表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
81/165

遭遇戦とある戦術

お待たせしました。

 帰還兵を迎えに出たほう軍の将軍は、丘の上から平原を見渡し、思わず息を呑んだ。

「おいおい……ざっと二万か。とんでもない大軍だぞ」

 だが、その先には帰還兵を収容し、こちらへ駆けてくる味方の姿があった。

「将軍! 敵の先鋒千騎が迫っています。このままでは追いつかれる!」

 副官の叫びに、将軍は手綱を強く握り直した。

「……深追いはするなとの命令だが、背は貸せん。これより戦闘を開始する。各千騎、丘の背後に隠れよ。ここで王様が考案された『あの戦術』を実戦で試す!」


 ◇


 丘の背後に二千の伏兵を配置し、将軍率いる本隊七百は、あえて姿を晒して丘を下った。

「お前たちはこのまま柏陽長城へ向かえ!」

 駆けてくる収容部隊とすれ違いざまに指示を飛ばし、道を開ける。その中には、あの兵卒を抱え、安堵の表情を見せる隊長の姿もあった。


 目標を北狄軍に定めた将軍は、剣を掲げた。

「騎射用意!」

 その指示とともに、鵬軍の騎兵が手にしたのは、脩璃が設計した新兵器――『連弩れんど』であった。

 通常の弓を遥かに凌ぐ射程と貫通力を持ち、内部に矢筒を内蔵することで連続射撃を可能にしたこの弩は、騎兵にとって究極の飛び道具である。


「左右展開、射撃始め!」

 鵬軍は円を描くように左右に分かれ、敵軍の側面を掠めるように走りながら、連弩を連射した。北狄の千人隊長は愕然とした。弓を持っていないはずの敵から、見たこともない距離で矢の雨が降ってきたからである。

「クソッ、何だあの飛距離は! 構うな、一気に押し潰せ!」

 蛮勇を奮って突撃を続ける北狄軍だったが、先頭の馬が次々と連弩に射抜かれ、落馬した人馬が後続を巻き込んで激しく転倒した。


 ◇


 敵の速度が落ちたのを見計らい、将軍は次なる策へ移行した。

「突撃体勢に集合! 怯えたふりをして逃げるぞ!」

 鵬軍は密集陣形を組むと、一転して敗残兵のように丘の方へと逃走を始めた。

「逃がすか! 鵬の弱虫どもめ、一気に仕留めてくれる!」

 勢いに乗った北狄軍が丘の頂上を越え、緩やかな下りに入った瞬間――彼らの視界に、待ち構えていた鵬軍の「横陣」が飛び込んできた。

「……罠か!」

 千人隊長が気づいた時には遅すぎた。加速した騎馬は止まれない。そこへ、至近距離から七百挺の連弩が一斉に、かつ絶え間なく矢を叩き込んだ。


 さらに、混乱する北狄軍の両脇から、伏せていた二千の騎兵がくさびを打ち込むように襲いかかった。

 前方からは連弩の嵐、左右からは猛烈な突撃。側面を突かれた騎兵はあまりに脆い。北狄の誇る精鋭たちは、なす術もなく瓦解していった。


 凄まじい殲滅戦を冷静に見つめる将軍に、副官が震える声で言った。

「……『釣り野伏せ』、恐ろしい威力ですな」

「ああ。間合いの難しい戦術だが、嵌まればこれほどとは。……副官よ、最も敵に回してはいけないのは、あの少年王かもしれんな」

「同感です。我々は歴史上の英雄の誕生を目撃しているのかもしれません」


 ◇


 数刻後、テゥルクが丘の頂上に達したとき、目の前に広がっていたのは、物言わぬむくろの山であった。

「なんだ……これは……っ!」

「テゥルク様、追撃させた千騎が……全滅しております!」

 草原を赤く染める自軍の惨状に、テゥルクは鞍を拳で叩きつけ、血走った眼で地平線の彼方を見据えた。

「おのれ、鵬の王め……生かしてはおかん……!」

 初戦での手痛い敗北。それは、北狄軍にとって未曾有の屈辱の始まりであった。

次回の更新は12月18日(予定)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ