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第五皇子はどこへいく!  作者: 太白
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初戦の駆け引き

お待たせしました。

 脩璃しゅりらが昆命こんめいに到着して数日。ほう国北端、朔北さくほく砦の朝は、一発の鐘の音によって破られた。

 朝靄あさもやの向こう、地平線を埋め尽くす黒い蟻の群れ。それを見た物見兵の顔から血の気が引いた。

「敵襲――! 北狄軍だあぁぁっ!」

 砦内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなったが、隊長の怒声がそれを鎮めた。

「慌てるな! 計画通りだ。急報担当は柏陽長城はくようちょうじょうへ走れ。残りの者は毒を仕込んだ食糧と酒を配置し、直ちに撤退せよ!」

 兵たちは無駄な抵抗をせず、手際よく砦を「空」にして脱出した。これこそが大司馬・紫苑が授けていた防衛計画の第一段階であった。


 ◇


 北狄軍の先鋒二万を率いるテゥルクは、無人のように静まり返った朔北砦を冷笑とともに見つめていた。

「所詮は鵬の腰抜け共よ。我が軍の威圧感に、戦う前に逃げ出したか」

 破壊槌によって容易く城門を打ち破り、北狄の兵たちが雪崩れ込む。報告によれば、砦内には兵の姿こそないが、大量の干し肉と酒が残されているという。

「ハッハッハ! 逃げ足だけは速いようだ。全軍、ここで休息をとれ! 最初に突入した部隊には、褒美としてその酒と食糧を振る舞え!」

 勝鬨かちどきが上がり、兵たちは奪った酒を浴びるように飲んだ。テゥルクもまた、初戦の容易さに勝利を確信し、軍議に花を咲かせていた。


 異変が起きたのは、二時間後だった。

 先ほどまで騒がしかった砦内から、ぴたりと物音が消えたのである。不審に思ったテゥルクが部下を走らせると、戻ってきた兵の顔は土色に変色していた。

「テゥルク様……な、中に入った者たちが……全員、泡を吹いて倒れております!」

「何だと!?」

 テゥルクが駆け込むと、そこには地獄絵図が広がっていた。酒を煽り、肉を食らった千人隊の兵たちが、一人残らず絶命していたのである。

「クソッ! 謀られたか、鵬の老いぼれめ……っ!」

 テゥルクの怒号が響くが、時すでに遅い。この「毒酒」による足止めにより、北狄軍は行軍の中断を余儀なくされた。


 ◇


 一方、身軽な装備で柏陽長城へとたどり着いた砦の兵たちは、将軍・楊梧桐ようごとうに敵襲を伝えた。

「大司馬様の計略、見事に的中いたしました!」

 梧桐は力強く頷き、即座に全軍へ下知を飛ばした。

「よし。紫苑様の計画通り、全要塞を閉鎖せよ! 早馬を飛ばせ。銀盤宮へ、そしてこん国にいる紫苑様のもとへ、北狄侵攻の報を届けろ!」


 かつて明鵠めいこくの時代には、予算も士気も足りず、ただ蹂躙されるのを待つだけだった北部戦線。だが今は違う。脩璃がもたらした富と、それによって整備された通信網、そして紫苑の知略が、北の鉄騎兵を正面から迎え撃とうとしていた。

(いよいよ、始まるか……)

 梧桐は無意識に剣の柄を強く握りしめた。大陸を揺るがす戦火の幕が、ついに切って落とされたのである。

次回の更新は12月12日(予定)です。

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