らせ、全員を叩き起こさせた。
現れた影の護衛「赤」に、脩璃は静かに問う。
「赤、脱出経路は?」
「破玉の者が、昆命からの秘密ルートを確保中です。ご報告が遅れ、申し訳ございません」
「構わない。赤はこれより、常に僕の背後を守れ」
三十分後、斉賢の部屋には鵬国の一行が集結していた。そこでは斉賢と叔父の長顕が、互いの身を案じて激しく言い争っていた。
「叔父上、あなたこそ出国すべきだ!」
「いいえ、私はあなたを守ると妹に誓った。命を懸けてもお守りする!」
決着のつかぬ議論を見かね、脩璃が割って入った。
「ならば、お二人とも鵬国でお預かりしましょう。ねえ、陽明?」
背後に控えていた陽明が、スッと前に出る。
「左様にございます。我が国では現在、新しい商業港の建設を進めております。崑国の海運に精通した人材を求めていたのは、他ならぬ王様の先見の明にございます」
呆気にとられる一同を余所に、脩璃はややすごみを見せて二人に迫った。
「猶予はありません。今すぐ結論を」
脩璃の熱意と、長顕の深い忠義。それらが斉賢の心を動かし、ついに二人は共に崑国を出る決意を固めた。
「さて……決まりですね。長顕さん、急いで準備を」
脩璃は優しく微笑むと、次にその視線を、じっと黙っていた示現へと向けた。その瞳は、すべてを見透かしたかのように鋭く光っている。
「……ところで示現さん。これから僕たちが『どう動くべきか』、もうご存じなのでしょう? 教えていただけますか」
示現がぎょっとして息を呑む。
脩璃は疑念を抱いていた。なぜ、「破玉」の精鋭よりも早く、この男が謀反を察知できたのか。
示現の狼狽した反応は、脩璃の予測が「確信」であると裏付けるに十分なものだった。
次回の更新は3月11日(予定)です。




