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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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新たなる予感

 脩奏しゅうそうは、梅花が手際よく片付けた机の上に、図面と竹簡を勢いよく広げた。


「これを見るのだ、脩璃。さあ、刮目せよ!」


「脩奏兄さん、顔が近いよ……。まあ落ち着いて。梅花、お茶を」


 催促する前に、梅花ばいかはすでに湯気の立つ器を差し出していた。阿吽の呼吸である。


「おお、喉が渇いていたのだ。……プハァー、うまい! さて、お主の意見を聞かせろ!」


 嵐のような兄に苦笑しつつ、脩璃しゅうりは図面に目を落とした。そこに描かれていたのは、人力の風で穀物を選別する機械――前世の記憶にある「唐箕とうみ」に酷似していた。


 地方の農家で育った宇都宮隆にとって、納屋の隅で埃を被っていたあの木製の機械は、幼い頃の格好の遊び道具だったのだ。


「兄さん。そもそも、なぜこれを作ろうと?」


「お主が作った『紙』が原因よ! 年端もいかぬ弟が民の生活を根底から変えたのだ。兄たる吾輩が、ただ城に踏んぞり返っていられるか!」


 脩奏はそう言って、大仰なポーズを決めた。


「実際に民の苦労を見ずして、何が発明だ。ゆえに吾輩は城を抜け出し――」


「「はぁ!?」」


 脩璃と梅花の叫びが重なった。


「兄さん、抜け出したって……不法脱出ですよ。警備担当の首が飛びかねない」


「民が収穫の際、玄米ともみ殻を分けるのに難儀しているのを見てな。これだ! と思ったのだ。だが、吾輩一人では構造の限界があった。ゆえに、弟よ。知恵を貸せ!」


 奇人で通っているが、この兄は兄なりに、この国の民を愛しているらしい。


「……いいでしょう。条件付きで、コンサルティングを引き受けます」


「ほう、条件とな?」


 脩璃は兄の耳元で「ある取引」を囁いた。


「……なるほど、そこに目を付けるとは。よかろう、吾輩の秘密を教えてやる! 交渉成立だ!」


 そこからは、元商社マンと宮廷の奇人による、狂熱の共同作業が始まった。


 脩璃が前世の記憶を頼りに「風の通り道」や「羽根の角度」を提案し、脩奏がそれを超人的な速度で図面へと落とし込んでいく。構造上のボトルネックを指摘し合い、最適な比率を導き出す。


 窓から朝日が差し込む頃。ついに、完璧な設計図が完成した。


 ふと見ると、部屋の隅で梅花が座ったままスヤスヤと寝息を立てている。


(……悪かったな、梅花。時間を忘れるほど夢中になってた)


 懐かしい感覚だった。商社時代、大型案件のプレゼン資料を朝まで作り込んだあの熱気が、今の自分にはひどく心地よかった。


「できたのだぁぁぁぁ!!!」


 脩奏の爆音が響き、梅花が飛び起きた。


「も、申し訳ございません! 脩璃様、不覚にも!」


「いいよ、見てなかったから」


 微笑む脩璃を置き去りにして、脩奏は図面を抱えて立ち上がった。


「では吾輩は戻る! すぐに工房でプロトタイプを組まねばならんからな!」


 嵐のように去ろうとする兄の背中に、脩璃が声を飛ばす。


「兄さん、約束の秘密を!」


「おっと、そうであった」


 脩奏は再び脩璃に寄り添い、小さな声で約束を果たす。そして最後に、不穏な警告を付け加えた。


「それと脩璃、気をつけろ。第二皇子の脩晟しゅうせいがお主に会いたがっておったぞ。あの兄は『脳筋』ゆえ、話が通じぬからな。さらばじゃ!」


 脩奏が去った後の静寂。


 脩璃は、梅花を「命令だ」と言いくるめて休ませに行かせた後、一人でお茶を啜った。


 第二皇子、麟脩晟。翠夫人を母に持つ、脩奏の同腹の兄だ。


 二十歳にして軍の中枢に身を置き、武芸と練兵に明け暮れる生粋のアウトドア派。


(……脳筋の武闘派兄上か。接待ゴルフの相手よりはマシだろうが、また面倒なことに巻き込まれる予感がするなぁ)


 朝日の眩しさに目を細めながら、脩璃はこれからの波乱を予感して、少しだけ口角を上げた。



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