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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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汗明の陰謀と王妃の覚悟

お待たせしました。

 麟国りんこくの精鋭が柏陽長城に到着する数日前。北狄ほくてきの本陣、単于ぜんうの座す巨大なゲルでは、重苦しい軍議が開かれていた。

 単于は息子のテゥルクに視線すら合わせず、この一ヶ月の失態を副官たちに厳しく詰問した。一歩間違えれば首が飛ぶ恐怖の中、副官たちは滝のような汗を流し、言葉を選びながら必死に弁明する。

 ついに怒りが頂点に達した単于は、椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。


「この愚か者が! なぜ無謀な力攻めを繰り返した? お前の甘い判断で、どれほど勇猛な戦士を無駄死にさせたと思っているのだ!」

 凍りつくような叱責に、テゥルクは奥歯を噛み締め、俯くしかない。

「正確な報告すら怠った。これは我への裏切りも同然……。テゥルク、貴様を斬首に処す!」


 その宣言に、列座する部将ノヤンたちは息を呑んだ。だがその時、西部の大部族を束ねる長・ベルグが異を唱えた。

「単于、お待ちくだされ。テゥルク殿はまだ若い。この苦い経験は今後に活かすべきかと」

 続いてもう一人の有力者、アルグも同調する。彼らの働きかけにより、単于は唸るようにして剣を下ろし、テゥルクを謹慎処分に留めた。


 しかし、これは慈悲ではない。北狄は多くの部族が寄り集まった集合体であり、単于の地位は部族間の微妙な均衡の上に成り立っている。ベルグとアルグの二人は、単于に恩を売りつつ、テゥルクを自陣営に引き込もうと画策していたのだ。

 かつて彼らが息子たちの嫁にとオユンを奪い合った際、政略結婚を嫌った彼女が逃げ出した先が、あのほう国の臨光りんこうであった。単于は二人の思惑を百も承知で、逆に彼らの兵力を削ぐ機会を冷徹にうかがっていた。


 軍議の最後、神託の儀式による「くじ引き」が行われた。羊の血がなみなみと注がれた瑠璃るりの器の前で、次なる先陣はアルグに決定した。不敵な笑みを隠す単于。彼にとっては、増長する二大部族のどちらが先に消耗しようと、好都合だったのである。


 ◇


 その頃、こん国の脩璃しゅりは最大の難題に直面していた。

 脱出にあたり、オユンにどう真実を伝えるか。彼女を北狄との平和交渉の切り札として保護したいが、不用意に真実を明かせば、王である自分に斬りかかってくる恐れもある。そうなれば、彼女を法で裁かねばならなくなる。


 迷う脩璃に、決断の時は残酷な形で訪れた。

 崑国の街中に「北狄来襲」の布告がなされたのだ。たまたま布告を目にした陽明ようめいが、慌てて竹簡を手に脩璃の部屋へ飛び込んだ。だが時すでに遅く。そこには既に報せを聞きつけ、氷のような眼差しで脩璃と対峙するオユンの姿があった。


 ◇


 一方、しょう国の工作員・汗明かんめいは、崑国の王妃と秘密裏に接触していた。歴代国王を祀るびょうの静寂の中、汗明が北狄侵攻の報を告げる。

「……つまり、今がその時か」

 王妃の声は低く、凄みに満ちていた。彼女は香炉に線香を突き立てると、歴代の王たちへ黙礼を捧げた。その背中には、長年溜め込んできた怨念が煮えたぎるマグマのように渦巻いている。

「汗明、準備が整い次第取り掛かれ。わらわも息のかかった者たちに伝えておく」

 静かに廟を去る王妃。その後姿を見送りながら、汗明は深々と頭を下げた。崑国の地底で、破滅へと向かう巨大な地殻変動が始まろうとしていた。

次回の更新は2月18日(予定)です。

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